16手間
ギルドで報告した後、宿で寝ていると部屋の戸を叩く音で目を覚ました。
くぁーと一つ欠伸をして、窓を見ると外はまだ真っ暗で夜も明けていないようだ。
「なんじゃ、こんな時間に何用じゃ」
「ギルドの者です。昨日の報告の件で、即座にギルドに来るようにとの、ギルド長からのお達しです」
「相分かった、仕度をしたらすぐに向かうのじゃ」
では、失礼しますと声の主は今の返事を伝えるためか駆け足で離れていった。
「まったく、こんな時間に叩き起こされるとは、早めに寝ておいて良かったのぉ」
そうひとりごちると、手早く水を含ませたタオルで顔などを拭き、髪を櫛で梳かし
手早く髪を整えると、寝間着を脱ぎ下着を変え、さっそく昨日買ったもののうち
黒のスパッツと、袖なしの膝上丈の前で合わせる薄紅色の花柄着物の様なものに着替える。
「うぅむ、狐といえば着物じゃろうと似たようなものを揃えたが、ポンチョには合わんか…?」
さすがに選んで着替える時間は無かろうと出しておいた荷物をすべて回収し部屋を出る。
受付に誰も居なかったが、カギを返却しておけば問題ないらしいので、カウンターに置いて宿を出る。
通りに出るとまだまだ外は暗く、月もなく明かりも無いが、夜目が効くのか十分視界は確保できた。
「うーむ、月は見えぬの。元々無いのか今見えぬだけか…これはこれで楽しみじゃの」
誰もいない通りで、伸びをしつつそう呟くと速足でギルドに向かうことにした。
ギルドに入ると、受付の部屋には既に何十名かのハンターとギルド長が待っていた。
その中にアレックスの姿を見つけ、さっさとその横に移動する。
「よう、遅かったな。セルカで呼ばれた奴はお前さんが最後らしいぜ」
「ふむ、これでも急いだ方なんじゃがのぅ」
そう小声で話していると、ギルド長が全員が来たのを確認して頷き、話を始める。
「今日こんな時間に集まってもらったのは、西の森で魔物のスライムが確認されたからだ」
何故なのかを聞かされてなかったのだろう、ワシとアレックス以外のハンターが、
ざわざわと規模は、とか倒したのか、などと俄かに騒ぎ出す。
「スライム自体はそこの嬢ちゃんとアレックスが倒したからおそらく大丈夫だ。
スライムに遭遇するまでの四半刻、魔物はおろか魔獣にも会わなかったそうだ。
魔獣はスライムが食っちまったんだろうが、問題なのは、そこで大規模な争いの形跡がなかったそうだ。
一応、近隣のギルド支部に聞いたが、特に人同士での争いも報告はない」
そこまで一気に話し終え、少しだけ周りを見回す仕草を見せ。
ただし、と前置きをしてから再度話し出した。
「唯一、隣街の支部からこっちに向かった三のハンター5名が行方不明なのだけが分かった。
出た時期から考えると、こっちに2,3日前には着いてないとおかしい。
西の森付近でスライムが発生するほどの事に巻き込まれた可能性もある。
報告では十以上のスライムが確認されたそうだ、ハンター5人では到底数が合わない。
魔物が争った形跡も遭遇地点では無い、戦争も無い。
未知の原因である可能性が非常に高い。なのでこの時間から西の森に向かえば
夜明け前には森の入り口には着くだろう。
そこで最終確認をし、夜明けを待って森の中に突入し、日暮れ前まで出来る限り探索を行う。
以上だ。質問については道中受け付ける。今回は緊急事態につき私も行く」
では、移動を開始する。そうギルド長が言うや、ぞろぞろと皆が西の門に向かいだす。
「未知の原因のぉ…アレックスは何か分かるかえ?」
「さあな、俺が考え付くならギルド長がわざわざ未知だなんて言わねぇだろ。
どっちにしろ未知のものを探し出すのが俺らハンターの仕事だ」
門に着き、印をまた付ける。夜明け前の為まだ門は開いてないので、衛兵用の通路から外へ向かう。
「のう、この通路があるなら、門が閉まってても中に入れるんじゃないのかえ?」
「いや、この通路は外出専門だ、急病人とか緊急の伝令でもない限り無理だ」
そうか、それは残念じゃと通路を通り外へ出ると、皆一言も喋る事無く西の森まで歩く。
東の空が白み始めたころ、ギルド長を先頭とした一行は西の森の入口へと着いた。
「さて、ここからパーティで別れて探索してもらう」
そうギルド長が言うので、これから組むのかと周りを見渡すと、
すでにいつものメンバーで纏まってるのか、皆3から5人のメンバーに分かれていた。
「では、探索する地域だが、西の森外周は昨日のうちに他のハンターが調べている。
こちらは異常無しだそうだ。アレックス、遭遇した場所までは行けるか?」
ギルド長が聞いてくるので、アレックスの代わり答える。
「そこまでなら、ワシが道を覚えとるから大丈夫じゃ」
「じゃあ、そこから奥の調査を頼む」
次にとギルド長が別のパーティに指示していると、アレックスが話しかけてきた。
「目印も付けなかったのに、よく場所なんてわかるな、さすが獣人ってか?」
確かにそこまで着けるというのは分かるが、かなりふわっとした道順がワシの頭の中に浮かんでくる。
案内はできるが、細かい説明は出来ないであろう。これが獣人の特徴なのであろう。
ダンジョンでも有効なら、これはかなり有利じゃなと思いつつ。
「そうじゃろう、そうじゃろう、もっと褒めたたえてもよいのじゃぞ」
むふーと胸を張っていると、ギルド長が探索場所の指示を終えたのか、手を叩き注目を促す。
「さて、森の中じゃあ、狼煙なんかの合図は使えねぇ。笛も魔物の群れが原因だった場合は危険だ。
なので今回は特別に魔具を貸し出す。数が無いから、各パーティのリーダーだけ取りに来てくれ」
「ふむ、パーティのリーダーか。ワシはまだ新米じゃし、ここはアレックスに任せるのじゃ」
そういやそうだったな、とアレックスが頷きギルド長から魔具を受け取ってくる。
見ると、浅葱色にほのかに光る涙型の石が付いた片方だけのイヤリングだった。
「イヤリングか…ワシは耳に何かつけるのはイヤじゃからな。
どっちみちアレックスがリーダーになる事になったのぉ」
「さて、行き渡ったな。着けながら聞いてくれ、そのイヤリングは着けてる者だけに音が聞こえる魔具だ。
といっても親機が出した3種類の合図程度が伝えられるだけだが」
そう言い、全員がつけたのを確認すると、
「二刻ほどしたら全員一度帰還し報告を行う。この時点で痕跡を見つけた場合は
そちらに集中して探索を行う。二刻が経過した時点でこの音を鳴らすので覚えてくれ」
ギルド長はそう言いつつ青いベルを取り出すと揺らして見せるが聞こえない。
イヤリングを着けた者には確かに聞こえるのか、皆頷いている。
「そして、決定的な痕跡や問題が発生した場合は光弾を上げてくれ。
それを確認したら、これから鳴らす緊急用の音を鳴らす。こちらも覚えてくれ」
光弾とは一般人でも使える魔術の一つであり、信号弾の様なものだったかの。
などと思い出してると、ギルド長は赤いベルを取り出し振ると、イヤリングを付けた皆がまた頷く。
「覚えたな、では夜明けまで装備の確認などをしてくれ。
夜が明けたら探索を開始する、では解散」
ギルド長が宣言すると、皆思い思いに散らばってゆく。
ナイフを抜き、刃こぼれなど無いのを見ると鞘に戻し、他には確認するものも無いので森を見つめる。
まだ日は昇らず、森は闇深く不気味なほどに静かな様子を見せるだけだった。
ギルド間で連絡を取り合ったのは、今回のイヤリングの魔具とほぼ同じ物で。
モールス信号でやり取りをしたという設定、青青赤、赤青赤みたいな感じ。
受け取りはイヤリング型ではなく、卓上ベル型。
作り方は魔石に、何種類かのミスリル製の音の違うベルを登録し。
イヤリング型は複数に砕いて加工して、卓上ベル型は一つを加工して作る。
今後は魔具の設定を思い付いたら、特に話の流れで必要ない場合ものは
後書きに書いていこうかな覚えてれば。




