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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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153手間

 出入り口以外淡い光を反射して、まるで光のカーテンが如く水が四方の壁を伝い流れ落ちる幻想的な部屋の中、休憩はしないとしたものの次からは魔物が出てくると言われる階層に入る。各自軽く装備を点検し次の階層へと流れ落ちる水の音を背に足を踏み入れる。その頃にはシリシリとした下腹部の痛みも引き、やはりただの腹痛かと安堵したのもつかの間、六階層に足を踏み入れた頃には今度は全身に薄い鉛の膜を纏わされた様な感覚が襲ってくる。

 突如感じた不快感に周りを見渡せば、ワシ以外それは感じていないのかそれとも気付いていないのか、皆警戒はしていたが不快な感覚があるといった顔は一様にしていなかった。


「ふーむ…」


「どうかしましたか?」


「んー、いや…何とも嫌な感じがしてのぉ…何と言えばよいのか…ふーむ、そうじゃの。例えるならば無理やり倦怠感を押し付けられとるとかそんな感じかの」


「倦怠感ですか…僕は感じませんね」


「俺もだな」


「僕も大丈夫だよ」


 ジョーンズは分からんとばかりに肩をすくめ、インディも首を振っている。


「やはりワシだけか…」


「こんなマナの濃いところで早々に疲れる訳がないし、獣人独特の感覚ってやつじゃないか?」


「ふーむ、やはりそうなのかのぉ」


「きついなら一度もどって休憩しますか?」


「いや、不快なだけじゃ…」


「無理はしないでくださいね?」


「うむ、もちろんじゃ。その時はカルンに負ぶさってもらおうかの」


「任せて下さい」


「あー、まったくこんなとこでまでイチャイチャしてねーで進むぞ」


 アレックスの心底呆れたような声に同意するわけでは無いが、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。一度深い深呼吸とともに竜の吐息が見れるのであれば、これほどであろうと思えるほどの白い息を吐き出し、地図に書き記された道順に従って歩くジョーンズの後に続く。

 石畳を靴が叩く音と水が流れる音を背景に、画一的な曲がり角や十字路などを抜けていると、フェンが一声鳴く。その後数泊置いて道の影から数匹の狼の群れが踊りだしてきた。その様は突然相まみえたと言った感じではなく、まるで数里先から獲物として見据えていたかのような迷いのない動きだった。


 狼達の灰色に少し水色を垂らした毛皮はそれが純粋な魔物ではないことを示している、やはりダンジョンに出る魔物は人為的と言って良いのかは定かではないか何らかの要素で生み出されているのだろう。そんな狼達ではあるがその動きは見事なもので、一糸乱れぬ群体は森や平原であれば脅威であったであろう。しかしここはそれなりに広いとは言え通路で、周りは左右は壁、道は前方と後方のみで不意打ちの危険もない。如何に見事な動きを披露しようとも愚直にも一直線に向かってくるしかないのだ。

 それは正しく虎口に自ら腕を差し出すようなもの。あっという間に前方に陣取ったジョーンズとアイナに数匹が討ち取られて行く。けれども数とその動きを頼みに何匹かが隙きを突きするりと抜けてきたが既に魔手と成っている右手を右に左になぎ払い、次々と抜けてくる狼を即座に塵へと返していく。

 後方に居たアレックスも参戦しカルンやインディの魔法でもって、ますます数を減らしていく狼の最後の一匹、それをグシャリと腕を叩きつけるかのように潰すとその身は虚空へと溶け、跡には爪で石畳に穿った穴とからりと転がる玉残されていた。


「うん?ここの魔物は魔石を落とすのかえ?」


「そう…みたいだな」


 先程は戦闘に集中していて気づかなかったが辺りを見れば、襲ってきた数と同数と言わないまでもそれなりの数の魔石が転がっていた。


「大きさは大した事ないが確かに魔石だな」


「確かにそのようじゃの」


 一つ一つはビー玉より少し小さい程度で、本来魔物がもつ魔石であればもう少し大きいのが普通なのだが、少し赤みを帯びた緑色のそれは正しく魔石であった。飴玉にも見えるそれを口に含み、コロコロと転がしたらどんな味がするだろうと思ったのは内緒である。


「ふむ、しかしここで魔石が取れるとなると、確かにダンジョンにばかりこもる輩が出るのも不思議ではないの」


 塩掘りと呼ばれるダンジョンにばかり潜る輩は、一体どうやって生計を立てているのだろうと思っていたのだが、なるほどこれなら確かにと思わせるにはその魔石の存在は十分だった。

 このダンジョンの外の露天で売っていた魔具を見るにそこまで値打ちのあるものは出ない。そんな中でどうやってそれで生計を立ててるのか疑問だったのだ。あんなガラクタと言って差し支えがないようなものではその階層の全てのものを独占しようと足が出ると…だが魔石が出るのであれば話は変わる、魔石とはそれほどまでに需要があるものなのだ。


 本来魔石とは魔物が持つ心臓の様なもの。どれだけ強力な魔物であろうと一匹につき一個だけであるし、魔物に遭う確率というのも結構低いのである…と言ってもそれなりに世間に出回ってもなお多少余る程度は遭遇するのだが。そして遭遇する大半の魔物が持つ魔石の大きさはゴルフボール大が精々でハンターの生活に必要な諸経費を鑑みるとそれ一個では到底心もとない金額でしか無い。なので魔石だけで生計を立てるというのはリスク的にも割に合わないし厳しいものがある。もちろんそれだけのリスクに見合うだけのものではあるのだが…。なので普通のハンターは野生動物や魔獣、魔物の討伐報酬で糊口を凌いでいるものが大半だ。三等級になればそこに護衛の報酬などが加わりやっと何とか一息つけると言った具合になる。


 そもそもハンターとは魔物などの脅威から人々を守るのが仕事。町の人も危険な奴らを倒してくれる人達という認識だ。だからこそ荒くれ者の爪弾きもの等と揶揄されずに大手を振って街中を闊歩できるのだ。だからこそダンジョンという檻の中にいる魔物だけを狩り、自らの利益だけを追い求める奴らは同業からも嫌われているのだろう。

 とは言え飯の種を放置するのもいけない事と、倒した奴らの魔石を逐一回収しつつ特に問題も無く十階層最奥へとたどり着いた。


「さてここはボスが居るんじゃったかの」


「だな」


 待ってましたとばかりに開く扉の奥では、道中でもあった狼の毛皮を一層鮮やかにし何倍かに大きくした狼が、蒼い瞳でこちらを睥睨していたが、悲しいかなその威容とは裏腹にワシは魔物の天敵、一撃の下に消滅させられ跡にはコロリと魔石が残るのみだった。

 哀れみにも似た目をしたアレックスが魔石を拾い上げる中、狼のいた部屋の奥にある扉が開いて階段が出現する。それを下ればまたもやダンジョンの入り口にある部屋と全く同じ転送装置の間にたどり着いた。


「ん…?」


「大丈夫ですか?」


「あ…いや、大丈夫じゃ」


 六階層で調子が悪いと思われそうな事を言ったせいか、カルンが少し心配そうに覗き込んできたが、倦怠感にも似た感覚は慣れたのかそれとも収まったのか今は感じない。それよりも今はある事に気付いてそれを口にした。


「なんで五階層のところには転送装置が無かったんじゃろうか」


「あっ!そういえばそうですね」


「言われてみれば…」


「簡単すぎるからじゃねーの?」


 五階層毎にあるはずの転送装置が、肝心の五階層に無かった事に今更疑問を持ったのだが、ジョーンズの呟きに確かにと皆納得するのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脱字:玉が 跡には爪で石畳に穿った穴とからりと転がる玉残されていた。
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