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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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151手間

 階段を下りた先では得も言われぬ幻想的な光景が広がっていた。少し灰色が混じり、ともすれば蒼くも見える白の石材で壁と天井は覆われ床はさらに灰色が強い石材で作られていた。壁と天井のつなぎ目は見当たらず滑らかなカーブを描きまるでひとつの石材をくり抜いて造ったかのようだが、よくよく見てみるとつなぎ目があり幾つもの石を芸術的な精度で組み上げ造られていることが分かる。その壁にはつなぎ目をさらに目立たなくするためか、様々な動植物にも全く意味のない落書きとも取れるような複雑な文様が彫られており、天井と壁の間のカーブには雷文の様な文様が掘られていた。


 そして天井には何も彫られておらずつるりとした表面なのだが、どうやら天井の石材それ自体が淡く発光しているようで、光量自体はそこまで強くないのだがそれがまたこの空間の幻想さを引き立てていた。床はレンガの様に長方形の石材を組み合わせて造っているようなのだが、わずかに色味の違う石材を組み合わせ市松模様の道が、ワシらが入ってきた道を含めた十字路の四方へと走っている、そしてその道の両脇には波紋が無ければそこにあるとわからないほど透明度の高い水が流れている。しかし、何よりも驚愕なのはその全てがまるで昨日造られたばかりかのように一切の風化を見せておらず完璧な状態で存在していることだ。


「これは何とも…水のダンジョンの名に相応しいのぉ」


「すげぇなぁ」


 石材のせいなのかそれとも光そのもののせいなのか、蒼く淡い空間に暫く見とれていたが、その間一切脇を通っていく人は居なかった。恐らく殆どの人は転送装置で先の階層へと飛んでいるのだろう。ここは火のダンジョンと違い構造が変わることがないので、それに伴う転送装置のリセットも無いためだろうか。


「ちょっと暗いですね…」


「僕はこういうとこ苦手だなぁ…」


「真っ暗じゃねぇんだ、この暗さに目を慣らしておいた方がいいだろうな」


 ワシの目には十分な光量にも感じたが、ヒューマンではそうもいかないようだ。アイナが少し怯えているようだが綺麗で幻想的な空間とは下手をすれば恐怖を煽ることになる。ワシが感じている以上に薄暗くさらに自分たち以外居ない空間とはそういう類のものが苦手な人にとってはたまらないものがあるだろう。

 背後に周り手を叩いたりおどろおどろしい声をあげて驚かしたい衝動に駆られるが、ここはお化け屋敷ではないのだ。そういうことはするべきではないだろう…。何せびくびくと怯えながらも、腰に佩いている剣の柄に手を伸ばしているのだ、下手に脅かしたら斬られてしまう、そのまま抜剣したらその先にいるアレックスが。


「取り敢えず進む前に、これを読んでしまうかの」


「ん?あぁ、そうだな」


 と言うのも十字路の中央に、黒い石で造られた細長い四角柱の石碑が立っているのだ。黒い石に掘られているため周りを見通すには問題ない光量ではあるのだが、何か掘られている程度しか判別できないので指先に火種を法術で発生させ、爪の先に火を灯すようにして石碑の文字を読んでいく。


「ふむ、やはりこれは女神文字のようじゃの…なになに?"惑うべからず"」


「それだけ?」


「それだけじゃの」


「ほんとに?」


「本当じゃ、もしかしたら他に刻み込まれているものに別の言葉が書いてあるかもしれんが、他は一切読めんのじゃよ」


 ジョーンズが何度も聞いてくるが"惑うべからず"というその一文しか書かれていない。他に文字らしきものも書き込まれているのだがこちらはフェイクなのか、別の言語なのか知らないが全く読めない。


「どの辺りが惑うべからずなんだ?」


「この辺りの…この部分じゃの」


 石碑の中腹辺りに火を灯した指を持っていき指し示すと、顎に手を付けてジョーンズとカルンが覗き込んでくる。アレックスとアイナ、インディの三人は興味がないのか、周りをキョロキョロと伺っていた。


「ほうほう、どの部分が惑うとかなんだ?」


「ふむ、それは分からんのじゃ、この一文全てで惑うべからずなのじゃ」


「どういうことだ?」


「ふむ…そうじゃのぉ、例えばここの一文字、これを隠すだけでこの一文は全く意味のない文字になるのじゃよ」


「う…ん?」


「まぁ、女神文字と言うのはそういう言語なのじゃよ」


「わかったような、分からんような…」


 女神文字自体が感覚的に読む様な言語なので、正直ワシも説明しづらい上に、習った相手が相手なので何とも言い難い。


「女神文字って読めるものなんですねぇ…」


「殆どの人が読めぬ文字とはワシも知らんかったからのぉ…」


 ジョーンズにがくがくと揺さぶられたのが懐かしい、あの時ジョーンズに見せてもらった遺物を譲ってもらってカルンと使うのも悪くないかなぁ、なんて一瞬思ったが大事な物って言ってたし流石に悪いか…。


「取り敢えず、進もうかの。一階は確かまっすぐじゃったか…あぁ…惑うべからずってそういうことかえ」


「どういうことだ?」


「惑うべからずつまり真っすぐ行けって事じゃの」


「あぁ、やっぱり仕掛けの所にある石碑ってのは攻略のヒントってことなのか」


 ジョーンズが一階の地図を広げそれを一緒に覗き込むと、たしかに一直線に伸びた先に次の階層への階段があり、それ以外の道にはトラップがあったり行き止まりだったりしていた。


「よっしゃ、それじゃさっさと進もうぜ」


 アレックスの言葉を合図に、ジョーンズを先頭にずんずんとダンジョンの奥へと進んでいくのだった。

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