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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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150手間

 翌日は朝からダンジョンへと入るための列へと並んでいる。ここのダンジョンは人の出入りが非常に激しいので、街の門や火のダンジョンの管理小屋にあった様な魔具では数が圧倒的に足りない。ではどうしているのかといえば答えは簡単。馬車を預けたときの木片の文字を控えているだけ。キツネから戻った後でカルンに見せてもらったのだが、書かれている文字は全く読むことが出来ず、数字なのか言葉なのかすら判断ができなかった、恐らくは速記文字のような特殊な文字なのだろう。しかも、木片への記入に使用していたチョーク状のものはどうやらそれ自体が魔具のようで、対応した魔具で無いと消せないとか。


「たまに何も控えずに入っておる集団がおるがあれはなんじゃろうなぁ…」


「お?嬢ちゃんはここ初めてか?」


「うっうむ、そうじゃが…?」


 何時順番になるかと列の先頭を見ていると、たまに衛兵が何も確認せずに通している集団が居るのを見て思わず独り言もらすと、それに反応してワシの前に並んでいたおっさんがぐるりとこちらを向いたので、思わずびくりと反応してしまった。


「あいつらは塩掘りって言われてる奴らでな、所謂顔パスって奴よ。その代わり中で死んでも気づかれねぇし気にもされねぇけどな」


「塩掘り?}


「そうだ、普段使ってる塩はどうやって手に入るか知ってるよな?」


「うむ、鉱石のように掘り出しておるのじゃろ?」


「あぁ、その通りだ。塩の洞窟から掘り出して町で売ってはまた洞窟に戻っていく。ダンジョンに潜っては魔具を集めて町で売ってまたダンジョンに潜る、ここに居る奴らは大体そんな風に暮らしてるもんばっかなんだが、殆どの奴はダンジョンばかりじゃなくてちゃんと町の周辺の魔獣やらを狩っているんだ。それをせずにダンジョンだけに潜る奴らのことを俺らは塩掘りって言うのさ。あ、勘違いしちゃあいけねぇが、本当に塩掘ってる奴らのことは塩掘りとは言わないから気をつけろよ」


「なるほどのぉ…わかったのじゃ」


 ハンターにとって町の周辺の魔獣やらを狩るのは義務と言うよりそれが仕事である、それをせずにダンジョンばかりに潜る奴らへの蔑称と言うやつなのだろう。そして塩が人々の生活に必要不可欠ということは何となく分かっているのだろう、わざわざ話の最後にそう付け加えてもう興味はなくなったとばかりに、同じパーティなのであろう人達とおっさんは談笑し始めた。


 それにしてもこう皆行儀良く並び、入り口でチケットを提示するかのように木片を出す様は、テーマパークのアトラクションに並んでいるかの様な気分にさせる。もちろん楽しいアトラクションの様に安全が保証されてなどは居ないが…。しばらく列の進みに合わせて移動していると、もう少しというところでダンジョンの白い壁の前に黒い石で造られた石碑が置いてあるのに気付いた。


「トーウレーんにゃー?」


「何変な声出してんだ?」


「いや、あの石碑には何と書いてあるのかと思うてな」


「あぁ…あれか…うーん?」


「女神文字じゃないか?」


「おぉ、どっかで見たと思ったがそうか確かにそんな感じ…うーんそうか?」


 アレックスがうんうんと唸っていると、横からジョーンズが指摘して一瞬わかったといった顔したのだが、すぐにまた唸り始めた。


「トーウーレーふむー」


「読めないのか?」


「女神文字は普通読めないんじゃろ?」


「そうだな…」


 女神文字と言うのは分かるが読めないというのが常識だ、こんな人の多いところでおおっぴらに読めるのが分かったらどんなことになるか分からない、それに気付いたのかアレックスも神妙に頷いている。


「しかし、これはわずかに削れておるようじゃのぉ…ここには何と書いてあったんじゃろうなぁ…」


「あぁ、その部分は文字じゃなくて欠損なのか…」


「うむ、そのようじゃの」


 女神文字と言うのは表意文字とも表音文字とも全く違う、意味のある部分を読むと意味が頭の中に浮かび上がってくるという実に不可思議な文字だ。今までは一部が削られていても全容は分からないのだが、その他の区切られた部分であれば何とか読めた、だがこの石碑に書かれているのはこの一文で全ての様で、お蔭でたった一文字が削られているだけで全く訳の分からない文へと変貌していた。そしてどうやら普通は欠損と文字の区別もあまりつかないものらしい。


「ほう…君は見た目と違って博識のようだね」


「ふぎゃ!」


「なんだねその声は、私が態々声をかけてやったと言うのに…」


 石碑を見て物思いにふけっていると、突然耳元でぬちゃりとした粘液が跳ねるかのような実に気持ち悪い声をかけられて思わず変な声が口から飛び出してしまった。飛び出した声と気持ち悪さも合わさって全身の毛という毛が逆立つのがわかる。その声に恐る恐る振り返ると、そこには粘液の様な気持ち悪い声に相応しい、いかにも粘着質そうな意地の悪いという顔の男が立っていた。


「ふん」


「な…なんじゃあれは…」


「気持ちワリィ男だな…いつの間にかセルカの後ろにいてびっくりしたぜ」


 それ以上何か言うこともなく鼻を鳴らして、そいつの仲間かどうかわからないが集団の下に戻っていった。仲間かどうかわからないと思ったのは戻った粘液男に一応声をかけてはいるのだが、皆一様に生気がなく首には悪趣味な首輪のようなものをしていたからだ。


「中で極力会いたくはないの…」


「そうだな、折角地図があるんだ。低い階層はさっさと飛ばしちまうか」


「そうじゃの、めぼしいものも無いじゃろうしそれがよかろう」


 そうこうしている内についに順番となり、衛兵に木片をみせると開きっぱなしの入り口から中へと進む、入るとすぐに階段がしたへと続いておりカツンカツンとカンテラで照らされた道を進むと最初の転送装置がある部屋へとたどり着く。


「おぉ…これはすごいのぉ…」


 四角い部屋にはワシらがいま来た通路の他に奥に一本だけ先が見えないことから恐らくまた階段なのであろう通路が見え、それ以外の壁には天井から水がざぁざぁと滝の様に落ちてきておりまるで水の壁で出来た部屋のように見える。部屋の壁を伝い落ちてきた水は外周に存在する溝にそって流れ階段の両脇に流れ込んでいるようだった。

 部屋の中央にある転送装置は火のダンジョンにあったものとほぼ同一のようだが、こちらは最初からここにあったかのように部屋と一体化しているようにみえた。部屋自体が発光しているのか淡く蒼く光る水の部屋に目を暫く奪われていたが、流石にここは邪魔になると慌てて転送装置にカードを登録しさわさわと水が左右を流れ落ちている階段を下りついに水のダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

やっと章題詐欺終了のお知らせ。


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