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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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146手間

 手負いの獣ほど恐ろしいものはない、魔獣や魔物は多少手負いになったところで早々死にはしないのだが、動物だったころの本能か殆どのものが凶暴化する傾向にある。通常の魔物などであればその身に残る残滓とも言えるが、意外なことにダンジョンで発生した魔物や、以前戦ったスライムのように最初から魔獣や魔物として発生したものたちも、生存本能と言って良いものかは疑問だが手負いになると凶暴化するのだから笑えない。

 両者の違いといったら痛みに対する反応だろうか、魔獣や魔物はわかりやすく言えばゾンビみたいな物なので痛みを感じないと言われているが、元が動物などのよくいる魔獣や魔物は痛みを知っているので積極的に回避行動を取ってくる、逆に最初から魔獣や魔物の奴らは痛みを知らないので、行動不能になりそうなもの以外はお構いなしに突っ込んでくる。どっちが脅威かとは一概に言えないが、知っておけば役に立つんじゃないかなー程度の情報だ。


 話がそれたがワシらが町に着いてから数日、ギルドに毎日情報を聞きに行ったがワシらが見た奴ら以降の狒々の被害者の報告はないので、もう大丈夫だろうという事でワシらはダンジョンへと向かうこととなった。

 手負いの状態で暴れ回られたら、現状ワシ以外対抗手段は無かったので被害は凄まじいことになっていただろう、そのことをこの数日思い悩んでいたので今はほっと胸をなでおろしている。


「そいじゃま、出発しますか」


 御者台に座ったパシンと勢い良く手綱を操るが、馬は不服そうに嘶くだけで一向に動こうとしない。


「おい、こら。動けってんだよ」


「あー、替わりましょうか?」


「頼む、これ以上尻を叩いたら後ろ足で蹴られそうだ」


 この町に着く前は普通にカルンが操れていたので、ワシ以外の言うことも聞くようになったと思っていたのだがどうやら違ったようだ。ワシが御者台に座れば早いのであろうが、万が一を考えてダンジョンまでキツネの姿で過ごすことにしたので不可能だ、カルンは実際やれてたので問題はないだろう。それにワシはアイナたっての希望によりブラッシングをされているので動けないということもある。


「それじゃあ、行きますよ」


「キュ」


 御者台の方からカルンの声とパシンという小気味よい音が響いて馬車が動き出…さない。


「あ、あれ?」


「んー?カルンでもダメなのか?でも、この間は動かせてたよな?」


「えぇ、そのはずなんですが…」


「何か前とやり方が違うとか?」


「うーん、同じはずですが…違いと言ったらセルカさんが膝に乗ってないくらいですし」


「それだ!」


「キュ?」


 ブラッシングされ、うとうとしていたので話は殆ど聞いてなかったが、なんかワシの事を言われた気がする。


「アイナ、カルンにセルカを渡してやってくれ」


「あいさー」


 アイナはそう言ってワシを抱えると元気よく馬車を降りて御者台にいるカルンへとワシを手渡す。アイナは馬車へと戻ると、御者台の背を叩いて戻ったと知らせてくれた。


「これで大丈夫…かな?」


 パシンと手綱が馬を叩くと、今度こそ馬車がゆっくりと動き始めた。どうやらこやつはカルンの言う事を聞いていたのではなく、ワシがいるから渋々従っていたようだ。 じろりと見ればこちらを伺うように頭を動かしていた馬はヤベッとでも思ったのかサッと前を向き、なんでもございませんとばかりに少し歩を早めた。そうこうしている内に馬車は要塞もかくやという防壁に囲まれた町を抜け、再び雪の丘陵を一路北へと向かうのだった。

 粉砂糖の丘陵の中、ざっと周りを見渡しても今のところ馬車は丘陵のせいもあり、それほど遠くまで視界が通ってるわけではないがワシら以外に影はない、もちろんまだ狒々にビビって誰も出たがらなかったというわけではない。

 もちろん中にはそんな奴らも居るだろうが、殆どの奴らは今朝早く長がもう大丈夫だろうと独りごちたのか、宣言したのか分からない言葉を聞くやいなや、まるで功を焦るかのようにして私が俺が、と我先にと町を後にしていった。ワシらはそれを見て、何ぞトラブルにでも巻き込まれてはいかんとのんびりと出発することにしたのだ。

 この極寒の地を進むのに必要な、薪や藁、食料などは宣言がなされる前、ここでも我先にと買い込んでいた人達に買えるかと心配していたのだが、長の取り計らいでワシらの分はきっちりと確保されていたようでこちらものんびりと焦ること無く購入できた。


「水のダンジョン…」


「キュ?」


「あ、いえ。どんなところだろうなぁと…楽しみですね」


 思わずと言った感じで漏れた言葉に反応すると、ニッコリと雪すらも即座に溶けるのではという微笑みをカルンが浮かべて徐にサンドラ達に貰ったダンジョンの地図を取り出してワシにも見えるようにしながら眺め始めた。

 水のダンジョンは仕掛けなどで道が塞がれることはあるものの、火のダンジョンと違い常に同じ構造だそうだ。その中で遺物などは話を聞く限り、まさに宝箱といって思い浮かべるような箱の中にはいっていたり、台座の上に置かれていたりするらしい。しかも、それらは暫くすれば復活すると。その間隔は不規則らしいのだが、早ければその部屋の扉を閉じたらすぐにとかもあるらしい。ただし宝箱や台座などがある小部屋に誰かいる場合は、待てど暮らせど絶対に復活しないそうだ、過去にそれをやり今でも馬鹿の代名詞として語り継がれてたりする。


「やはり広いと言うか長いですねぇ…」


 一階一階の広さは火のダンジョンより狭い気もするがその分階層は多くなっている。そして次の階への入り口は、此方でもそうかは分からないが必ず地図の上の方、北側に存在し下へ下へと進んでいく構造は巨人の階段か登り窯かのようだ。


「長いしさらに先があるかもしれない、という話ですしね」


「キュ」


 最近になって最下層と思われていた階層にさらに下かそれとも奥へと続くか分からぬ扉が発見されたそうだ、しかしその扉は厳重に封印されており誰もその先に行けないそうで、その先を見るのは俺だとばかりにいつもより多くダンジョンへとハンターが詰めかけ、折り悪くそこへ狒々共が来て被害が拡大していたらしかった。

 

 カルンの横で丸まっているフェンをチラリと見るが、どうやら寝ているようでこの様子なら暫く大丈夫だろうと、一度馬をサボるなよと睨んでからカルンの膝の上という特等席でワシも眠りに着くのだった。

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