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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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140手間

 ザッザッザッと力強く歩く馬の背を御者台の上から眺めていると、背後からうめき声が聞こえてきた。


「なんじゃ、どうしたのじゃ?」


「寒い」


「今のうちに慣れておれ」


 御者台の背にある小窓を開けて中に声をかけると、アレックスのそんな情けない声が聞こえてきたので一声励まして小窓をカタンと閉める。

 今、ワシらはサンドラの夫であるジョルズから、寒冷地用の馬と橇を借り受け街の北にある水のダンジョンへと向かっている。

 元々ハンターをしていたと言うだけあって水のダンジョンの情報にも詳しく、道中必要になるであろう物資も色々ツテを使って融通してもらえた。

 その中の一つがこの馬車だ、いつもの馬車は預けこれを借りてる間の面倒を見てもらう代わりに街中の運搬に使ってもらうことになっている。

 この先、特に水のダンジョン周辺は気候が厳しく、普通の馬車では厳しいとの事だったので一も二もなく頷いたのだった。


「ふーむ、しかし見事な馬を貸してくれたものじゃ」


 どうだ凄いだろ、とばかりに嘶く馬の体は普段よく見る馬よりも随分と大きく、脚の太さも小さな子供の胴程もあろうかというくらいだ。

 前世で言うところの重種馬にあたるであろうこの馬は、水の上に垂らした墨に半紙を浸したかのような見事な薄墨毛で、まるでブーツの様に足元を覆う距毛やタテガミは墨を垂らしたかのような深い黒で、雪中実に遠くからでも目立つことだろう。

 橇は御者台側には雪や風を吹き込ませない為か入り口は無く、小さな木の戸で出来た小窓だけ、大きさもいつもの馬車より少々小さく幌はワシが立てば耳が天井にかする程の高さしか無い。

 今は街の北にある森の中の道なので風が弱いが、ここを抜けると常に吹きすさぶ風のせいで幌が高い馬車だとすぐに横転してしまうそうだ。

 雪が振っていなくとも強い風による地吹雪で視界が悪く、それに乗じて襲ってくる野生動物や魔獣、魔物の類もいるらしい幸い厳しい環境なので数が少ないとの事だが、ダンジョンや道中にある避難所まで気の抜けない旅になるのが常だそうだ。


「んふふ、ワシらにはおぬしが居るから大丈夫じゃしのー」


「ワン!」


 ワシの隣で大人しくちょこんとお座りしているフェンの首をワシワシと撫でてやる。

 先日サンドラの所に行った時は、当初ワシに気を取られて全く気付いてなかったのだが、落ち着いた頃にやっとフェンの存在に気が付くとあとは中々ひどかった、大興奮したサンドラに怯えるフェン。まさかペットではなく人の方を落ち着かせるはめになるとは思わなかった。

 そんな事より、敵の接近をすぐに見つけてくれるフェンは、ワシらの道中を実に快適にしてくれること請け合いというわけだ。


「じゃが、森を抜けるのは明日になるし、まだ外におらんでもいいんじゃよ?」


 するとフェンは突然立ち上がり、ワシの膝の上に移動するとここが良いんだとばかりにそこで丸まってしまった。


「ふふふ、明日から期待しておるから、今はゆっくり休んでおくんじゃよ」


 わふっと欠伸か鳴いたのかわからない声を上げると、すやすやとそのまま眠り始めてしまった、規則正しく上下し始めたフェンの背をなでてから、前方へと視界を戻す。

 今進んでいる森は元からここにあるものではなく、人が作り上げた森…積み上げられたレンガの様な森の中を、まるで森と森を繋ぎ止める目地の様に通る道を北へ北へと進んでいく。

 この森では薪やお酒に使う果実、油を取る木の実などを採集しているという、人の手が頻繁に入るせいか動物があまりおらず、当然その分魔獣なども少なくなる。

 けれどどんなに荒い目の熊手であろうと引けば必ず落ち葉が引っかかる、そんな風に現れる魔獣や野生動物は新米ハンターの良い小遣い稼ぎになるそうだ。

 そんな四方八方を森に囲まれた中、獣人の能力と言うべきか方角を見失うこと無く北に進めているが、日はすでに木の上に引っかかるほどまでに落ちてきている。


「そろそろ休むのじゃー」


 日が葉の海へと沈むとあっという間に暗くなる、この森の中では樵などの為に所々に休憩用の小屋が建っている、それを見つけ今日はここで終了することを中で震えてる奴らに伝えると、まるで道端で神に会ったかの様な声を上げていた。

 厩に馬を停め水などを与えてから小屋の中を確認する、小屋の中に熊が居たなんて話もあるので恐る恐る軋む扉を開けてみるが、よくよく考えたらフェンが吠えないので大丈夫だと思い至りずかずかと中へと入る。

 小屋の中は六人が悠々と寝っ転がれる程の広さの中に、ランプが置かれたテーブルと椅子が数脚、暖炉と水を溜める瓶が一つ、あとは部屋の端に積まれた毛布が数枚あるだけだった。

 ぐるりとワシが部屋の中を確認し火を灯そうとランプに手を伸ばすのよりも早く、アレックスが暖炉に駆けていき乱暴に薪を組むと法術で火をつけどっかりとその前に腰を落ち着けるのだった。


「おぬし…それでこの先大丈夫なのかえ?」


「知らん!寒いもんは寒い」


 自信満々に情けない事を言うアレックスを尻目に、暖炉の中の五徳の下に幾つか火の点いた薪を移動させてその上に鍋を置き、街で買った魚などをいれ魚のスープを作り、食べ終えるとさっさと寝支度を初めてダンジョンへと向かう英気を養うのだった。

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