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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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136手間

 ぐらりと崩れ落ちた視界を塞ぐ闇の中、慌てる皆の声だけは何故か鮮明に聞こえる。

 体に何かがまとわりついてうまく動かせず、顔にかかっている布すら取れず焦っているとそれが宙に浮き視界が一気に広がる。

 僅かな間だったがよほど堪えたのか、心なしかいつもよりカルンが大きく見えるが、そんな頼もしさとは裏腹にその顔は困惑に染まっている。


「えーっと…セルカさん…その姿は?」


「キュー」


 ん?


「キュアー」


 んん?


「キューー!!!」


 もしまともに喋れていたら確実になんじゃこりゃーと叫んでいたに違いない。


「あら…もしかして獣の姿を強く思い浮かべました?」


 ヘルダが覗き込んでそう聞いてきたので答えようとするが、鳴き声しか出ないのでこくんと一つだけ頷く。

 まだ体に何かまとわりつく感覚がいい加減嫌になってきたので、身を捩って這い出るとどうやら来ていた服がそのまま覆いかぶさっていたようだ。

 そこでようやく露わになった自分の姿を見れば、全身真っ白で何も手を加えずともそれだけで最高級の毛皮すら霞むであろう毛並みに変わらずそこにある九本の尻尾。

 はっと慌てて左腕…今や左前足となったそこを見ればキツネサイズになった腕輪がキラリと光っている。

 もしやと思い前足では無理なので、体を掻くかのように後ろ足で首元を触ればまるで首輪のような感触がそこにはあった。


「キュー」


 ほっとするとため息の代わりにそんな鳴き声が口から漏れる。

 けれどこうしては居られないと、元の姿を思い浮かべるが何もおこらない。


「戻れないのね?初めてなった子はみんなそうなるのよ、ご安心を。むしろ普通はほんの僅かに毛皮が出来たり程度なのに、まさか全身変わるなんて流石は始祖様だわ。変化するのに慣れてないからほんの僅かな変化でもマナを大量に消費してしまうの、始祖様の場合は全身だから尚の事でしょうね、暫くゆっくりと休んで居ると元に戻れますよ」


「キュ!」


「ふむ、こうなってしまってはいつまでも引き止めるのは悪いね、また何時でも来なさい。私は無理でもヘルダなら何時でも話し相手になれるであろう」


「お待ちしておりますね」


「キュー」


 一先ず散らかった服はカルンに回収してもらい、屋敷を辞する。

 普通のキツネサイズになってしまったので、尻尾に隠れられなくなったスズリはワシの背中にくっついて必死に隠れているようだった、幸いふわふわな毛並みも手伝って、スズリが積極的に動かなければ触らない限り気づかれることはないだろう。

 危うくワシとフェンのふわふわコンビにやられたご婦人方の猛攻に晒されるところをカルンとルースが抑え無事部屋へと帰ってくることが出来た。

 温かい部屋に帰ってくると減ったマナのせいか急激に眠気が襲ってきた、タタタっと寝台に登れば遅れてフェンもよちよちと登ってくる。

 寝台の上でくるりと円を描くように丸まると、その中心へフェンが入り込んでこれまた丸くなり、もふもふの二重丸が出来た。

 まるで親に甘えるようなその姿にペロリとフェンを舐めると、はしたないが大口を開けてあくびを一つすると一足先に眠りに落ちているフェンに続いてワシもすぐさま落ちるのであった。


 さらりさらりと体を撫でられる感触で目を覚ます、何時ぞやと全く同じ構図だがいまだワシの姿がキツネという事だけが違っている。

 頭のてっぺんから背中にかけてを撫でられると、それに合わせて耳がペタリペタリと毛皮で餅をつく。

 四本の足で立ち上がると撫でていた手が止まるが、もっとしてくれとせがむように寝台の縁に腰掛けるカルンの膝へと頭を乗せる。

 今度は撫でるだけでなく、首元をくすぐる様にいじってくるがこれまた気持ちがいい、思わずまた寝てしまいそうになるほどに。

 眠気との誘惑と戦っているときに出てくるものと言えば、古今東西欠伸と相場が決まっている、大欠伸をしてペロリと鼻先を舐める姿はどこからどう見てもただのキツネだろう。

 コンコンとノックをして入ってきた給仕だが、今度はバツの悪い顔でなく何か癒やされるものを見たという顔をしていた。


「くぁー」


「そうですね、食べましょうか」


 給仕が持ってきたのはカルンの食事が乗っているお盆と、軽く火を通した程度の殆ど生肉を細かく切ったものを乗せたシチューを入れる様な皿、つまりはこれがワシの食事。

 手を使わない食事というものに悪戦苦闘しながらもペロリと平らげると、ひょいとテーブルの上に飛び乗ってこれを寄越せと鼻先で突付く。

 給仕が水皿として用意してくれていたのであろう別のお皿を床に置き、ジョッキの中身を注ぎ込む。

 果実の香りが芳しいそれをペロペロと文字通り舐めとるように味わっていると、キツネの姿だからかそれとも小さくなったからかすぐに足元が覚束なくなる。

 そんなワシを慌ててカルンがひょいと担ぎ上げ、寝台へと運んでくれたキツネの姿でお姫様だっこされてもときめかないと詮無いことを思いつつぐるぐる回る世界に目を回し瞼を閉じるのだった。

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[気になる点] 誤変換:着て 身を捩って這い出るとどうやら来ていた服がそのまま覆いかぶさっていたようだ。
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