1349手間
ワシがすやすやと気持ちよく寝ているところに、ゴンゴンゴンと扉を壊しかねない勢いのノックの音が響き渡る。
「ま、魔物が! お助け下さい!!」
ワシが誰かと問いかける前に飛び込んでくる悲鳴のような声に、思わず穢れたマナの気配を探る。
しかし、穢れたマナの気配はまだまだ砦から遠く、身だしなみをゆっくりと整えのんびり向かったところで、十分間に合いそうな場所にある。
「えぇい、やかましいわ! まだまだ距離があるじゃろうに、情けない声を出すでない!」
ワシの部屋に呼びに来たということは、この砦でも上位の者だろう。
それがこれ程までに取り乱しては士気にかかわる、そんな基本的なことも解せぬのかと、苛立ち交じりに勢いよく扉を開ける。
するとどうなるか、当然ノックが出来るほどに扉に近づいていた奴は、したたかに顔を打ち蹲る。
無論、ワシが全力で扉を開ければ扉も、ぶつかった者も無事では済まないので、手加減に手加減を重ねているがそれでも黙らせるには十分すぎるほどの威力だ。
「しかもまだ夜明け前ではないかえ。魔物の気配も確かに近付いてはおるが、砦を脅かす距離ではなかろうに」
「とりあえず魔物を見てください!」
呆れたようなワシの物言いにも怯まず、ワシを起こしに来た男がさぁ早くと促すので、仕方なくワシは男の後に続き側防塔へと向かう。
そこでワシが見たのは巨大な、それこそ砦と同じくらいの大きさの陸ガメに似た魔物だった。
確かにあんなモノに体当たりされたら、防壁などひとたまりも無いことが分かる重量感。
焦るのも分かるが、しかしその動きは見た目通りの鈍重具合、正しくドンガメだろう。
「おぬしら……。あんなモノに焦っておったのかえ? あんな動きの遅いモノに踏み潰される者が居れば見てみたいわ」
「確かにそうですが、あの魔物の足下をよく見てください」
「むぅ?」
焦るべきはそこではないのだと、男が示す魔物の足下を見る。
夜明け前の真っ暗闇とはいえ、魔導具か普通の道具かはしらないが、スポットライトのような光に照らされた魔物を見ることは容易い。
だが陸ガメのような魔物に似た姿の、小さな魔物が纏わりつくように居る以外は、さしておかしな点は無い。
そう思った矢先、陸ガメの大木の幹が雑草の茎の様に見える、太い脚の表面が突如水が沸いたかのように泡立ちはじめ、そこから近くに居る小さな魔物と同じような魔物が幾匹もボロボロと零れ落ちた。
「ほう、あれが此度の氾濫の原因という訳か」
「あんなモノが片足でも砦に入ったら!」
「魔物を産む魔物、確かに厄介じゃ。しかし、魔石も肉体もない魔物なぞ、ただの剣でも斬れるじゃろう。何を焦る必要があるのじゃ?」
「は? 魔石も肉体も無い魔物? そんなモノが存在するのですか?」
「あの様に産まれた魔物は魔石も肉体も無い、故に殊更マナを欲して飢えのみ知るかのように行動するのじゃ」
しかしあの巨大な陸ガメだけは、しっかりと己の肉体を持つ魔物だということがマナの感じから分かる。
ワシからすれば、肉体があろうとなかろうと、然したる違いはない。
なので倒すこと自体は簡単だ、しかしこれだけ巨大な魔物には早々出会わないだろう。
ならば出来るだけ遊んで、いやいや、特性を引き出してから倒すべきだろうと、手始めに足下に蠢く小さな魔物たちを法術で一掃するのだった……




