1347手間
指差された先に何か出てこないかと思ったが、そうそうタイミング良く事が起こるはずもなく、ただただ先ほどと変わらない魔物の群れが蠢くだけ。
「報告がないとはいえ、各自が倒した魔物とかではないのかえ?」
「それは無いかと、巡回範囲はまず被ることはありませんし。任務引継ぎの際には、必ず魔物を何匹見かけたか、倒したかを報告する義務がありますので」
「ふむ」
となると神国の巡回騎士たちでもない、下手に魔物を倒せば他の魔物を誘引する結果になる。
それ以前にこの辺りは砦からかなりの距離があり、ここまで来れば巡回というよりも遠征に近くなる。
なので神国の騎士はここまでは来ない、それが帝国の蛮行を許す結果になってしまったのだろう。
「魔物同士でということもあるかも知れぬし、今回のこととは無関係かのぉ」
穢れたマナで構成された魔物は同士討ちすることがまず無い、それは仲間意識などという生温い理由ではなく、魔物はマナを求めているからで穢れたマナ自体は欲しないからだ。
要はあいつまずそうだから襲う意味ないよね、ということだ。
ただ生身の肉体を得た魔物は生き物なので、縄張り争い等々で同族で争うことはままある。
「とはいえ魔物を倒す何らかが居るのは、間違いないのじゃろうな」
「あの、もしかして……」
顎に手を当て呟くワシを、おずおずと見やる幹部の視線にワシは首を傾げるが、あぁと納得しワシは首を横に振る。
「ワシではないぞ? わざわざここまで魔物退治に来るわけがなかろう。それ以前に、ワシと対峙した魔物が形を残しておるわけがなかろう、字句通り魂以外の全て跡形も残らぬわ」
ふふんとワシが鼻を鳴らせば、何故かみな不思議そうな顔になる。
「む? 皆信じておらんな? おぬしら、特にヒューマンは見んと信じんからのぉ、今まではわざと証拠とでも言えばよいかの、跡を残してやっておるのじゃ」
戦えば必ず跡が残る、剣であれば踏み込んだ足跡や、斬られた傷、当然のことならがその場に死体も残る。
銃であれば弾痕、砲弾や爆弾でバラバラに吹き飛ばそうとも、吹き飛んだモノや吹き飛ばした跡が残る。
それを見てここで何があったか、それがどれ程の威力かを想像し恐れるのだ。
現に今も、ワシは分かりやすく爆発で盛大に地面をでこぼこにしながら、魔物を吹き飛ばしている。
「要するに手加減をしておるわけじゃな、そうせねばおぬしらは無かったことにしてしまうからのぉ。目で見たことを理解せんとは、ほとほとあきれ果てるわ。とは言えそれすらも見ねば理解できぬであろう」
そう言ってワシは話している間も続けていた法術を止め、振り返り腕を一振りする。
その途端、蒼い炎の津波が魔物の大群を襲い、地平線まで埋め尽くしていたはずの魔物の大群は、一瞬にして文字通り跡形もなく消え去る。
「どうじゃ? これで流石に理解できたであろう? 如何な兵力もワシの前では無力、神国に、このワシに、敵対したおぬしらがまだ生きておるのは、ワシの慈悲、ワシの気まぐれじゃと知れ」
ワシの言葉に、畏怖の念を浮かべた顔で頷く兵士たちにワシは満足して、今しがた綺麗にした地平線を満足気に眺める。
だが満足していられたのもそこまでだった、じわじわとコップの縁に溢れる水の様に、地平線の先から再び魔物が溢れてくるのを見て、ワシは兵士らに見えぬよう小さく何食わぬ素振りで額を押さえるのだった……




