1345手間
じわじわと植物が根を張るごときのゆるゆるとした動きで広がる黒いシミを、ワシは創り出した椅子に座り頬杖をつき、あくびを噛み殺しながらゆったりと眺める。
他方、その他大勢の兵士たちは、戦友の首が木製のノコギリで切られているのを、ただただ見ているしかできないような表情で魔物の群れを睨みつけている。
あれらは魔石すらその内に持たぬ、ただの鉄の剣であろうとも斬りつければ容易く霧散させることが出来る、霞のような魔物。
しかし、マナが見えぬ者には見分けが付かない、だからあれらは硬くしぶとい魔物の群れだと恐怖する。
「ふむ、そろそろ良いかの」
ワシは椅子からやおら立ち上がり左手の上で創り上げた、片手で保持するには大きすぎる銃を右手に持ち替え、迫りくる魔物の群れの戦闘へと銃口を向ける。
この銃は魔導具ですらない、見た目だけのいわゆるモデルガン、だがその殺傷力はお墨付き、何せワシが銃そのものなのだ。
「まずは観測射撃とゆこうかの」
ワシの呟きと同時、銃口に光が集まり次の瞬間、一条の光が紫電を纏い魔物の群れのやや手前に着弾、爆発。
たまたま着弾地点に選ばれた、運の悪い群れの先頭の一部は爆発に巻き込まれ焼き尽くされる。
「ふぅむ。ちと手前すぎたかの」
ならばとやや上に向けた銃口から発射された光は、今度は魔物の群れの頭を掠るように飛び、群れの中腹辺りに着弾する。
ワシの狙いとしては群れの先頭に当てるつもりだったので、狙いは外れたのだが効果としては上々。
爆発に巻き込まれた奴らはもとより、掠ったモノ、そして弾道付近にいたモノまで消し飛んでいるのだ。
恐らくはワシの超高濃度なマナの衝撃波を受け、その身が保てず消え去ったのだろう。
「やはりこの距離では、ちと動かしただけで狙いが外れるのぉ」
「な、何と言う威力の魔導具。こんなモノを神国は開発したというのか……」
「ん? あぁ、これは魔導具などでは無いのじゃ。ただの銃の形をした置物じゃな、おぬしらにも分かりやすい様にと思うたが。ふむ、変に誤解されても困るのぉ」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかりに乱射していると、感極まったか恐怖に慄くのように呟く、近くに居た幹部の男に振り向きつつ答える。
彼らにはワシにこそ畏怖して欲しいのだ、魔導具の御蔭と思われては困る。
なのでワシは銃を投げ捨て、空中で燃やすと今度は魔物の群れの左端を左手で指出す。
「見ておれよ。降伏を選ばなかった場合の、おぬしらの末路じゃ」
銃で撃ったのと同じような光を魔物の群れの左端に撃ち込むが、今度は即座に爆発はさせず、魔物の群れの先頭付近を指先でなぞるように右端へと左腕を動かす。
すると光の束は指先よりも、やや遅れてなぞった箇所を辿り右端で消える、そして一拍を置きなぞった箇所が一斉に蒼い爆発を起こし砦から魔物の姿を覆い隠す。
「これがワシの力じゃ! 如何に数を頼ろうとも射程外から圧倒的火力で吹き飛ばせば、数などただの的の多さよ」
「し、しかし、懐に潜り込まれれば……」
「なるほど? じゃがどうやって懐に潜り込むというのじゃ?」
苦し紛れのセリフか、零された言葉に今度は指差しすらせず、空から降るモノを受け止めるかのように両手を掲げれば、宙から光の束が無数に飛び、矢鱈滅多らに魔物の群れを打ち据える。
そして撃ちこまれたモノが解放されたかのような大爆発が起こり、地面に巨大なクレーターを作りつつ、それ以上の範囲の魔物を吹き飛ばす。
砦まで届く爆風に兵士らが身を屈める中、ワシは一人直立不動で腰に手を当て胸を張り高笑いするのだった……




