1337手間
身を挺して上の者の行動を止める、大抵の場合その場で打ち首にされても文句は言えない行動だが、帝国にもなかなか気骨のあるやつがいるようだ。
いや、手際よくずるずると引きずられてゆく白髪交じりの男を見ると、もしかしたら激発しやすい上司になれているだけかもしれないが。
「お止めください閣下、相手は王太子妃ですぞ」
「然り、それが一人で居るということは砦の者と何らかの取引があったのかと」
「だが一人、我らが大帝国の軍人が殺されているのだぞ」
「お気持ちはよく分かります。ですが、相手は王太子妃です。大帝国の支配下に置いていない以上は、王太子妃に彼の軍人が無礼を働いた場合に殺されても文句が言えません。むしろ内容によっては、こちらが非難される可能性も」
本人たちは、ひそひそと会話してるつもりだろうが、ワシには丸聞こえだ。
しかし、ワシは帝国を排除しに来たと言ったのに、彼らは聞いていなかったのだろうか。
「それにですよ。彼女の右腕とそこに持っているモノ、恐らくは未知の魔導具です。ここには遮蔽物も殆ど無く、前方も赤熱した何かで塞がれています」
「むむぅ。確かに火でも噴かれたら全滅は必至だな」
「ですので、ここは抑えて」
やはり魔手を魔導具と間違えるのか、魔晶石製の銃は全く以ってその通りなのだが、魔手を魔導具と間違えられるのは業腹だ。
例えるならば一から十まで完璧に自分一人でやり上げた仕事を、後から来た人にそれ誰にやらせたのと言われたようなものだろうか。
「さて、先ほどは済まなかったね。それでお姫様はここに何をしに来たのかな?」
白髪交じりの男が深呼吸を一つすると姿勢を正し、まるで孫娘に語り掛けるような、それでいて目上の者に媚びるような声音でワシに語り掛ける。
「なに、不逞の輩に一時的に不当占拠されておった我が国の領土を取り返し、ついでに帝国の今後の予定を聞いておこうかとの」
「近くに野盗でもいたのか……? いや、それよりも。今後の予定とはどういうことかな?」
自分たちの事だとは露ほどにも考えていないのだろうか、一瞬考え込み口の中で呟くように言葉を転がしてから、ワシの質問にオウム返しで答えられた。
「そうじゃな、帝国の侵攻計画とでも言えばよいのかのぉ。具体的に言えば、どこに、いつ、攻め入って来るかというのぉ」
「それを知ってどうする?」
「これは異なことをいう。我が国に攻め入る不逞の輩を、虫を踏むように潰すだけよ。あぁ、規模や構成などは要らぬのじゃ、一匹だろうが十万匹じゃろうが、足で踏む回数が変わるだけでさして労力が変わる訳でも無し。出来れば一か所から攻めてくれると、移動する手間がなくて良いのぉ」
「お前は……何を言っているんだ?」
「何をとは? 言ったままじゃが?」
一か所から攻めてくれればそこを吹き飛ばすだけで事足りるが、散発的に広域に来られては移動が面倒だ。
そうなったらそうなったで、全力で移動しつつ順次吹き飛ばしてゆけばいい、そうなった場合の為にわざわざ着替えたのだ。
実に分かりやすいゴリ押し戦法なのだが、白髪交じりの男はともかく他の兵士たちまで、理解の範疇に無いモノを見るような目でワシを見る者だから、ワシもなぜこれで理解できないのかと首を傾げるのだった……




