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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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126手間

 翌日は朝食をゆっくりと食べ、香石を取り扱ってるお店へは昼も近くになってから行くことになった、と言うのもこのお店、日がしっかりと昇った頃にならないと開けないそうだ。

 この世界の住人は、日が顔を見せた頃に起きて、日が昇りはじめた頃に仕事を始め日が傾いたら家に帰るという生活をしている。

 しかも水のダンジョンの影響下にあるこの地域は雪や曇が多いので日照時間が短い、そんな中のんびり日が昇りきってから店を開けるのは余裕がある高級店という箔付けになるそうだ。


「楽しみじゃのぉ」


「えぇ、そうね。最高級のものはここに来ないと貴族でも手に入らないのよ」


「ほう…そうなのかえ?」


「そうなのよ、最高級のものを運んでる最中に何かあったら大変で、それを防ぐために護衛を雇っていたらお値段が大変な事になっちゃうのよ」


「確かに普通の品でも輸送費はバカにならんしのぉ」


 野生動物を筆頭に盗賊、魔獣、魔物それらの危険が跋扈する街道を品を積んでの輸送の費用は護衛や手間を含んで凄まじい事になる、そしてそれらは当然全て商品の値段へと反映される。

 隣の町で採れた野菜をその隣の町に行って買ったら五倍、十倍の値段になっているのは当たり前だったりする。

 そんな話をしつつお店へちらちらと雪が降る中、サクサクと雪を踏みしめてワシとシニュだけで歩いて向かっている。

 おっさん三人組とアイナは興味がない、カルンは恥ずかしい、ルースこと変態は女性が行く店に男性が行くわけにはいかないという謎の理由で来ていないのだ。

 香石は言うなればワックス状の香水、質の劣る物はそれこそ木などの艶出しワックスとして使われるので雑貨屋の様なところでも手に入るのだが質の良いものはそうはいかない。

 どこの世界でも男性が、この手のお店に行くのを躊躇うのは共通なのだろう。


「そう言えば、フェイルニアの領主はどのような人なのじゃ?」


「そうねぇ…何度かお会いしただけの印象だけど、清廉潔白を絵に描いたような方かしら…。結構お歳を召されてるけれどもまだまだ現役で勢力的に執政に取り組まれているわね。あと領主様も獣人を奥方にされていて、とても仲睦まじいと評判よ。あの人も領主様を大変尊敬されてるんだけど、獣人の女性に執心してるのって領主様の影響じゃ無いかって偶に思うのよね」


「ほほう、そうなのかえ…では、その奥方はどのような方なのじゃ?」


「奥方様はセルカちゃんと同じ様に、とても珍しい獣人でなんでも里が嫌で飛び出したところを領主様とお会いして結婚なされたとか」


「珍しい獣人のぉ、それは会うのが実に楽しみじゃ」


「えぇ、そうね。きっと奥方様もセルカちゃんを気に入ってくれると思うわ」


「しかし、北の領主にカルンが南の領主の息子だという証明だけの為に会いに行くのは良いのかのぉ」


「それは大丈夫じゃないかしら。潔白を証明するためでしょ?だったら喜んで協力してくれるはずよ。それに領主の息子ならこっちに来たときに、こちらの領主様に挨拶にきたって何の不思議もないでしょ?」


「ふむ、確かにそれもそうじゃな」


「あっ、着いたわよ」


「おぉ、ここが」


 宿からはそれなりに距離があったのだが、楽しく話していたらあっという間に着いてしまった。

 外観は他のお店などより一段と深みのある色合いの石材や木材で出来た落ち着いた雰囲気の店舗だ、香石を扱っているからか心なしか良い香りがする気がする。

 扉を開けると木のよい香りが鼻腔をくすぐる、獣人は総じて鼻が良いので香りがきつすぎるのでは無いかと身構えていたが、四方を切り出した木材で囲われた程度の香りでほっと一安心だ。

 少し強いが鼻を押さえるほどではない香りを楽しんでいると、すぐに店員の女性がきて深々とこちらにお辞儀をする。


「いらっしゃいませ、シニュ様、セルカ様。ルース様より本日は最高級のものをと伺っております」


「えぇ、よろしくね。私から彼女に贈ろうと思ってね」


「ワシからシニュへは、ワシの持っておる香石を贈るからお相子じゃがの」


「セルカ様がお持ちの…ですか?」


 こちらで出回っている香石は良し悪しはあれどこの一種だけなので、香石を送り合うと言う状況に店員が小首を傾げる。


「んむ、ワシは南の領地から来ておっての、そこの香石じゃ」


「南の香石ですか、確かこちらのものと違って透明なものだとか。失礼を承知でお願いしたいのですが、もしよければ見せていただけないでしょうか?」


「ふむ…流石に完品はダメじゃが、ワシが普段使っておるもので良ければ見せれるのじゃが」


「はい!無理なお願いを聞いて頂きありがとうございます、ぜひお願いします」


 まだ未使用のものはシニュにあげるので、今使ってるものでよいかと聞けば、かぶせるくらいの勢いで返事されたので、使い込んで手のひらに収まるほどのサイズになった琥珀色に澄んだ香石を渡す。


「おぉ、これが…噂にだけは聞いていたのですが聞きしに勝る美しさですね…木々をそのまま晶石にしたような澄んだ色で、当然ですが香りも此方のものと違ってよりスッキリとしていますね」


 恭しくワシから香石を受け取ると、まず香りをかいでからランプの光へと向けその色合いを楽しんでいる店員の目は、まるで新しいおもちゃを貰った子供のように輝いていた。


「セルカ様ありがとうございます。不躾で大変申し訳ないのですが、こちらの製法をご存知でしたら大丈夫な範囲で教えていただけないでしょうか?」


「ふーむ、ワシも詳しくは知らんのじゃがの。原料の樹皮を煮込んでそれを固めたものと言うことぐらいじゃの」


「なるほど樹皮ですか…。この辺りの木は殆ど樹皮が剥がれ落ちませんし無理に剥がすと木を痛めてしまいますね…。こちらにそれを卸して頂くというのは…」


「無理じゃろうのぉ…距離が遠すぎる、下手すれば期を跨いでしまうじゃろうの。何より南の者にはこちらの気候が厳しいはずじゃ」


「そう…ですよね。重ね重ね無礼な質問をし申し訳ありませんでした」


「よいよい、ワシも此方のものが南で手に入ればと思うしの」


「お心遣い感謝します」


 南から北まで運ぶとなると本当に一期かかる可能性がある、ワシらが殆ど馬を休ませずに移動できるのは、馬車に取り付けられている魔具を惜しげもなく稼働させているからだ。

 もし商人がそんなことをすれば、魔石代だけでとんでもないことになる、作っている地域ですら最高級のものを買うとなるとボロ家なら一軒買える程の値段になるのだ、それに輸送費などを含めるとなると凄まじい値段になる。

 商売となると一個運べば良いというものではない、それこそ商えるとなると大商会だけ、さらにはその商会の従業員の一族郎党の命運を賭けた大博打になってしまうだろう。

 さらにさらにそれを卸される側も同じような大博打となると、まともに算数が出来るものであれば絶対に手を出さない案件だろう。

 この世界には損害保険なんてものは存在しないから尚さらだ。


「おっとそうじゃ、ワシも贈答用に一つほしいのじゃが見繕ってくれんかの?」


「どのようなものか、ご希望はございますか?」


「そうじゃのぉ、結婚祝いじゃからそれに相応しいものを頼むのじゃ」


「なるほど…それでしたら香石に夫婦星と世界樹を彫り込んだものなど如何でしょうか」


「ほほう、それは良いの。では、それをお願いするのじゃ」


「シニュ様はいかが致しましょうか」


「そうねぇ…セルカちゃんは何か希望ある?」


「んー彫りがあってはもったいなくて使えんしの、それにワシの持っておるものも彫りはないから普通のものでよいのじゃ」


「そう、じゃあそういうことで」


「かしこまりました、今お持ちいたしますので少々お待ち下さいませ」


 そう言って店の奥へと消える店員を見送りシニュと二人で暫し待つと、真っ白な香石とそれに二つの星と世界樹が見事に彫り込まれたものを持ってきた。

 正直その彫りが素敵なので個人用にも一つほしいくらいだが、こういうものは使わないとなんか悪い気になる性分なので、ぐっとこらえてそれを一つ購入すると伝える。

 家二軒分くらいの値段だったが、坑道の収入があるワシは無敵、文字通りの現金でポンと払うとサービスと言って包むための布と木の箱を付けてくれた。

 シニュが購入した分にも付けると言ってくれたのだが、どうせ腕輪にしまうのだし要らないと伝えさすがにその場で交換するわけにもいかないので、シニュが腕輪に仕舞いお店を後にする。

 そして良い買い物が出来たと二人でまた楽しく話しながら宿へと帰るのだった。

必要ならエリクサーとか躊躇なく使うタイプ

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