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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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124手間

 シニュの言う、質の良い香石を作っているという町へ進路を変え、一度野営をし現在はその町へと向かってアレックスを御者に向かっている。

 香石と言うのは固形の香水の様なもの、女性の―ある程度経済的に余裕のあると付く必要があるが―嗜みの一つだ。

 石と名前についてはいるが石ではなく、琥珀色の透き通ったホットワックスと言えば分かるだろうか。

 お母様の話しによれば透き通れば透き通るほど上質なもので、香りも良く透き通った琥珀色は美しく、それそのものも彫りを施したりすることもあるほどだという。

 琥珀色が濁り、乳白色が混じった香石は粗悪品と言われるのだが、それは香石としてで香りは少ないし美術品としての価値はないが見た目通りワックスとしての価値は高く木材の艶出しにとても良いそうだ。

 それもそのはず、南の領地―今後は正式にカカルニア領と呼称する事になった―では、木の樹皮を煮詰めてその液体を冷やし固めたものだから相性が良くて当然と言えるだろう。


「ワシらの領では樹皮を煮詰めたものなのじゃが、こっちではどうやって作っておるのじゃ?」


「なるほど…樹皮を使ってるのねぇ。こっちのものは私もそこまで詳しくはないんだけど、樹皮を傷つけてにじみ出た樹液を集めてそれを木の種から搾った蝋に混ぜてるのよ。樹液を混ぜる前の蝋を天日に干して雪のように白く美しくなってる蝋を使っているものほど良い香石よ」


「ほうほう、なるほどのぉ…」


 今日も今日とてシニュに尻尾をモフられながら直近の目的地という事もあり、当然ながら話題は香石の事が中心となる。

 数があればサンドラにも買っていこうと考えた辺りで比較的手に入りやすい此方のものより、カカルニア領の物をお土産にすればよかったと思ったが後の祭りだ。

 話をしていてつくづく思うのだが町の名前がないというのは本当に不便だ、もちろん使っている人達も多少は不便に思っているだろうが、それは当然の不便として受け入れられているようだ。

 ありとあらゆるモノに名前がついてる世界から来た身としては不便極まりないが、こちらの人にしてみればそれが当たり前なので特に疑問にも思わないのだろう。

 井戸からしか水をくんだこと無い人と、水道を知ってる人の違いだろうか…いや、それを不便と思ったからこそポンプや水道が発達したから違うか…?

 名前に対しての捉え方の違い…うーん…。


「どうしたの?難しい顔なんてしちゃって」


「いや、名前がないといろんな町や村の事を話しておったらこんがらかってしまうのぉ…とな」


「そう言えばそうね、次に行く町みたいに香石みたいな何かがあればいいのだけど、何もない村なんかが複数出てきちゃうとわからなくなっちゃうわね」


「じゃろう?」


「でも、何もない村は話題にも上がらないし大丈夫じゃない?」


「それもそうじゃがのぉ」


 確かに何かあるからこそ町などとして発展したわけで、長距離の移動が危険を伴うこの世界たしかにそこまで気を回す必要も無いのだろう。

 大多数にとって必要がないということは発展しないということだ、それこそ何もない村のように。

 そういう名もなき村は大抵、魔物の増殖に巻き込まれてひっそりと滅ぶのがこの世界の常だ、そういう村に態々名前を付けて気を配るなんて余裕も無いから仕方がないのだが。

 ワシは女神さまから、この体と魔手というチートを貰っているので忘れてしまうが、この世界の人にとって魔獣やそれ以前に野生動物ですら脅威なのだ。

 魔獣一匹とっても、ハンターが複数人でかかって倒すようなものだ、魔物に至っては言わずもがな。

 野生動物や弱い魔獣であれば、そこそこ腕の立つハンターであれば一人で勝てることもあるが、そういう動物や魔獣は大抵群れで行動してるからやはり複数人必要となる。

 それを考えると、一個人で魔物を圧倒できるワシはチートなのだとつくづく思う。


「うぉーい、右から群れだーたのむー」


 ちょうどそんな時、馬車の外からアレックスの間延びした声が聞こえる。

 馬車の後ろ側から外を覗くと、丁度此方を標的と見定めたのか黒い狼の群れが走ってきているのが見える。

 こういう時は振り切れる時はふりきって対処するのだが、今は人数も増えさらに雪道なので速度も出ていない、しかも相手は狼の魔獣追いつかれるのも時間の問題だ。


「カルンやー、頼んだのじゃ」


『『ファイアボルト』』


「ほっ!」


 カルンとインディの魔法が突き刺さり何匹かの狼が脱落する、そこへ馬車から飛び降りたワシがまだ無事な狼に向けてグシャリと手を振り下ろしトドメを刺す。

 右へ左へと飛び回り動くものが居なくなったのを確認すると馬車へと駆け出し、伸ばされたカルンの手を取って飛び乗る。

 徐行運転している馬車よりもワシの方が早いため出来る芸当だ、まさにチートさまさま良い子も悪い子も真似してはいかんぞ?


「ほんとそんなに速度が出てないとは言え、馬車から躊躇なく飛び降りるのは毎度のことながらびっくりするわねぇ」


「馬車を止めて囲まれるわけにもいかんしのぉ」


「私も獣人の端くれ、身体能力には自信があるけどセルカちゃんみたいにぴょんぴょん飛び回るのは無理ね」


「ふーむ、そんなもんかの?」


「大抵の獣人はヒューマンより身体能力は高いけど、その中でも別格ね」


 シニュはワシが会った初めてのハンターの獣人でしかも女性、こういう話題も話せるのでとても楽しい。

 北の街までという短い付き合いなのが残念なほどだ、できれば今後とも貴族を夫に持つ奥さん仲間としても仲良くしていきたいがこの世界で距離というのは想像以上に人々を隔絶する要素なのだ。

 なればこそ、別れるまでにもっと色々話そうと、ますます馬車の中は二人の会話でやかましくなるのだった。

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