13手間
おすすめの飯屋に案内すると言いつつ、此方を一切振り返らず歩くアレックス。
歩幅がかなり違うせいで、ずんずんと置いて行かれるので速足で追いかける。
飯屋が何処にあるか知らないが、多少速足で連れまわされたところで早々疲れることは無い。
しかし、これは我慢ならんと駆け足で追いつき背をたたく。
「おぬし、ちぃとはワシに歩きを合わせんか」
すまんすまんと言いつつ歩く速度を落とすが、しばらくするとまた元に戻る。
駆け足でまた追いかけ、今度はその勢いのまま少し跳び背中を軽く蹴り飛ばす。
つんのめりかけたアレックスが非難の目を向けてくるが、
「おぬし、また元の速さに戻っとったぞ、そんなんではモテた例もあるまい」
「んぁ?いや俺は強いから結構モテるぞ、その代わり長くはないがな」
なんて笑っておるが…
「言われねば歩幅を合わせぬ、言われても3歩歩けば忘れる鳥頭。
2,3回なら我慢できるが、それも毎回となれば大方愛想尽かされてフラれとるんじゃろ」
「そういや…毎回打ち合わせしてるかってぐらい、もうちょっと気を遣えだの言われてるな」
「12の小娘にすら気づかれるのに、それに考えも及ばぬとは情けないのぉ」
前世で何年生きたかなんて忘れてもうたが、確実に中身は12では無いがの。
といってもヒューマンの宝珠持ちは寿命が長い分、成長も緩やかになるようで
外見が幼いからといって中身もそうであるとは限らないため、他種族だとしても
そういったところで相手を侮るということは少ないらしい。
アレックスは苦虫をかみつぶしたような顔をしつつ。
「実際の中身はどうだか。まぁいい、それじゃあ手でも繋いでいくか?お姫様」
一瞬見抜かれたかと思ってドキッとしたが、獣人やハイエルフの中には
10歳程度の見た目でも100歳越えもいるという話なのでそれの事だろう。
差し出された手をパシッと叩き落として。
「調子に乗るでない、ワシをお姫様と敬うなら、脇に控え煩わせぬのが騎士の務めであろう」
「はっはっは、それじゃあお姫様。ワタクシ御用達で心苦しいですが、こちらの食堂が
本日のお昼をお召し上がりになっていただきになるところでございます」
なんて怪しい敬語で大仰に扉を開いて中に入れと促してくる。
どうやら茶番をしてるうちに、目的の店についたらしい。
無骨な店構えから武具店だと一瞬思ったが、どうやら違ったらしい。
看板を見れば、そこには剣でも鎧でもないジョッキの意趣。
うん、これ酒場じゃ。
「のう、アレックスや。ここはワシの見間違いでなければ酒場じゃよな?」
「そうだ。ここはメシもうまいぞ!」
「まぁそうじゃろうの、おぬしじゃものな」
憐みの目を向けつつ、開け放ったままの扉をくぐる。
中もザ・ファンタジーの酒場といった感じで、元はロープを巻き付けておいたものであろう
木製の巨大なボビンを横倒しにしてテーブルに、小さな樽をイスにしている。
唯一まともなカウンターテーブルと椅子の奥には、盗賊の頭と言われたら納得するような
恐らく店主であろう、筋骨隆々の禿頭が睨んでいる。
適当に空いてる樽に腰掛けると、タタタッと厨房の方から実に気が強そうなお姉さんが駆け寄ってきて
「いらっしゃい、なんにする?」
そういわれ周りを見回しても、メニューのようなものはない。
どうするかとアレックスをみれば、おすすめのやつと注文している。
「お嬢ちゃんは?」
「ワシにも同じものを」
「あいよ、おすすめ2つねー」
そういうやまたタタタッと厨房に戻っていく。
ようやっと一息ついて周りの客を見渡せば、剣や槍とか杖などを背負った
いかにも荒くれといった人たちがジョッキで酒をあおっている。
「真昼間から酒とは…なかなかハンターは愉快な職みたいじゃの」
「まぁな。それに、夜中に狩りに出て朝帰ってきてその後って奴も中には居るが
たいていは休みたいときに休んで酒飲みたいときに飲むって感じだな
もちろんそれ相応の稼ぎがあるやつに限るが…。
四、五のヒヨッコにはそんな余裕は無いな、特に四に上がったばかりの奴にはな。
四から自分で宿をとる必要があるから、懐はさらにカツカツだ。
五の内に金を貯めて、多少宿を取っても大丈夫なようにするのがハンターの常識だな」
「ふぅむ、なかなかに夢のない話よのぉ…しかしみな三ばかりとはどういうことじゃ?」
「ま、夢じゃ食ってけねぇ、それで食えるのは二や一の奴らだけだ。
んで、ここには三だけってぇのは…」
言い切らないところでお待たせしましたーとお姉さんが料理を持ってきた。
朝も食べた黒パンにと、色や見た目、匂いもまでまさにクリームシチューな料理が置かれる。
木のスプーンで一口食べてみたところ、味もクリームシチューで思わず顔がほころぶ。
何口か味わったところで先ほどの話の続きをうながし聞いたところ。
二以上になるには世界樹にある本部で昇級する必要があるから、
そのままその辺りを拠点にするか、戻ってきてももっといい店を使うかららしい。
四、五はさっき言った通りまずこういう所に通う余裕は無いし、
来たとしても夕方以降昼間はせっせと狩りに勤しんでいると。
だから余裕のある三しか昼間は居ないと言うことらしい。
「さてと、食い終わったしこの後どうするよ、武具でも見に行くか?」
「それはよい、武器はナイフがある。こいつは中々業物じゃからの」
そういってナイフを取り出す。
「なるほど、こいつはかなりいいやつだな。マナの通りも良さそうだ。
じゃあ防具か?見たところ足だけっぽいが」
「それもいらん、このポンチョはそこらのものより丈夫じゃからの。
とりあえず、適当に魔獣でも狩って宿を取ろうと思ってるのじゃが…
よい狩場か何か知らんかの?あと宿もの」
「それならちょうどいい、俺も一緒に行こう。宿は途中で取ってから出よう。
戻ってきて宿が満員で野宿なんて嫌だからな」
「それはありがたいが、いいのかえ?」
「あぁ、気にするな。と言うか規則だ、登録直後の狩りには三以上の同行が必要ってな。
無茶な狩りや場所にいってのたれ死んで、穢れの足しにされないためにな。
三が許可を出したら晴れてソロデビューってやつだ。お姫様ならこの辺りであれば大丈夫だろうが、
一応規則だからなあきらめてくれ」
「否やはないの、むしろ有り難い。どこに何がいるなど知らんからの」
新人が皆そのぐらい物分かり良ければ楽なんだがなぁと呟きつつ
アレックスがお金を出そうとするからここはワシが払う約束じゃがと言うが、
「言ったろここには三しかいない。つまり同業だ。明らかに見たことない子供に
飯代払わせてたらいい物笑いのタネだ。一生言われちまう」
そういってさっさとお金を払って外へ出ていく。
途中アレックスが言った通り宿を取り、街の外に出るため門に向かう。
最初からワシに奢らせないためにあのような店を選んだのかとも思ったが…
此方を一切振り返らず、ずんずんと進む背中を見てそれは無いなと首を振りつつ追いかけた。
ごはん食べただけで終わった
次回こそは戦闘回に




