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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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121手間

 ドンドンドンという乱暴なノックに不快さと嫌な予感を覚えつつ体を起こそうとするが、体に引っかかりを覚えそこで昨晩は尻尾にアイナが抱きついたまま寝たんだったと思い出す。

 アイナをどかそうと振り向けば、寝る前の感触では適当に抱きついていただけだったのが、夜中にでも起きたのか尻尾の内一本を枕にもう一本を抱きまくらにし、その他を掛け布団にするように寝ていた。

 幸いな事に尻尾にヨダレは垂れていない、寒い地域に来たからか寝るときはいつもワシの尻尾で寝ているのだが、ワシが起きたのを感じ取ったのか尻尾から首だけちょこんと出してきた、スズリは掛け布団にされてる方にいたようで潰されてなくて一安心だ。


「くぅ、やはりおぬしは愛いやつじゃのぉ」


 一通り撫でくりまわしたところでドンドンドンというノックの音が強くなる。


「あぁ、そうじゃったそうじゃった…よっ…と」


 アイナを起こさないように尻尾を抜き取り、代わりに毛布を上にかけて扉へと向かう。

 この部屋には窓がなく真っ暗だが、扉から漏れ出る程度の光さえあれば、部屋の中を動き回るくらいはワシの目をもってすれば造作もない。

 鍵…と言っても扉と壁にある鈎に棒を乗せるだけの簡単なものを外し、扉を開けると宿に泊まったときとは別のおばちゃんがそこに立っていた。


「おぉ、やっと起きたかい」


「流石にあそこまで五月蝿くされてはのぉ…それがこの宿の売りかえ?」


「す、すまないねぇ…け、けどあんたにお客さんだったからさ…」


「人が寝ておる様な時に訪ねてくる者なぞ、碌なもんじゃ無いじゃろ、追い返しておくれ」


 アイナやスズリのお蔭で多少機嫌が持ち直してるとは言え、すっかり寝てる所を乱暴に起こされたのだ、不機嫌さを隠すこともなく言い返し扉を閉めようとするとおばちゃんが扉に体を滑り込ませるようにして閉めるのを妨害してきた。


「ま、まっておくれよ。頼むから来てくれないかい?」


「断る」


 これだけ宿のものが必死なのは、先日見たこともありどうせ、あいつかあいつの使者の関係に違いない。

 宿の人には悪いが正直、もう関わり合いたくないので体を扉に挟み込んでるおばちゃんの体を押し返そうとした所で。


「騒々しいな、まだ彼女を連れて来られないのか?」


 貴族というだけあって実に偉そうな、気品に満ちた声が聞こえる、まさかのご本人様登場である。


「も、申し訳ございません、ですが会いたくないとの事でお部屋から出てくれなくて…」


「よい、この状況を見れば貴様が悪いわけではないのは分かる。さてここで話していては他の客の眠りを妨げることになる此方に来い」


 客の眠りをたった今妨げた張本人が何をとも思うが、ここで言い争ってはカルンやアイナを起こしてしまうことになる。


「ふん、おぬしの意見に従うのは甚だ不本意じゃが…眠りを妨げられる不快さはよーく分かるからの」


「ふっ、そうやって初めから素直にしたがって居ればよいのだ」


 キザったらしいポーズと共に口にするとツカツカと先に歩いて行ってしまった。

 ここで言葉を違えて、もう一眠りしてもいいのだがそうなると、どうせまた喧しくなるのは火を見るより明らかなので渋々その後に付いていく。

 優男が入っていった部屋に続いて入ると、さっきまでワシが居た部屋に窓とストーブを備え付けた程度で他はほぼ一緒な部屋に優男の他に一人、先日みた獣人の妻達とは別の女性が居た。


「まさか…おぬしら二人だけで来たのかえ?」


「そうだ、昔は私もハンターをやっていたのだがね、父上の跡を継ぐ為に止めたのだ、そして彼女が一緒にハンターをやっていた仲間の一人でね、引退するときに結婚したのだよ」


 呆れたと言う意味だったのだが、なぜか突然惚気けられ更には目の前でキスまでしだした。


「本来であれば町から出るときは護衛を付けるべきなのだがね、今回は私の私事だ。そんな事に護衛の手を煩わせるわけにはいかないのでな」


「私事でも警護するのが護衛の仕事じゃろうに…」


「護衛は町の税金から雇っているからね、私事では動かせないのだよ。それにこう言っては何だが私も彼女も引退した身ではあるが腕には覚えがあるのでね」


「まぁよい用件はなんじゃ。しっかりと断ったはずなのじゃが?」


「ふふふ、君のような将来有望な蕾を見逃すわけにはいかないからね。しかも、君のような見事な毛並みの尻尾は中々お目にかかれない、それに複数ある尻尾なんて初めてみた。率直に言おう君に一目惚れしたのだよ」


 ワシの尻尾や耳をうっとりとした目で見つめられ、ゾゾゾッっと背筋に氷を流し込まれたかのような悪寒を感じる。


「へ、へんたい…」


「変態とは失敬な。耳も尻尾もヒューマンにはない女神が与えたもうた祝福だ。そこらにいる愛玩動物の毛並みなどとは比べ用も無いほどのな。そして獣人はみな短命だ、花は散るからこそ美しいそんな花を散るときまでそばに置いておきたいと思うことは可笑しいだろうか?」


「ワ、ワシには理解できぬのぉ…何より妻の前で他の女性に秋波を送るやつなぞごめんじゃ。お主はそれでよいのか?」


「妻が増えようと旦那様は私に変わらぬ愛を注いでくれますから、それに私以外の妻は皆、元々孤児や未亡人感謝こそすれ思うことなど何も」


 そばに立っていた獣人の女性は、そう言うと愛しげに優男に微笑む。


「ふぅむ、ワシには無理じゃのぉ。やはりカルンにはワシだけを見てもらいたいからの!」


「フッそれはそれで一つの愛の形だろう、それに理解できないものを理解してもらおうとは思わないよ。しかし、そのカルンと言う男は本当に領主の息子なのかい?確かにカカルニアの領主には三人の息子が居るとは知っているが名前までは知られていないからね」


「ふむ?そういえばそうじゃの、確かに示すものは無いからの。家紋…か…帰ったらお父様に提案してみるかの」


「まぁよい、そこで提案なのだが、領主様ならば流石に息子の名前までも知っておられるだろう。なので共に北の街フェイルニアまで行かないか?そこで領主の息子か確かめて本当にそうであれば、流石の私も諦めよう、だが偽りであれば名を騙ることは重罪だ、その夫には罪を償ってもらい君には私の妻となってもらおう」


「共に…じゃと?それでお主らとワシらに何のメリットがあるというのじゃ。それにおぬしとここの領主がグルという可能性もあるのじゃが」


「共に…のメリットを先に説明しようか、まず僕達のメリットだが君に私の素晴らしさを見せれる機会がある、それが全てだね。次に君たちのメリットだけど私は仮にもこの領地の貴族だ色々と便宜を図ることが出来る。たとえば宿や馬車が万が一壊れたときなどだね。此処から先はますます厳しい気候だ損は無いと思うのだがね。最後に領主フェイルス様と私がグルではないかという疑念だが、あり得ないフェイルス様は雪のような清廉潔白を是としている方だからね、私も見習っているのだがまだまだ…」


「う、むむむむ」


 こいつも色ボケの変態なのを除けば悪い噂は無いし、むしろさっきも優男の妻が言ったように孤児や未亡人の身元を引き受ける善行を積む良い方だ…ただし無類の獣人好きだけど…というのがこの付近の住民の評価だった。

 それに正真正銘カルンは領主の息子、こっちの領主に会えば諦めるというのだ悪い話ではない、それに道中ワシとカルンのラブラブっぷりを見せつければ行くまでもなく諦めるかもしれない。


「良い…じゃろう…ただし!道中ワシに絶対に手を出さぬ事!これは絶対じゃぞ!」


「当然だそこは確約しよう、女神様に頂いたこの名に誓ってな。それではいつ出発するのかい?こういうことは早く済ませるに限る」


「早くとも明日じゃの、お主から逃げるためにちと馬に無理をさせすぎたのでの」


「おぉ、馬にまでも気遣うその優しさ、ますます惚れるにふさわしい女性だ」


「お主に褒められても、毛ほども嬉しくないのはなんでじゃろうのぉ」


「ふふふ、今に私の魅力に気付くさ」


「はぁ、取り敢えず今日はワシらは周辺に狩りに行くつもりじゃ、明日以降は馬の様子をみてからじゃの」


「ふむ、では狩りに同行しよう。引退したと言っても腕は常に磨き続けているから問題ないよ」


「はぁ…好きにするが良い…」


 変態の相手にどっと疲れを感じつつも、今の話を伝えにとりあえず部屋へと戻るのだった。

なんと へんたいが なかまに なりたそうに こちらをみている!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「良い…じゃろう…ただし!道中ワシに絶対に手を出さぬ事!これは絶対じゃぞ!」 どうして相手に同意を求めるのかな?手を出したら殺すで良いのでは。
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