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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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120手間

 曇天の切れ間から見える陽の光に随分と赤みが増した頃、雪の中でも青々とした葉を茂らす針葉樹林の様な雰囲気の森の合間をすり抜けるように曲がりくねった道の先、木で組まれた塀が見えた。


「村が見えたのじゃ」


「ん?どこだ?」


「もう暫く行けば見えるじゃろう」


 森と森の間、ひときわ開けた場所にその村はあった、周囲にある背の高い木を利用した塀に木々を利用して造られた門、それが街道の行く手を阻んでいた。

 門の上には周囲を見張るための櫓が置かれ、そこには人が詰めているようでこちらを観察していた。


「おーい、開けてくれんかのぉー」


「急いでるようだったが、追われているのか?」


「いや、日が暮れそうじゃったからの急いでおったのじゃ」


「そうか、今開ける。人だ、開門!」


 門番の様に下に立っている者は居なかったので、声を張り上げて櫓の人と話して門を開けてもらう。

 櫓の人の姿が見えなくなり開門の声が聞こえて少しすると、ギギギギと木が軋む音と共に門が左右へと開いていく。


「ほら、早く入れ」


「ほれ、ジョーンズ」


「お、おう」


 少し呆けていたジョーンズの小脇をつつき、馬車を村の中へと進めさせる。


「呆けておったが、なんぞ珍しいもんでもあったかの?」


「あーいや、全部木でできてんのは初めて見たなーってな」


「そういえば、そうじゃのぉ」


 所々に木が使われていたとしても、石組みか土壁の塀や壁で覆われている町や村ばかりの中、全てが木で出来ているのは確かに珍しい。


「おぉ、そうじゃ。ちとおぬしや、宿がどこか知らんかの?」


「あぁ、それならあそこ。ほらあの一番でかい建物、あれが宿だよ。けど昨日にハンターの団体が来たから部屋が開いてると良いだけど」


「む、そうなのか…もし部屋が無かったらどうすればよいかの?」


「うーん。そうだねぇ、そのときは宿の反対側、少し大きい建物、あそこが村長の家だからそこで聞いてみれば良いんじゃないかな?」


「なるほど、助かったのじゃ」


「おう、じゃあな」


 門の開け閉めを終わり、一仕事終えたとばかりに門近くの小屋に帰ろうとしてた男を捕まえて宿の場所を聞くとそんな話が聞けた。


「部屋が開いてることを祈るかの」


「そうだなー」


 寒村と言っては失礼だが、そんな村の規模に比べるとかなり大きな宿へとたどり着くと、馬車から飛び降りて、馬の首を撫で労る。

 なれない雪道を飛ばしてもらったということもあり、かなり疲弊しているようだったからだ。


「この子もだいぶ疲れておるようじゃし、明日は一日この村で休むことにするかの、後は様子をみて滞在日数を決めればよかろうて」


「いいのか?」


「仕方なかろうて、荷がないとは言え一頭引きでこの雪道を駆けてきたのじゃ、潰れてもらっては困るしの」


「それもそうか。よしよしよく頑張ったな」


 アレックスがタテガミを撫でると、気持ちよさそうに馬が嘶く。


「それでは、お主はそのまま馬車を預けてきておくれ、ワシは宿を取ってくる」


「あぁ、わかった」


 宿に入るとそこはすぐに、宿の規模から考えると少し狭い気がする食堂、その中央には今も薪が燃えている囲炉裏その上には鉄輪に乗った鍋がぐつぐつと音をたて、いい匂いを漂わせている。


「いらっしゃい、食事かい泊まりかい?」


「両方かの」


 鍋をかき混ぜてたおばちゃんが此方に気付き声をかけてきた。


「昨日大人数が来たから、部屋は大部屋一つと普通の一つしか空いてないんだけど、大丈夫かい?」


「ふーむ。大部屋というのはどの位の大きさなのじゃ?」


「大部屋と言ってもせいぜい四、五人が泊まれるくらいの広さだね。普通の方は二人くらいだね」


 その時、馬車を預けてきたアレックスが遅れて宿に入ってきた。


「お?どうしたんだ、まさか部屋がなかったとか?」


「いや、部屋はあるんじゃがの四、五人が泊まれる部屋と二人が泊まれる部屋しか残ってないそうじゃ」


「じゃあ、いつも通りカルンとセルカが同じへや…でっ!」


 最後まで言わせないとばかりに、アレックスの脛を蹴り上げる。


「流石におっさん三人の中にアイナを入れるわけにはいかんじゃろう。カルンやー、すまぬがアレックスと一緒でがまんしておくれー」


「ははは、わかりました」


「いっててて、なんで蹴るんだよ今更じゃねーか」


「何を言うておる、おぬしら三人がいくら幼女趣味と言われようが構わぬが、アイナがなんと言われるか…」


「僕は別にいいけどー?」


「アイナはいい子じゃのぉ」


「ひっで」


「という訳じゃその二部屋を借りるのじゃ」


「あいよ、それで食事はどうするかい?宿泊客にはサービスだよ」


「そうか、それでは折角じゃし頂くのじゃ」


「そうかい、それじゃ丁度煮えたところだから、好きな所に座りな」


 じっくりと煮込まれたシチューと囲炉裏で炙ったパンを食べ終えると、おばちゃんの案内で部屋へと行く。

 空いていた部屋の入り口は廊下の一番奥、丁度お互いの入り口が向かい合う場所のようだった。


「それじゃごゆっくり」


「んむ、おやすみなのじゃー」


 この部屋には構造上ストーブがない、お蔭で残っていたわけだが。

 すこし冷える中、手早く体を拭き、さっさと寝台へと潜り込む。


「うぅー、さむいー」


「うーむ、そこまでかのぉ?」


「そうだよ、こんな毛布一枚じゃ凍えちゃうよ!」


 部屋の中には二つの寝台があり、そのうちの一つからアイナの泣き言が聞こえる。


「ふーむ、ではもう二、三枚…」


「そうだ!」


「どうしたのじゃ?」


「セルカちゃん尻尾!尻尾貸して?」


「それはどう言う…」


「ほら、向こう、向こうにゴロンってして」


 アイナが寝台から這い出すと、毛布をもってワシの寝ている方へと来てアイナに背を向けるように転がされる。

 そのせいで体の下敷きにされた尻尾をアイナが引っ張り出すと、九本の尻尾に埋もれるようにアイナがそこに入り込んできた。


「あぁ、あったかいーそれにもふもふでさいこー……」


「アイナや、スズリは潰れておらんじゃろうな?アイナ?」


「キュ!」


 アイナの返事の代わりにスズリからの鳴き声がするので、耳をすませるてみればすーすーと寝息が聞こえた。


「すさまじい早さじゃの…」


 尻尾をぎゅっと抱きしめられているため身動きが取れない、仕方ないかとため息を一つして、ワシも寝息を立てることにした。

 翌朝、ドンドンドンという嫌な予感しかしないノックで目がさめるのだった…。

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