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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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117手間

 風も強く気温は低かったが、それ以外は天候に恵まれ一度野営を挟んだだけで予想よりも早く次の町へ到着することが出来た。

 野営も街道脇の雪は街道のものより積もっていたが、それでも精々腰までだったのでしっかりと踏み固めてから、このために購入していた幅広の杭で固定したので特に問題はなかった。

 むしろ雪を踏み固める行為が楽しかったのか、アイナやカルンは兎も角アレックスたちおっさん三人組もはしゃいでいた、確かにこの雪でスキーやスノボードをすればさぞかし楽しいだろうと思える雪質で、まだ誰も踏みしめてない雪に足跡を付ける気分やあの独特のさくさくとした感触を思えば無理もないが。

 かくいうワシははしゃぐことも無く黙々と作業をしていたのだが、実を言うと所々にあった何となくあそこに飛び込みたいと思うポイントに、頭から雪に突っ込みたくなる衝動を抑えるのに必死ではしゃぐ余裕がなかっただけだが。

 そんなこんなで本格的な雪の中での野営も無事に終え、翌日も多少は曇っていたが天候にも恵まれたという訳で予想よりも早く着いたのだ。


「次!身分を確認できるもの…を…獣人の…子…」


「うん?ワシがどうしたのかえ?」


 前の人を見送った後、次と声をあげつつ此方を振り返った衛兵は、ワシを見て何事か呟き言葉を失っている。


「いや…うーむ」


「もしや、この町では獣人は嫌われておるとかかの?」


「そういでは無いのだが…むしろ…」


「むぅ?」


「いや、すまない。我々に止める権利は無いのだ。身分証を、それと中の荷は何かな?」


 何事かを暫く考えていたようだが、ようやく口を開くと前半は何か申し訳なさそうな堅苦しい口調だったのだが、後半はまるでお使いに来た子供にかけるような優しげな口調になっていた。


「ほれ、ハンターギルドのじゃ、それと荷は無い人だけじゃ。あとワシはこう見えても成人しておる」


「あぁ、それはすまないお嬢ちゃ…さん。っとこれは二等級の…失礼しました。規則ですので荷はないと言えども、中を検めさせてもらいますがよろしいでしょうか?」


「うむ」


 衛兵の態度の変化に気を良くしてドヤ顔で対応する、アレックス達の方が舐められることは無く良いのだが、二等級のハンターと言う肩書は相当凄まじく、大抵の人は恭しく接してくれる。

 現に馬車の中もチラッっと見ただけで検査は終了した、三等級の頃は初めていく町だと、その町馴染みの商人の護衛と言えども腕輪の中まで検めないと入れなかった。

 もちろんその特権に相応しい貢献をし続けないといけないのだが…その貢献というのも二等級になった際の活躍具合で変わってくるのだが、ワシの場合は鉱脈の発見による人々の生活の向上、支部が存在する領地への献身となりかなり上のものなので、そこまで必死になって二等級を維持する貢献をする必要もない。


「問題ありませんでしたのでどうぞお通りください」


「うむ、ご苦労様なのじゃ」


「いえ…お気をつけて」


「うん?そうじゃ、オススメの宿なぞ知らんかの」


「宿ですか?そうですね…この道を行った先に広場があるのですが、そこにある宿が良いかと」


「そうか、助かったのじゃ」


「いえ、お役に立てたようで」


「うむ、ではの」


「ど――る?」


「いや、―んら―――」


 馬車を走らせ始めると、何事かを衛兵達が話し合っていたのだが、ガタガタと鳴る車輪の音に阻まれて聞くことができなかった。

 町中は流石にというか地面が見えている、これが雪だったらもう少し車輪の音も静かで聞こえたかもしれないが。


「まぁ、よいか」


 予想よりも早くついたとは言えもう日が暮れようとしている、教えられた宿へと向かい馬車を預けて部屋を取る。

 併設されている食堂の混み具合から部屋が取れるかと心配だったが、その殆どが食事だけの人のようでいつも通り三部屋確保することが出来た。


「くふー、これじゃこれ。最高じゃのぉ」


「そんなに食いたかったのかよそれ…」


「うむ、これほどの町であれば食べれると思っておったが、早速食べれるとは重畳じゃ」


 米の代わりにお肉を詰めたおいなりさんを、ぽいぽいと口に放り込む。

 もっと食べたいがもう入らない、今だけは自分の少食具合が恨めしい。


「しかし、席を譲ってもらって助かったのぉ…」


「あぁ…けどあれは譲ったというか、巻き込まれたく無いとかそんな感じもするがなぁ」


「まぁ、確かにの」


 ぐるりと見渡せばこちらを伺っていた人達がサッっと目をそらす、けれどその目は嫌ってるとかでな無く、哀れんでと言うか何と言えばよいのか微妙な視線だった。


「今のところ気にしても仕様が無いしの、天候次第じゃが明日には出るしどうでも良いじゃろう」


「それもそうだな」


 それでも何となく居心地の悪い視線だったので、さっさと部屋に戻り寝ることにした。

 翌朝、ドンドンドンとノックにしてはいささか激しい音で目を覚ます。


「なんじゃぁ、ノックならもちっと静かにせい」


「すまないが、あんたにお客さんなんだ、すぐに来てくれ」


「うぅん…?ワシに客?なぜじゃ?」


 扉を開けるとそこには昨日、食堂のカウンター兼受付に立っていたおっさんがいた。

 しかし、ここには昨日ついたばかり、さらにこの町には初めてきた知り合いが居るはずも無いし、仮に居たとしても訪ねてきたタイミングがおかしすぎる。


「いいから早くしてくれ、頼むよ食事代サービスするからさ」


「ふぅむ。いいじゃろう」


「助かるよ、それじゃこっちだ」


 特に予定も無いのだ、多少人に会ったところで問題はない、それにそれだけで食事代をサービスするというのだ。

 宿のおっさんの後に続いて歩く、てっきり食堂で会うとばかり思っていたのだが、案内されたのは一目で上等と分かる扉の前だった。


「お連れしました」


「入れ」


 コンコンコンと先ほどとは打って変わって、宿のおっさんが恭しい態度でノックすると中から実に偉そうな声が聞こえた。


「お前はもう帰っていいぞ」


「しかし…」


「私の命令が聞けないのか?」


「し、失礼しました」


 宿のおっさんが扉を開け中に入ろうとすると、ワシは宿のおっさんの後ろに居るので直接見えないのだが、偉そうな声でまたもや文字通り命令が聞こえた。

 ペコリと一礼してワシの前から宿のおっさんが退いたおかげで見えた人物は、上等と分かる服を着こみ、ウェーブを描いた髪を耳の辺りで乱雑に切りそろえたお坊ちゃんといった感じの偉そうな青年だった。

 それがソファーに両足を組み、両手を背もたれにかけている実に傲岸不遜な感じで座っている近くには、猫耳、犬耳、様々な毛色の獣人の女性を侍らせていた。


「ほう…これは聞きしに勝ると言う奴だな…」


 そんなセリフと共に嘗め回す様に此方をみる視線に、何とも言えない不快感を感じるのだった…。

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[気になる点] 余字:い 「そういでは無いのだが…むしろ…」 余字:な ぐるりと見渡せばこちらを伺っていた人達がサッっと目をそらす、けれどその目は嫌ってるとかでな無く、 [一言] 腕輪があるので、沢山…
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