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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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115手間

 ジョーンズが寒さの限界を訴えたため、途中で御者を交代しつつも、何とか雪が強くなる前に町にたどり着くことが出来た。

 無理してもと言っていた割には近かったが、お蔭で何時ぞやの強行軍の様になるかという覚悟は無駄になってしまったけれど、遠いよりは何倍もマシだ。


「なぁ…なんでこの町の家は、土台があんなに高いんだ?一階くらいはあるだろあれ、玄関が二階にあるじゃねーか」


「頻繁にあそこまで雪が積もるんじゃろうよ、一階は倉庫にして二階から居住空間と言ったところかの」


「ふーん」


 アレックスが馬車を繰りながら、自分で聞いたにも関わらず興味無さそうな声を出す。南の町は平屋や二階建ての建物が多く、風通しを重視した造りになっている。

 それとは逆にこの町…というか北の領地の建物はどれも屋根が鋭い三角形で背が高く、一階は石造りで二階から木造、そして中には三階建てまで混じっている。更に入り口は二階にある家ばかりだ。

 恐らくそれほどまでに雪がつもることが多いのだろう、現に道の雪は除雪というか脇に寄せられ、その雪で一階はまるで斜面を造るかのように覆われている所が多かった。

 町に入る際に門番に話を聞いたところこの町に宿屋は二つあり、そのうちの一つは燃料代だけ払って後は客任せ部屋も大部屋だけの木賃宿だったので、もう一つの食堂が併設されている宿を利用することにした。


「はぁ…やっぱ暖かい所は最高だな、もう暗いしさっさと飯食って寝ようぜ」


「それがよさそうじゃの」


 この宿の食堂は先日の宿とは違い、囲炉裏ではなく暖炉が備え付けられパチパチと炎の爆ぜる音が聞こえる。

 その暖炉では中身はスープであろうか大きな鍋と、串に刺された肉が焼かれていい匂いが漂っている。


「いい匂いですねぇ」


「んむ、実に腹に良くない匂いじゃ」


「くぅ、たまらんさっさと食おうぜ」


「そうじゃの」


「いらっしゃい、何にする?今日はハンターの人がいい肉を取ってきてくれたから、それを焼いたのと煮込んだのがオススメだよ」


 空いていた席に座るや否や、女将さんといった恰幅の人が元気よく接客をしにきた。


「ふむ、ではワシはそれを両方貰おうかの、少なめにしてほしいのじゃ」


「僕も彼女と同じものを、普通の量で」


「あっ僕も僕も」


「俺ら三人もおんなじもんを、ただし大盛りでな」


「あぁ」


「あいよー、それだけでいいかい?」


 インディも首肯すると女将さんが追加は無いかと聞いてくる。


「んじゃ、エール三つ」


「ワシはそれで…あ、トフを揚げたものはあるかの!」


「おや、お嬢ちゃん渋いもん知ってるね、だけどごめんね。この辺りじゃトフを作ってないんだよ」


「そ…そうなのかえ…」


「もうちょい北か南の町なら作ってるんだけどね、仕入れようにも運んでる途中でカチコチに凍っちゃって、溶かしてもパサパサになって食えたもんじゃないんだよ」


「ふぅむ…」


「ごめんね、それでお嬢ちゃんは飲むかい?」


「んー、いやワシは遠慮しておくのじゃ」


「僕もいいです」


「僕もいらないかなぁ」


「あいよ」


 女将さんが去っていき、料理が出てくるまでの間、他愛もない話に花を咲かせる。


「おまたせー、そっちのおっさんどもにはエールもね。それと、トフが無い代わりにお嬢ちゃんには…これ、おまけだよ」


 どん!どん!どん!と女将さんは豪快に料理や飲み物が入ったジョッキを置いていき、最後にワシの前にとろりとした白いものがのったパンを置いて、パチンとこれまた豪快にウィンクをして去っていった。


「おぉ、この匂いは…」


 幾つかにパンは切り分けてあるが、それでも一個まるまるは大きいので千切ると、上に乗った白いものは千切ったパン同士の間で尾を引いていくその尾から口に運ぶと濃厚な香りと味わいが広がる。


「くぅ、やはりチーズじゃったか」


「うへぇ…よくそんなもん食べれるなぁ…」


「僕もちょっと無理かな…」


「ねぇ、セルカちゃん僕にもそれ一口頂戴?」


「んっむ、よいぞー」


「ありがと!」


 千切った片方をアイナに渡すと思いっきり口に頬張る、チーズは匂いもそうだが味も人によっては受け付けない人も居るのだが、綻んだ顔を見ればその心配は杞憂だろう。


「どろどろでくっさいもんが良いとか、やっぱじょしだ…いっでぇええ」


 変なことを言ったジョーンズの足を思いっきり踏みつける、これだからモテないおっさんは…。


「アホが言ってることは兎も角、この匂いと味は好みが別れるからのぉ…」


「僕はこれ好きだけどなぁ」


「パンに乗せて食べるのも良いが、野菜や肉につけて食べるのもうまいのじゃぞ。おぉ、そうじゃ」


 まだ残っているチーズのうちの幾つかを串に乗せて食べる。


「んふー、やはり正解じゃのぉ」


「あーいいな、いいな。おばちゃーん、僕にもこの…えーっとなんだっけ、この白くてどろどろした奴頂戴!」


 元気よく、おばちゃんに注文をしたアイナの声に、食堂にいた男どもがぎょっとするのが判る。

 ボーイッシュな顔立ちと声ではあるが、男装の美少女と言った感じのアイナのそのセリフに何人か前かがみになっている気がする。

 なんでこんな可愛いのに、アレックスは女の子だと気づかなかったのか不思議でならない。


「えーっと、お嬢ちゃんこいつはシエーズって言うんだよ」


「そっか、ありがと!」


 ちょっと困り顔でチーズ…シエーズを持ってきたおばちゃんの言葉に、飛び切りの笑顔で答えるアイナは多分何を言ったのか分かってない様子だ。


「チーズじゃないじゃないか」


「地域によって違うんじゃろ」


 アレックスの無粋な言葉をばっさりと切り捨てて、続きを楽しむ。

 結局、男連中はシエーズの匂いがダメだったらしく食べることは無かったが、それを除いてもどれもこれも中々に美味しく十分楽しめたようだ。

 以前、この地域に来たときはこれほど美味しく感じなかったのだが、やはり食事はみんなで食べるのが良いってことなのだろう。


「はぁ…くったくった」


「部屋に行く前に薪を買うのを忘れんようにのぉ」


「わかってるって、あんな寒いのは二度とゴメンだ」


 部屋に行くとここも先日止まった宿の様に大きな窓の横にストーブが備え付けられている。

 外を見れば曇り空という事もあるがすでに真っ暗で、部屋に灯したランプの明かりに雪が照らされている。

 雪の吹き込み防止か、断熱用か内と外、二つある戸を閉めてからストーブで火を起こす。

 ストーブの火が燃え盛る頃、窓がカタカタと音を立て始めた、雪と風が強くなったのだろうさっさと窓を閉めて正解だった。


「こっちはこんな天候になるのはいつものことなんでしょうか」


「備えてあるということはそうなんじゃろうな」


「すさまじいですね」


「ダンジョンの力がそれほど、と言う事なんじゃろうな…ワシはダンジョンの探索を止めてもいいのじゃが…」


「いえ…セルカさんはその為に里から出たのでしょう?」


「けどのぉ………」


 その後の言葉を続けることはカルンに引き寄せられたため続かなかった。

 窓の外、音からしてかなり吹雪きはじめただろう。明日からの行程に影響は必至だろうが、今はゴウゴウを吹きすさぶ風の音がありがたかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脱字:居るのだが チーズは匂いもそうだが味も人によっては受け付けない人も居るのが、 誤記:ゴウゴウと 今はゴウゴウを吹きすさぶ風の音がありがたかった。 [一言] 北国に住んでいるとゴウ…
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