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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第四章 女神の願いでダンジョンへ再び
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110手間

 東多領も中ほどを過ぎ、道中は前回を思えば驚くほど順調、何度も魔獣の襲撃にもあったりしたが、そんなのはこの世界の旅では当たり前のことだ。

 アイナの簡単な防寒着もいくらか購入した。防寒着が購入できるという事からも分かる通り、この辺りから段々と寒くなっていく。

 南から東にかけては比較的、名前の通りの街の密集具合なのだが、この辺りから寒さとともに街もまばらになっていく。

 単純に寒いから住み辛いというのもあるが、魔獣や魔物が巨大化する傾向があるからだ、その代わりというか個体数が減るので全体的に見れば危険度は変わらないのだが…。

 魔獣やらが巨大化する理由は簡単で寒い地域の動物が元になるから、ベルクマンの法則だったか…たしかそんな名前だったはず。


「結構涼しくなってきたが…この程度ならあんなもこもこの服なんていらねーな、動きづらくなりそうだしよ」


「もっと寒くなると、あの服でも着ておらんと動けなくなるがのぉ…」


「大丈夫だろ、セルカだって一度北に行ったことがあるのに、分厚い服は買わなかったんだろ?」


 それは寒暖無効化する装備があったのと、素通りと言っていいほど滞在しなかったからだ。

 人の話を聞かないおっさん共は一度痛い目…いや、寒い目にあえばいい。


「態々用意してるってことは、必要ってことだと思うんだけど」


「ひどい目に遭うのは、あやつらじゃしの…」


 カルンが真実を突くが、人間は特に歳を取ると中々物事に順応できなくなるのだ。

 そんな風に喋りながら夕食を摂った後に野営の準備を進める。テントを新調しそれの組み立てを確認しながらなので、ちょっと手こずっているが。

 テントを新調したのは、今まで使っていたのが随分とくたびれていたというのもあるが、温暖な地域で使うこと前提だったものを寒い地域で使うには色々と危険だったのもある。

 しかしそのテント、まさかテントと聞いてパッっと思い浮かべるような、前世のテントに非常によく似たものを売っていたのには驚いた。

 当然、化学繊維やプラスチックなんてものはないので、テント生地はかなり厚ぼったいものに防水用の蝋を塗ったかなり重い物。

 それを支える柱は、弓形に反った竹の様な木材を何本も使用し、見た目はまるでパンデミック映画で見る防疫テントの入り口みたいな蛇腹かまぼこだ。

 さらにその上から防水の蝋を塗りたくった何かの毛皮をかけるので温かいがさらに重くなる、けれどもどうせ腕輪に収納するのだ。重さなぞ気にならないのはハンターの特権だろう。


「よし、これで良いじゃろう。さてお先におやすみなのじゃ」


「なんでそんなに手慣れてんだよ、こっちも手伝ってくれよ」


「テントも一人で張れぬとは、アレックスは半人前じゃのー」


「くっそ、やればいいんだろやれば」


「分かれば良いのじゃ、ではの」


 アレックスらがまだ新しいテントに四苦八苦してる中、前世で何度もキャンプをした経験もあり悠々と設営するとカルンと共に中に潜り込む。

 中に入ると毛布を敷き、これまた新しく買った中に動物の毛を詰めた布団を取り出す、以前北に行った時に存在は知っていたのだが、良いお値段だったのでその時は購入を諦めていた。

 テントの中はそこそこの広さがあるが、寒いのでぴったりと寄り添って眠りにつく。

 ちなみにテントは三つ、ジョーンズとインディ、ワシとカルンと言う組分けで、当然残りはアレックスとアイナという組み合わせになってしまう。

 当初は、性別的にワシとアイナが同じテントにしようと言う事だったのだが、当のアイナが夫婦なんだから別々は可哀想、同じテントで寝てくださいと、アレックスとは同じテントで寝たことは何度もあるのでと、そこだけ聞くと危ない事を口走り、強く推してきたのでお言葉に甘えることにしたのだった。

 アレックスの意見?そんなもの通るわけがない。


「んんー、さむっさむいのじゃ…」


 翌朝、布団から抜け出すと寝た時とは比べ物にならない寒さに身を震わせる。

 急いで防寒マントを取り出し羽織ると、テントの入り口を閉じていた紐を緩め上にかかっている毛皮を捲ると、何と外にはうっすらと雪が積もっていた。


「はー、これは寒いわけじゃ…この辺りでも偶に降るとは聞いておったが、その偶にに当たるとはのぉ」


「さっぶ!なんだこれ!さっぶ!!」


 丁度その時、アレックスのテントからそんな叫び声が聞こえた。

 のそのそとテントから、まるで冬眠明けの熊のように出てきたアレックスは、初めて見るであろう雪を恐る恐る触っては手を引っ込めるという、やっているのがおっさんでなければ随分と可愛らしい動きをしている。


「つめてっ!なんだこれ」


「雪じゃよ、雪」


「ゆき?なんだそれ」


「あー何と言えば良いのかのぉ、簡単に言えば雨のように降ってくる氷の粒じゃよ」


「氷の粒が降ってくんのか?なんで?」


「寒いからじゃよ」


「けどよ、雨が降ってるような音はしなかったぜ?」


「雪は雨に比べ随分と軽いからの、ゆっくりと降るんじゃよ」


「そうか…しかし、この寒さはどうにかならねぇのか?」


「もこもこの服があれば凌げるんじゃがのぉ」


「か、貸してくれ!」


「いやじゃー」


「そう言わずに?なっ」


「ワシの忠告を無視したのはどこのどいつかのぉー」


「謝る!謝るから!」


「だめじゃー次の街までがまんじゃー」


 ここで甘い顔をしたら、寒さを舐めたままになりそうなので、次の街までは我慢してもらおう、そしてこのやり取りをあと二回繰り返すことになるのだった。

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