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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
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その頃のあいつら その2

 少年が恐る恐るドス黒くドロドロとした液体を剣の先でかき分け、宝石の欠片の様なものを見つけると剣の柄で粉々に砕く。


「よくやった、魔獣を倒した後は必ず今見つけた奴を砕くんだ。でないと復活したり別の奴のエサになっちまうからな」


 欠片を砕くやキラキラとした目でこっちを見やがるから、そう答え頷いてやると、少年―アイナは嬉しそうに顔を綻ばせる。


「僕もついに一人で魔獣を!」


「喜ぶのはまだ早い。魔獣は基本的に群れで動く、今回は一対一で戦えるようにしてやったが、いつも一対一で戦えると思わないように。もちろんこっちも一対一や一対多に持ち込めるように動くのが基本だが…何がどうなるかわからんのがハンターだ、自分一人の時に多数を相手取るときは…」


「相手取るときは…?」


 期待を込めた目で見てくるので、大仰に頷いて応えてやる。


「逃げろ」


「へ?」


 期待していた答えと違ったのか、アイナはマヌケな声をあげ目を瞬かせる。


「当然だろう?基本的に魔獣ってのはこっちより素早く強いし、足の一本や二本切り落としたって痛みも感じずこっちに向かってくる。そんな奴ら相手に一人で戦ってやる必要なんてねーよ、俺たちハンターは何よりも生きること最優先だ」


「むむむ」


「まぁ、多数の敵に一人で向かっていって勝つってのに憧れる気持ちも分かる。ハンターの中には魔獣どころか、魔物相手に一人で戦って容易く勝っちまう奴も居るには居るが…、そんなのは一握りも一握り、最初から魔物も魔獣も関係ない強さを持ったやつだけだ」


「例えば…?」


「そうだな…【破城槌】のクレスとか…【鉄壁】のガージェスとか…」


 現ギルド長…かつて盗賊どもの根城の一人でふっ飛ばして帰ってきたという逸話のある男と、今は引退してしまったが一人で沢山の魔獣を相手取ったり、自身もボロボロになりつつも一人で魔物を倒した男の名を挙げる。

 自分が子供の頃は彼らの話を聴いて、随分と心が踊ったものだと思い出し、うんうんと一人頷く。


「…誰?」


「え…?マジで?」


「おーい、アレックス。近くにもう魔獣の痕跡はねーし帰ろうぜ?」


「ジョーンズ!丁度いいところに来た!【破城槌】のクレスとか、【鉄壁】のガージェスとか知ってるよな?有名だよな?」


「あ…あぁ。もちろん知ってるぜ。特にガージェスは俺の居た孤児院にも来てくれたことがあるからな」


「マジか!羨ましいな!けどよアイナは知らねーってんだよ」


 アイナの知らない宣言に愕然としているところに丁度、周囲の警戒をしていたジョーンズが戻ってきたので二人の名を聞いてみるがはやり知っていた…アイナはそういうことに関して無知なのだろうか。


「あー。二人が活躍したのなんてもう三十くらい前じゃね?アイナが生まれる前だろうし知らなくても当然じゃねーか?」


 インディにさっと顔を向けるが、諦めろと言わんばかりの目で首を横に振っている。


「ほ…他には…?」


「他…他か…」


 自分たちが憧れた人を知らない、そして何より歳をとったという事実に愕然する。確かこういうのはセルカがなんか言ってたな…たしか、じぇえれーしょんがっぷがどうだとか…。

 そんな風に考えていると、気遣う様にアイナが聞いてくるので顎に手を当て最近…最近と頭の中で名前を列挙していくが、どれもこれも二十も三十も前の人物の名前しか思い浮かばない。


「あっ…そうだ、セルカ!セルカは知ってるか?」


「【白狐】のセルカですよね!知ってます、当たり前じゃないですか!東に居た時も見ましたよ!壁の上からでしたけど噂に違わず、いえ噂以上の強さでした!」


 憧れの…と考えていたから名前が出てこなかったが、強さで考えると真っ先に思い浮かんだ名前を口にすると、今日一番のキラキラした目で口早に身を乗り出して訴えてくる。


「お…おぅ…。あ、そうだ、俺たちそのセルカと同じパーティなんだぜ」


「えっ!そうなんですか!あれ?でもいらっしゃいませんよね?ほんとなんですか?」


「あー、んー、言っちまってもいいかな?」


 疑いの目を向けてくるアイナに別に口止めされているわけでもないのだが、公言するのは何となく憚られたのでジョーンズに同意を求めてみた。


「いいんじゃね?別に言うなって言われてるわけじゃねーだろ?」


「それもそうだな。…セルカは今度結婚することになってな、それの準備なんかで今居ないんだよ」


「えっ結婚するんです!?誰と!誰と!あっ、でもそうなると引退しちゃうのかな…」


 結婚という話に思った以上に食いつくが、引退するかもと言う考えに至ったのか悲しそうな顔をする。確かに女性ハンターの大半は結婚を機に引退することが多い。


「あー、それなんだがな…本人はまだ引退するつもりは無いみたいだぜ?」


 自分も勘違いしていた口で、その時のことを思い出してバツが悪く照れ隠しに頭を掻く。


「えっそうなんですか、よかった。あっじゃあ、誰と結婚するかしってま、あっ!」


 そんな俺の態度などお構いなしにはしゃぐアイナだったが、何かに足を取られたのか転けそうになったので、とっさにその体を支えてやる。


「まったく、おめーはもうちょっと筋肉つけろよ?ただでさえ小さいんだから…ぷにっぷにじゃねーか」


「はっ…はい…すみません…」


 コケかけたのがよっぽど恥ずかしかったのか、顔を赤らめているので、話題をそらそうとアイナが気にしていた奴の名前を告げる。


「んーで、誰が相手だって話だったな、カルンって奴なんだが…しってるか?」


「いえ、知らないです」


「それもそうか…。ま、こいつも同じパーティなんだがな、聞いて驚け…なんと領主様の息子だ!」


「えっ!」


「三男らしいがな、俺もはじめ聞いた時は驚いたぜ」


「いいなー、強い上に玉の輿かー、憧れちゃうなー」


 玉の輿に憧れてるみたいな言い方だが…男なら養ってなんぼだろと思うのだが、先ほどの事もある。迂闊に口に出して、最近はそうなんですよ知らないんですか?とか言われたらショックで立ち直れない自信がある。


「まーお前じゃ無理だろー」


「いいじゃないですか、憧れるくらい自由にさせてください」


 カルンの話だと領主一家は男兄弟、玉の輿は無理だろうと思い言ったのだが、何と取ったかは分からないが拗ねてしまった。


「それもそうだな、んじゃま、今日の所は帰るか。明日もまた同じところでな」


 まだまだ日は高いが焦る必要はない、大事を取って帰ることにする。

 こいつもなかなか優秀だし三になるのも時間の問題だろう、あいつの結婚式までに三になれたら水のダンジョンに一緒に行くのも悪くないな…。


「あいつ次第か…」


「何か言いました?」


「いや、なんでもねーよ」


 パーティのリーダーはあいつだしなーなんて言うかなーなど、どうでもいいことを考えつつ、街へと帰るのだった。








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