11手間
調子に乗ってたとはいえ、まさか結界を壊してしまうとは思うとらんかった。
うぅむうぅむと唸っていると、受付のお姉さんにどうぞ、と部屋に入るよう促されてしまった。
既に奥の席にはギルド長が座っており、とりあえず座れとソファーを指さされたので、
とぼとぼと近寄り、居心地悪くちょこんとソファーに座ると、ギルド長が苦笑いしつつ口を開いた。
「まさか、結界を壊されるとはなぁ…」
その言葉に反応しビクッっとすると、ギルド長は苦笑いのまま額に手をあてて、
「結界が壊されただけで、本体の魔具自体は無傷だ。そもそも結界部分が壊されただけで
本体まで壊れるような魔具だったならば欠陥品だ。もしそんな事があれば、お前さんに弁償云々いう前に
売った魔具店か製作者に金返せっていうところだ。何せ欠陥品を掴まされたんだからな」
それを聞いてワシはほっと一息。
「そ、そうか…それは良かったのじゃ。ところで、あの青年は無事かの?」
「あぁ、あいつか。まだ気絶中だが、いい薬にはなっただろう。天狗になってたからな。
むしろ下手に力があるせいで、どう鼻っ柱を折ってやろうか悩んでたところだ。
今回の事で自棄になって死んだとしても、ハンターを辞めたとしても、どちらにしろこのままじゃあ
いつかどこかで死んでただろうしな、心を入れ替えて再起してくれりゃ儲けもんよ」
手厳しいの、と応えれば、
「天狗になったまま死ぬときは、大抵誰かを巻き込んで一緒に死ぬ。
バカ一人死ぬのはいいが、バカの為に将来有望な奴が巻き添えで死ぬのはさすがに見過ごせん。
冷酷などと言われようと、俺はギルド長だからな。まぁ子供にゃ難しいか」
その言葉にむぅっとわざとらしく頬を膨らませてやれば、ハッハッハと豪快に笑い飛ばし、
「大人の話はここまでだ、試験の話に移ろうか。飛び級試験は合格だ。
あの爪も魔石も本物、模擬戦もあれを見て文句を言うようなやつはよっぽどのバカだ。
あのバカげた攻撃力、一等級と判断しても十分だから一等級を…と言いたいところだが、
残念ながら飛び級で渡せるのは三等級までだ。そして、支部で渡せるのも三等級までだ」
どういうことじゃ?と聞けば、
二等級以上に上がるには実力もそうだがある程度実績や信頼も必要になるという。
四等級以下のハンターがやることと言えば、魔獣や魔物の討伐と薬草などの採集程度だが、
三等級になると護衛などの依頼を受けることができ、ギルドからの指名依頼などもある。
二等級ではその護衛などに領主などの重要人物の依頼を受けれるため
実績や信頼が必要になるとのこと。
「ま、等級あげたきゃがんばれよって事だ。
というわけでこれがお前のギルドカードだ。三等級マイナスだからミスリルだな」
そういうや受付のお姉さんがミスリル製のカードを渡してくる
既にそこには私の名前や種族が刻印されていた。
受付…に今は居ないし、もうお姉さんとだけ呼ぼう。お姉さんがカードを宝珠に触れさせてください、言うので
ポンチョをめくり宝珠に触れさせると、パッとカードが光ったものの、特にカードは変化しなかった。
何か変化はないかとカードを眺めていると、ギルド長が
「称号という項目があるだろう?何か称号があればそこから選択できるようになっている」
「しょう?ごう?」
「詳しいことはわからんが…多くの人等に同じ印象を持たれたりすると、
その念がマナに乗って宝珠まで届き、ギルドカードに表示されるようになる…らしい」
なんじゃそらと益々カードを睨み付けると、称号の項目に▼マークがあった。それを触ると
候補が出てくるので、どれかを選択すればいいらしい。変にハイテクな…
この称号の基準は念の強さが重要らしく、たとえ一人だけから何らかの印象を持たれていてもダメらしい。
また、良い意味だけでなく、悪い意味の称号も表示されるそうな。
例えばチキンとかヘタレとか窃盗犯とかも選択肢に出るそうだ。勿論表示する義務はないが。
そうそう滅多にない事だが、とギルド長は前置きしつつ、『世界』に認識された場合も称号が表示されるらしい。
そういうもんかーと思いつつ、早速称号を見てみる。
称号▼
【三等級ハンター】
【白黒姫】
【ロリっ狐】
【白子】
【私の趣味】
【救援者】
【首狩り】
【期待の新人】
【お嫁にしたい子】
【マシュマロ】
【魔手】
【破壊姫】 etc...
なんじゃこれは、ろくなもんがない…というか確実に女神さまの意思が介入しておる…
ここは無難に【三等級ハンター】でいいじゃろう。
「ところで称号のとは別の、この二つ名というのはなんじゃ?」
「それはギルドから贈られる肩書のようなもんだな。三等級以上で功績をあげた際にもらえる。
俺の場合は〖破城槌〗だな。昔、盗賊どもの砦を落とした功績でもらった」
なるほどのぅ、などとつぶやいてると
「腕輪は既に自前のものを持ってると聞いてるから、これはいいな。
あとはダンジョンに潜れるようになるのが三等級からだが、
さらに15歳以上である必要もあるから三等級マイナスになっている
マイナスといっても、ダンジョンに潜れないのと二等級になれない以外は
ほかの三等級と変わりはない。15歳になればこのマイナスは取れる」
なんでじゃ!と叫べば、これは貴族様対策だそうで、
貴族のボンボンが箔付けにハンターになる人も多く、
家の仕事を正式に継げるのは15歳の成人を迎えてからのため、
その前に跡継ぎに勝手に死なれては困る、ということでこういう事になったらしい。
家を継げない次男や三男はそのままハンターになり、中には名をあげる人もいるらしい。
貴族だけに適用するのは色々問題があるのでハンター全員に適用されてると。
「ダンジョンに潜れないのは知っとったが、等級も上げられんのか…」
「悪いが規則だからな。実績そのものは考慮されるから、三巡りがんばってりゃ
15歳になってすぐ二等級に上がれるようになるさ、生きてりゃな。
っと、あと規則といえば、ハンター同士での殺し合いはご法度だ。
それ以外であれば喧嘩決闘勝手にしやがれ」
「それじゃそこらのゴロツキと変わらんのじゃないか?」
あぁ、とつぶやき一つギルド長曰く、
ハンター同士の結束は強く、悪事を働いたと広まれば総スカンを受け、さらには
ハンターどころか繋がりのある商人や宿、村なんかからも相手にされなくなるそうだ。
だから、そこまで強い規則を敷かなくても大丈夫らしい。
「それじゃ俺からの話は以上だ。これからがんばってくれ」
そういってギルド長室から送り出され、お姉さんが爪と魔石の買い取り分をお渡しします、と
爪と魔石合わせて二十五ミスリル、1回の買取としてはなかなか高額らしい金額をもらった。
受付前ではじろじろと無遠慮に視線を受けるので、護衛で移動するつもりもまだないので
依頼を見ずにさっさとお金を腕輪にしまい、ギルドから出た。まずは服でも買うかなと
先ほど教えてもらった、お姉さんオススメの服屋に向かう事にした。




