1053手間
ずんずんと鎧を身にまとった長老が街中を行く様は、その体躯のせいでまるでゴーレムが闊歩しているかのようだ。
ワシとドノヴァンは長老の横にやや駆け足ぎみで並び、此度の赤蜘蛛退治の概要を聞く。
「いつも通り、こっちに向かってくる奴だけを倒す、それ以外は手を出さんでいい」
「む? バラバラに逃げた奴は助けんで良いのかえ?」
「助けれるのであれば助けたいが、それは無理だ。赤蜘蛛は臭いを付けた奴を積極的に襲うからな、万が一街中に臭いを付けた奴が逃げ込めば、臭いが消えるまで延々と街に向かって赤蜘蛛がやってくることになる」
「しかしそれじゃと……」
「あぁ、だが巡回に出る奴は皆、覚悟の上だ。今は隣の街の奴らとの小競り合いが主になっているが、本来は赤蜘蛛の巣を見つけるのが役目だからな。」
何とも恐ろしい生物がすぐ近くに居たもんだ。
地上ではちらとも聞かぬ辺り、この辺りだけの主なのだろうか。
出来れば地上の坑道や洞窟には、一匹もいて欲しくないところだ。
「そうじゃったか、天晴れな覚悟じゃな」
「あっぱれ?」
「称賛に値するとかそういう意味の言葉じゃな」
「そうか、んむ、ありがとう。それにだ、逃げる方向も街とは全く違う方向に行くし、どこをどう逃げるかなどその時々で違うからな、そもそも助けたくとも助けに行けぬ、というのが現状だ」
「そうじゃったか、さしものワシも何処におるか分からんば助けれんからのぉ」
ワシはそっと街の安全のために犠牲になった者たちの為に黙祷を捧げると、ふと気になったことを長老に聞いてみる。
「しかし、先ほど言っておったが、巣の位置を探っておるのならば、そのまま倒せばよいのではないかえ?」
「そうしたいのは山々だが、巣の警戒に人員を割けていたころは魔導銃を作っていなかったからな、クロスボウが主な武器だったのだが、奴らには力不足でな一匹倒すのにそれなりの時間が掛かる、だというのに巣に攻撃を加えると、奴らは巣にいる赤蜘蛛全員で襲ってくるんだ、しかもそのまま巣の位置まで移動させてしまうからな。下手に突いて暴れられるよりも、狩りに出てる奴を一匹ずつ仕留める方が良かったんだ」
「なるほどのぉ」
まるでハチのような蜘蛛だなと思いつつ、何故そんな危険な外敵が居るというのに銃の製造を禁じていたんだろうかと内心で首を傾げる。
「ところで、そやつらは毒とかあるのかの?」
「あぁ、噛まれたら動けなくなる毒を持ってるな、といっても噛まれた時点でタダじゃすまないから気にしなくていい。それよりも奴らの爪に気を付けた方が良い、薄い鎧なら簡単に貫くくらい鋭いからな」
「ふむ」
確かに馬みたいに大きな蜘蛛に噛まれたら、ワシより小柄なドワーフはひとたまりもないだろう。
毒も爪も効かぬワシにはどちらもさして意味は無いが、服が無駄に破けるのは嫌なので注意しておこう。
そんなことを考えいるうちに、先ほど言っていた爪や毒牙対策であろう、重武装をしたドワーフたちが待つ広場に到着するのだった……




