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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
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102手間

 今日は珍しくメイドさんに手伝って貰い、おめかしをしている。

 髪は綺麗に梳いてもらい、いつもは腰ほどまである髪を頭の上の方で捻って纏め、ポニーテール風になった根本を簪で止めている。

 この簪もこの日のために買った、波打った棒の先に花を彫った黄色い玉が一個ついたもの。この玉も黄色の中に薄っすらと木目がすけて見えて美しい。

 普段から使いたい所だが、一人でやると髪を纏めるのも一苦労だし、なにより簪を折りそうで怖い。


「手間をかけるのぉ」


「いえいえこの位、喜んでさせていただきます。むしろ毎日お世話させていただきたいほどですよ」


 そう言ってワシの髪をさらさらと手から流し、うっとりと見つめている姿を鏡に映しているのはカーラ、この家の買い物担当のメイドだったはずなのだが、いつの間にやらワシ専属メイドと化していた。


「髪もお肌もサラサラ、ツヤツヤ。はぁ…一体何を食べたらこんなふうに…」


 使用人だからといって粗末なものを食べているわけではなく、ワシらに出した残りと言うか同じように作ったものを食べているのだが…。


「奥様もセルカ様も、お化粧品なんか確かに良いものをお使いですが、そこまで特別なものでもないのに…謎です…」


 最高級と枕に付くが、ワシらが使っている石鹸などは一般に流通しているものと大差ない、逆に言えば大差ないものしか出回ってないとも言えるが。


「髪の毛は絹のように滑らかで、お肌は卵の様にシミひとつ無く、尻尾は綿毛のようにふわふわで、まるで女神様がお創りに成ったようにお美しいですわぁ」


 いつになく舌が回るカーラのその言葉にちょっとだけドキリとする。まるで(・・・)、では無くまさに一語一句違わずその通りなのだが、そんなこと言えば自惚れ屋か頭おかしい人なので黙っておく。

 しかし、やはり何というか容姿を褒められるのは嬉しいのだが照れくさい、最近は特にそう感じるのでもう完全に女の子している、もしかしたら前世も女の子で男というのは実はただの夢だったーなんて。

 そんな妄想に浸っていると、仕上げとして髪全体をカーラが綺麗に梳いてくれる。


「終わりましたよ、セルカ様」


「ふむ、どうじゃ似合っとるかのぉ」


「えぇえぇ、もちろんもちろん、とても良くお似合いです」


 髪を整えたり、化粧をするために座っていた椅子から立ち上がり、鏡の前で体を何度かひねって全身を確認する。

 鏡に映るドレスも今日だけの為に、お母様がデザイナーに頼んで誂えたもので、袖なしのアオザイと言った感じのデザインで腰までの深いスリットが左右と尻尾の為に後ろに入ったトップスに、ロングの巻きスカート。

 尻尾があるので普通のスカートより履く位置が下がり、スリットの頂点からすこし肌が見えてちょっぴりセクシーだが、ドレス全体は白地に簪の玉と同じ黄色で刺繍された花のお蔭でかわいらしい印象だ。


「獣人の方は着飾るのを嫌がる方が多いと聞いていたのですが、セルカ様は自由にさせて下さるので、もうメイド冥利に尽きます」


 カーラは両手を組んで感動に打ち震えている様だ、ワシも当初はどーでもよいと思っていたが…まぁ…ね…?


「セルカ様そろそろ出発のお時間でございます」


 コンコンとノックの音が響き、扉の外から渋く落ち着いた声が聞こえる。


「ライニか、分かったのじゃ。丁度準備も終わったしのすぐ向かうとするかの」


 今日は結婚式、と言ってもワシのではなくケインお兄様のだが。

 お相手はどこぞの町の宿屋で働いていた娘、お互い一目惚れで元々臨時の雇いだったらしくそのまま視察の旅に同行し連れて帰ったそうだ。

 もちろんその視察の旅には補佐としてセイルお兄様も居たのだが、彼の無常を思うと合掌したくなる。

 帰って暫くのセイルお兄様の死んだ目を見れば、旅の間の心労は推して知るべしと言った所か。

 扉の前で待機していたライニとカーラを伴って玄関に行くと、先に教会に行っているお父様とケインお兄様を除いた皆が待っていた。


「くぅ!一から十まで口を出した甲斐があるわぁ」


 ワシを見るなりお母様はガッツポーズを取る。


「とても綺麗ですよ」


 お母様の脇に控えていたカルンが、ワシの手をとって褒めそやす。


「うふふふ、もう今日は着飾ってデレデレのセルカちゃんが見れたから満足だわぁ…」


「母さん…今日は兄さんの結婚式だよ…一応次期領主の結婚なんだからさ…」


 セイルお兄様が頭を抑えて嘆息するが、「一応」とか言ってるあたりよっぽどイチャイチャを、旅の間ずっと見せられていたのを未だ恨んでいるらしい。


「皆様方、そろそろ移動しませんと」


「あら、そうだったわねすっかり忘れてたわ」


 そう言い切るお母様に再度嘆息しながらも、しっかりと扉を開けたりエスコートしてるあたりセイルお兄様はさすがだろう。

 しばらく馬車に揺られ教会へと向かうと、そこにはこの街に引っ越してきたお嫁さんの両親と、あとは僅かばかりの招待客。何時ぞや見た結婚式の人数と大差ない人出しかなかった。


「次期領主の結婚式と言うのじゃから、もっとぶわーっと人がいると思っておったのじゃが」


「領主なら兎も角、次期でしかもまだまだ譲るつもりもないからね、こんなものよ。それに下手に豪華にするとうるさいのが居るのよねぇ…」


「うるさいというのはいつぞやの?」


「そうそう、あの時のあいつらの悔しそうな顔、セルカちゃんにも見せたかったわぁ…」


 例の逆恨み一族、女神さまに祝福を受けたどころか、すでに受けていた事を知らずにバカにしていたと分かった時の彼らの顔は、それはそれはもう愉快なものだったらしい。

 そんな事を思い出しつつ、出てきた神官に案内された教会の中は、いつもより少しだけ飾り付けられていてとても綺麗だった。

 席次は最前列がお父様とお母様、その次の列に中央からセイルお兄さま、カルン、ワシと座る。

 暫く待っていると、教会の入り口に立っていた神官の言葉を合図に新郎…ケインお兄様が、まるでラピスラズリのような蒼に金と銀の糸で刺繍を施された豪奢なローブを纏い、中央の道を祭壇の前へと歩み出る。

 そして再度の神官の合図とともに新婦の父にエスコートされ、ローブデコルテにシュシュの様なくしゃくしゃっとした感じの生地を幾重にも重ねた円形ではなく上から見たら丁度涙型に後ろに流れたスカートをしたマーブルミントのドレスを着た新婦が入ってきた。

 一言で言うのなら童話のお姫様といったところだろうか、祭壇の前までたどり着くと新郎が手を取り新婦がその父から離れる。

 後ろ姿で顔はうかがい知れないが、新婦を見送る父の肩は震えていた。

 その後、誓いの言葉などもあったのだが、新郎新婦の姿にワシとカルンの姿を重ねる妄想に浸っていたので全く覚えて居なくて、ケインお兄さまに感想を求められた時には呆れられた…。

 お母様と新婦のアーシェの二人だけは、うんうんと頷いてワシの状態を理解していたようだったが。


「これで、晴れて私とセルカちゃんは姉妹ね!私の事は気兼ねなくおねえちゃんって呼んでね、あっ!お姉様も捨てがたいわね」


 そこは晴れてお兄様と夫婦と言うところだろうに、式を終えてワシらに遅れて新郎新婦揃って屋敷に帰って来た後、夕食の前に結婚式の話をしてるさなかそう宣うアーシェだった。


「あー、うん。ではお姉様でよい…かの?」


「んふー!良い!いぃわぁ…」


 初対面の時も終始こんな感じで、明るい茶色の髪をなびかせたお母様とはまた違った感じの美人なのだが、なんというか行動がお母様そっくりだった。

 しかし、新郎放ったらかしにしてはしゃいで良いのだろうか…そう思ってケインお兄様をチラリと見るのだが、そんな姿をうっとりと愛しいものを見守る目線をしていたので、あぁこれはダメな奴だと悟るのだった…。

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