1041手間
始めはちゃんと確認して撃てとか、一々確認していたらゴーレムに侵入されるなど、真面目な言い争いだったのだが争論を続けてる内に話の内容がおかしな方向へ向かっていく。
「毎日ひ孫と遊ぶことを楽しみにしていたというのに! あの子が産まれる前に引っ越しおって」
「仕方がないだろう! ここからじゃ緊急時に出向くには遠すぎる、近くに引っ越して何が悪い、それに休みの日にはたまにこっちに来てるだろう」
銃の運用方法から防壁の話へと移り、そこから防壁に勤める人たちの移動の話になり、更にそこから何故かドノヴァンが引っ越したからひ孫と毎日遊べないという話へと移っている。
防壁に早く駆け付けれるように引っ越したという話だったから、話としては一応繋がってはいるのだろうが、真面目な話がいつのまにやら単なるひ孫が居なくて寂しいおじいちゃんの嘆きへと変わってしまっていた。
「あー、そろそろ話をしてもよいかのぉ」
「あっ、すまねぇ、ちょいと話に熱くなってしまった」
わざとらしく咳払いをしてワシへと注意を向けさせると、長老は目元だけではあるがしまったという表情になり、やや目を泳がせつつ苦笑いかして口角を上げたのだろう、髭がすこしばかり持ち上がる。
「そういえば、話があるとここに来たのだったな」
「んむんむ、話というのは簡単じゃ、ワシ、というかワシの居る国と交易をせんかの?」
「くに? こうえき?」
「国というのはの」
「いや、単語の意味は分かる、分かるが」
「分かるがなんじゃ?」
長老が瞑目し髭をしごくように撫でる仕草をする。
ややあって目を開くと長老は腕を組み、ずずいと身を乗り出して首を傾げながら聞いてくる。
「こっちに交易に出すほど価値のあるモノが無い、他の街の奴らと同じような物ならばあるが……そこに価値があるかどうか」
「他の街と取引しておる物も気になるが、おぬしら彫金得意じゃろ? そういった物は地上では価値があるのじゃ、特に貴金属を加工したモノは、の」
「ほほう、あんな柔らかいモンになぁ。それにしても我らが彫金が得意なのを知っているとは、地上には我ら以外のドワーフでもいるのか?」
「いや、この近くにはおぬしら以外おらぬ、じゃからこそ価値があるのじゃ」
「ふぅむ、そうか。そういった物を礼の品として渡すのは吝かではない、いや、後ほど必ず贈らせてもらうが、だが交易となるとそちらは何を出してくれるのだ? 今まで問題なくここで過ごしてきたのだ、そうそう必要になるような品があるとは思えん」
「んむ、交易を続けゆくゆくは貨幣でやり取りできるのが理想じゃが、今はこれじゃ!」
そういってワシは尻尾から取り出すふりをして目の前のテーブルの上に、ダンッと果実酒の酒瓶を置けば、すぐにそれが何か勘づいたのだろう、長老の目がカッと開きこれでもかというほどキラキラと輝くのだった……




