1040手間
ワシと長老が石を削り出し磨き上げて作った立派なテーブルを挟むように椅子へと座り、ドノヴァンがやや離れた位置にある椅子へと座る。
「改めて、我らドワーフの子を救ってくれたこと感謝する」
「よいよい、子は宝じゃからのぉ」
「然り。あのゴーレムどもめ、こちらからなかなか手を出せぬのをいいことに、何度も攫いに来るのだ」
「防壁以外の、何ぞ手は取れんかったのかえ?」
「倒すだけでいいのならばどれ程よかったか、奴ら倒した途端に自爆をしおる、そのせいで街中では迂闊に手は出せず、街に居れないように天井まで壁を巡らすと、壁が壊れるまで自爆をし始める完全にふさぐことも出来ない、その上こちらから奴らの根城に攻め入ることも出来ない」
長老はそう言い切ると、忌々しいとばかりにその体躯に見合った大きなため息をつく。
「全く、昔から作るべきではないと言われていた、魔導銃にまで手を出したというのに全く情けない」
「ほう、その魔導銃とやらは、あれかの、あの扉から入って来た時に撃って来たやつかの」
「ドノヴァン、どういうことだ?」
「あぁ〜、扉の中から人が出てくるなんて思わないから、先手必勝とばかりに……」
恥じ入るばかりだと嘆く長老の言葉の中に気になるモノを見つけ、思わずドノヴァンに話を振ってみたのだが、そのドノヴァンに長老の剣呑な声音が突き刺さる。
ドノヴァンは、その鋭い視線と声から逃げるように、ついと視線をそらしワシからは髭に指を突っ込んでいるようにしか見えないが、気まずそうに頬を掻く仕草をする。
「常日頃から、相手はゴーレムといえどしっかり確認してから撃てと、厳命していただろう」
「あの子が攫われた後だったのもあって、その背中にくっ付いてる白いのがゴーレムに見えて、つい」
「つい、ではない! 彼女が無事だったからよかったものの、アレが人に当たればどうなるか位わかるだろう」
「当たってた気がするんだがなぁ……」
はぁっ、とため息をつき頭を抱える長老に、ドノヴァンがぼそりと呟く。
幸い長老にはその呟きが聞こえることは無かったようだが、ワシにはばっちりと聞こえていたし実際その通りだ。
だがワシが見た限り魔導銃の弾丸の速度はドワーフの目に追えるモノでは無いだろうし、着弾したところで爆発するモノでもないので当たったかどうかなど、撃ち込んだ相手の状態をみて判断するしかない。
それに当たったところで何の影響も与えられなかったのならば、それは当たって無いのと同義だ。
防壁を通る際に火薬の臭いがしなかったことと、魔導銃という名前の通り撃ちだすのにだけマナを使用して、弾丸そのものにはマナは込められてなかったのだろう。
それではワシに手傷を負わせることは不可能だろう、ゴーレムの装甲を貫けるだけの威力はあるのかもしれないが、いや、それだけ威力があれば十分か。
ゴーレムを貫けるならば、通常の鎧など紙切れを纏ってるも同然だろう、長老が呟いていたがドワーフの間で作るべきではないと言われているのもむべなるかな。
しかし、それを子供を守るためならばと作らせるあたり、ドワーフへの好感度がワシの中でうなぎのぼりとなり、なんだか言い争い始めた長老とドノヴァンを生温かく見守るのだった……




