1039手間
ワシが目を見張った理由、それはドワーフの長老が大きかったからだ。
長老というのだから腰が曲がり杖を突いてと最初は予想していた、しかし、先ほどの声の威厳から矍鑠とした老人だろうかと予想を変えた。
しかし、その予想すらも覆されるとは。
「おぬしが長老かえ?」
「いかにも」
鷹揚に頷く長老は、ドノヴァンや他のドワーフ男性同様に、目と鼻以外見えないほどたっぷりと蓄えられた髭と髪の毛は白く染まり、赤い衣装が似合いそうな容姿だ。
樽のようなずんぐりむっくりとした体形は如何にもドワーフの典型的な姿なのだが、唯一大きさだけが違った。
長老は椅子に座ってるため正確には分からないが、身長はヒューマンの中でも背が高いであろうフレデリックと同じほどあり、横幅はフレデリックを優に超える。
しかし決して太っている訳では無く、ずっしりと筋肉の詰まった醸造樽とでも言えば良いだろうか。
「随分とデカいのぉ」
「ふむ、我が一族はどうも他の奴らよりもデカくなるようでな、そのせいで代々長老などという面倒な役割を押し付けられる」
「なるほどのぉ」
確かに代々ドワーフとは思えぬほど大きくなるのであれば、長老というか長に相応しいと思われても致しかた無いのかもしれない。
特に権力に興味のないドワーフからすれば、その分かりやすい特徴は長老という座に据えるにお互い丁度良かったに違いない。
「此度はひ孫を助けてくれたこと、感謝の念に堪えぬ」
「よいよい、子供が困っておったら助けるのは当たり前じゃしのぉ」
「痛み入る。ところで、見慣れぬ容姿だが、貴女はどこの街の者なのだ?」
「いや、ワシはドワーフでは無いのじゃ、獣人と呼ばれる種での、地上から来たのじゃ」
「地上から! ほうほう、地上なぞお伽噺のモノだと思っていたが」
「長老、確かに俺はこの人が死者の扉から入って来たのを見た」
「ふむ、お前が言うなら間違いはないのだろうな。しかし……死者の国、いや、地上の民はもっと大きいと伝えられていたのだが」
ワシが何処から来たのかをドノヴァンが証言し、それに頷くと長老はワシをじっと見てから、はてと首を傾げる。
「それはヒューマンと獣人の雄の方じゃな」
「なるほどなるほど」
「あぁ、大きいてと言うても、おぬしより大きいのはまずおらんからの?」
ヒューマンや獣人の雄がドワーフより大きいのはまず間違いない、しかし、長老が大きさを想像するように視線を上に上げたのを見て、ワシは慌ててヒューマンが巨人になるのを止めるのだった……




