1038手間
ワシらを出迎えた使用人や侍女たちは、使用人や侍女と表現したもののお仕着せなどを着ている訳では無い。
動きやすそうな格好ではあるが、それなりに仕立てが良さそうな服、そしてその立ち振る舞いからそう考えたのだが、あながち間違いでも無かった。
試しに聞いてみたが、彼女らは長老の家のお手伝いさんだそうだ、掃除や蜘蛛の世話等々を主にしているそう。
それにしても、男の方は皆ひげもじゃなので、それはそれで違和感があるが如何にもドワーフといった風なのだが。
女性の方はワシよりも小柄な体格で、その体格の歳のヒューマンとの違いは多少ずんぐりむっくりしている程度、そのせいで幼女らが大人なびてお手伝いをしているようにも見えて何とも微笑ましい気分になった。
「ところで、長老とやらはどんな人なのかの?」
「長老なんてご大層に呼んじゃあいるが、ただの爺だよ。この街や他の街との折衝役でもあるが、大抵は飲み比べか腕比べで決まるから役に立つことも少ないからな」
「ふぅむ、そうなのかえ」
しかし、そんな彼女らの案内を要らないの一言で蹴散らし、目の前のドワーフ ―名をドノヴァンというらしい― が勝手知ったる我が家とばかりに長老の元へと案内しつつ色々と教えてくれる、ドノヴァンという名前もその一つだった。
「ま、世襲制だからな、今でこそ俺も警備隊長なぞしてるが、長老が譲るといやぁ次は俺が長老よ」
「ほうほう」
蜘蛛車の上でも色々と話したからか、随分とドノヴァンの口調が砕けてきた。
彼は元々この長老の家が実家らしく、ゴーレムが人を攫うようになってから出来たあの防壁にすぐ駆け付けられるよう、あの近くのアパートに引っ越したらしい。
口調が砕けた分だけ口も軽くなったのか、そんな身の上話なども教えてくれた。
「おっと、着いたぞ。ここが長老の居る部屋だ」
「ふむ」
ドノヴァンはそう言うや否や、ドンドンドンと乱暴に扉をノックしたかと思うと、中のからの返事を待たずにがちゃりと扉を開ける。
「入るぞ長老」
「全く、いつも返事を待ってから入れと言っておるだろう」
「いいじゃないか、そんなまだるっこしい」
ドノヴァンが開けた扉から、低く長老という名に相応しい威厳ある声が、呆れたようにドノヴァンに注意するが、当の本人はあっけらかんと宣い、長老のものであろうため息が外まで聴こえてきた。
「あぁ、あんたも遠慮せずに入りなって」
「お前が招くんじゃあない」
「二人して何とも入り辛いことをしてくれるのぉ」
ワシはそんなことを冗談めかして言いつつ入り、扉からは見えなかった長老を見て、その姿にワシは少しばかり目を見開くのだった……




