1035手間
ゴーレムの異常な行動にワシが関係無いと内心ホッとしていると、ふとそこで疑問が浮かんできた。
「五十巡りといえば、ついこの間とはいえ短くはない筈じゃ、扉は開けれずとも近くに坑道を掘って先を確かめることは出来たのではないかえ?」
「それなんだが、この街の周囲はかなり強固な地層になっていてね、それこそずっと昔から試してはいるが全く進んだ試しがないのだよ。お蔭でこの街は他の都市と違い、天井の崩落に怯えずに済んでいるんだけれどもね」
「なるほどのぉ、では柔らかい地層を掘って迂回というのもしなかったのかえ?」
「さっき言った強固な地層なのだが、これがかなりの広範囲にまで及んでいてね、死者の国とは反対方向の地下に関してはそこまででは無いのだけれども、死者の国方面に関しては強固な地層がずっと地下の方にまで及んでいて、迂回路を掘るのは現実的でないとかなり昔に結論が出されているんだよ」
「そうじゃったのか」
穴掘り技術に関しては超一級のドワーフがそう結論付けたのだ、恐らくそれは不可能かそれに近いのだろう。
それにだ、話を聞く限りかなり長いことここに居を構えているらしい、街に入ってすぐにこのマンションに入ったので街全体の大きさは知らないが、そこまで大きな都市では無かったと思う。
それなのに長いことドワーフが同じ所に居るということは、恐らくだが近くに優秀で巨大な鉱床があるに違いない、これはもし交易をはじめたらかなり良い取引相手になるだろう。
「あぁ、そうじゃ、この街の長に会うことは出来るかの?」
「長老に?」
「んむ、ちと話がしとうての」
「今の長老は俺の祖父だから、大丈夫だと思うが」
「おぉ、それは本当かえ? では話が出来ぬか、繋いでもらうことは出来るかの?」
「それならすぐに行ってこよう」
「別にすぐでなくとも良いのじゃが」
「いや、恩人の頼みというのもあるが、長老も孫が攫われて随分と落ち込んでたからな、無事に帰ってきたと報告するついでだ」
「確かに、孫はかわゆいからのぉ」
ガタッとドワーフが椅子から立ったところで、子供を寝かせに行っていた奥さんがティーセットをお盆に載せてやってきた。
「あらあなた、どうしたの?」
「この方が長老に会いたいというのでね、あの子が無事帰って来たことの報告と一緒に伝えに行こうかと」
「確かに、それは早く伝えた方がいいわね、お爺様の落ち込み様は私以上だったもの」
奥さんが言うや否や、ドワーフは一つ頷くと転がるように外へと飛び出していった。
「あらあら、あの人、あの子が帰ってきて意外とはしゃいでいるのね」
「あれでかえ?」
「えぇ、あんなに慌てて出て行ったのなんて、あの子が攫われたと聞いた時だけだったもの」
確かあの子供が攫われたのは、奥さんと散歩してた時だったと言っていた。
だからだろうか、その時のことを思い出したのか、今にもティーセットを落としそうなほどに落ち込む奥さんをドワーフが戻って来るまでお茶にしようと、ワシは努めて明るく振舞い元気づけるのだった……




