1033手間
壁の中は意外にもという訳でも無いが、全てがやや小さいことを除けば普通の街並みだった。
ゴーレムの工場があった場所と同じくらい高いとはいえ天井があるせいか、街並みが舞台のセットのようにも見えなくも無いが、それ以外に特筆して不思議だと思うような箇所は無い。
その中で目を引くモノといえば、子供が街のことを話した時にいっていたぴかぴかの言葉通り、街中に街灯が多いことだろうか。
そして何よりも、ワシ、というか獣人が珍しいのだろうチラチラどころか、立ち止まって信じられないモノを見たとばかりにワシを凝視しているドワーフたち。
「ここが俺の家だ」
「ほう、立派な建物じゃな」
「あ、あぁ、いや、この建物全体じゃなくてここの三階だ、何家族かがこの建物中に、部屋こそ完全に別れているが一緒に暮らしているんだ」
「ふむ、なるほどの」
いわゆる集合住宅というわけか、地下に居を置き住める場所が限られているドワーフからすれば、当然の建築様式なのかもしれない。
扉を開き建物中に入ると、数人が談笑するのに丁度良さそうな小さなテーブルと椅子が数脚置かれた空間に、上に登る階段がある。
そこをドワーフは慣れた様子で登り、ワシもその後に続いて三階へと向かう。
階段の周囲をぐるりと囲むように廊下が渡され、そこにそれなりに離れた間隔をあけ扉があり、何故かひどく懐かしい気持ちになる。
ドワーフはその扉の内の一つに向かうと、シンプルなリング状のドアノッカーをコンコンコンと鳴らして待機する。
するとしばらくして、中からガタンと何かが外れる音がして扉が開く。
「ただいま」
「おかえりなさい、あな……」
扉を開け中から妙齢の女性の縮尺を縮めたような、ワシより小柄な女性が出てくると目の前のドワーフが優しげな口調で挨拶する。
ということは、この人がワシの腕の中でいつの間にか眠っていた子供の母親なのだろう。
疲れた様子でおざなりにおかえりといったかと思えば、後ろのワシに気付き驚いたような表情をしたかと思えば、ワシの腕の中の子供に目が移ると今度は目に涙を浮かべ両手で自分の口を押さえる。
「この、多分人が連れて帰ってくれたんだ」
「ほん、とうに?」
「あぁ、本当だとも」
目の前のドワーフは泣き崩れた奥さんを優しく宥めているが、多分人、とは一体どういうことか。
「あーすまぬが中に入らぬか? この子を休ませてやりたいからのぉ」
「え、えぇ、そうですね、この子を連れて来てくださってありがとうございます、見知らぬお方」
「んむんむ、気にするでない」
涙をぬぐい立ち上がり、それでもまだ涙があふれる顔で、心底うれしそうに礼を言われるだけで、それだけで助けてよかったと思う。
ワシから寝ている子供を奥さんが受け取り、感極まった様子で頬ずりする姿をうむうむと頷きながら眺めるのだった……




