1031手間
ワシが手を触れすぐに開くかと思われた扉は、何かが引っ掛かっているかのような音を出しゆっくりゆっくりと開いてゆく。
ワシの肩幅ほど開いた扉から槍が飛び出してくるかと思ったがそれはなく、その代わりにくぐもってよく聞こえないが何やら怒号のような声が聞こえてくる。
怒号のような声が聞こえたと同時、何やら顔に小石が当たったような感触と乾いた破裂音が響き渡る。
「ふむ?」
ワシは顔に手を当ててみるが当たったモノどころか傷一つ無いので気にすることなく、開き切った扉を進もうとしてすぐに足を止める。
扉の向こう側には、ワシの腰よりやや低い位置にまで土嚢のようなモノが積まれており、これのせいで扉が開くのが遅かったのだろう。
「ちとワシは話をしてくるから、おぬしはそこの影に隠れておくのじゃぞ」
「ぼくもいっしょにいくよ?」
「何やらむこうは喧嘩しておるようじゃからの」
「わかった、おじさんたちのけんか、こわいもんね」
「そうじゃな」
向こう側から見えない所に子供を避難させ、髪を一撫でしてからワシは土嚢を超え扉をくぐる。
中は今入って来た扉を底辺とした台形の形になる様に前方に壁があり、正面には丈夫そうな鉄製の門、そして壁その物には銃眼や狭間と呼ばれるモノが幾つも開いており、そこから何やら金属製のパイプが覗いている。
クロスボウでも弓でも無く、となれば先ほど飛んできたのは銃弾だろう、ワシからすれば風に舞い上がった小石程度でしかなかったが。
扉の外に居た時はゴーレムと勘違いして撃って来たのだろう、だが中に入りワシの姿がよく見えればゴーレムなどでは無いと分かってくれると思い無防備に扉をくぐったのだが……。
もう一度乾いた破裂音と共に銃弾が飛んでくる、先ほどは全て顔に集中していたので良かったのだが、今度は全身を狙うように撃って来た。
小石程度の威力とはいえ流石に服には穴が開くだろう、それは嫌だと服に当たりそうなモノだけ叩き落せば、ざわざわと銃眼の奥がざわめいているのが聞こえる。
そして今度は中央の鉄扉が重苦しい音を立て開き、中から三人ほどの如何にも筋肉達磨とでも例えれば良いかドワーフといった体型の板金鎧を着込み、大人の頭くらい簡単につぶせそうなほど巨大な槌をもった者たちが現れた。
「まてまて、ワシはゴーレムなどでは無いのじゃ」
「ええい、その扉から現れたのならば問答無用!」
丁度良いとばかりに手をひらひらさせながらワシは言うが、中央のドワーフが叫びそれと同時に三人がワシへと駆け寄り問答無用の言葉通り、両手に持った槌を振りかぶってワシへと叩きつけてくる。
先ほどの銃弾と違い、槌ならば服が破けることも無かろうと、中央と右のドワーフが振り下ろす槌だけ手で受け止めて、もう一つ、左から振り下ろされた槌だけはその身で受ける。
まるで棚の上の物でも取るかのような気軽さで槌を止められた二人のドワーフはもとより、一切の防御をすることなくしかし何の痛痒も感じていないかの様に体で槌を受け止められたドワーフから、兜で顔が見えずとも分かるほどの驚愕を感じる。
「まぁまぁ待つがよい、ワシは見ての通りゴーレムでは無いのじゃ」
「俺たちのハンマーを素手で止める奴が人な訳あるか!!」
「それもそ……いやいや、違うのじゃ、んむ、違うのじゃぞ? 今日はの攫われておった者を連れてきたのじゃよ、ちと待っておれ」
一瞬それもそうかと納得しかけたが、慌てて今はそんなことを今はそんなことを言っている場合では無い。
とりあえず彼らは頭に血が昇っていそうなので、ここは子供を見せるのが一番早いだろうとひょいと振り下ろされたままの槌を押しのけ扉の所に戻ると、心配だったのか土嚢の上に目だけをちょこんと見せた子供を抱きかかえて、唖然とした様子の彼らのもとに戻るのだった……




