984手間
さてとワシは手を叩き、フレデリックらを引き連れて、このゾンビゴーレムが何処からやって来たのかを追う。
とは言えそれは実に簡単だ、何せご丁寧に自分が這いずって来た跡を残しているのだから。
ダメになった筆で書かれたような跡を追っていると、べしゃりとここで倒れたであろう場所を見つける。
「ふむ、最初から這いずっておった訳では無さそうじゃな」
「その様ですね、ここからは、いえ、ここまでは足を引き摺っていたのでしょう」
フレデリックの言う通り、倒れ込んだ跡より前は足を引き摺って歩いたような跡が続いている。
しかし、その跡も長くは続いておらず少々歩き辛そうではあるが、普通に足を上下に動かして歩いているような跡へと変わる。
「ふぅむ? 何があったんじゃろうな」
「襲われた形跡もなく、これほど足跡が変化するのは不可解ですね」
何の前触れもなく変化する痕跡に、ワシとフレデリックは首を傾げるが、今はそんな事よりもコレが何処から来たのかが肝要。
首を捻りつつも跡を追い、その先には開け放たれた扉が。
「疑いようもなくここから入ってきたようじゃな」
「足跡も続いていますから間違いないでしょう」
「ところで、ここは鍵はかけておいたのかの?」
「申し訳ございません、恐らくかけていなかったかと」
「ふむ」
着いてきた年嵩の聖職者が深々と頭を下げる、鍵はかかっていなかったとは言え破壊された跡は無し、つまりゴーレムはご丁寧にドアノブを回して扉を開けたということ。
つまり多少の知能がある、単純な命令だけを受けるゴーレムではないならば、古代の遺跡か遺構が関わっている可能性が高い。
「しかし、不可解じゃな」
「セルカ様、何がでしょうか?」
「いや、ゴーレムの材質じゃ、土塊というのがのぉ」
「それの何が不可解なのでしょうか」
「そうじゃな、ゴーレムと言うのは単純な命令をひたすら繰り返す、要は動く魔導具じゃな。道具ゆえに居眠りすることも、サボることも手を抜くこともない」
「なるほど、歩哨としては最高でありますね」
「んむ、しかし、歩哨となると土塊では問題が出てくる」
「なる、ほど、確かに土では素手でも簡単に仕留めれそうですね」
「であろう? ワシの知るゴーレムは大体が岩か石、もしくは陶器のような何かじゃった」
「それは実に魅力的ですね」
流石に近衛だけあって有用性がよく分かるようで、フレデリックは目を輝かせている。
しかし、フレデリックには悪いがどうやって造っているかなどワシが知る筈も無し、例え作れたとしてもこの周囲のマナの濃度では運用は難しい、早晩あの土塊のようになるだけだ。
あぁ、なるほど、建物内に入って急激に動きが悪化したのはマナの濃度が低くなったからかと納得し、では何処から来たか突き止めようかと開け放たれた扉から出ようとしてフレデリックに止められる。
「私から」
「あぁ、うむ」
すぐさま剣を抜けるように警戒するフレデリックが外に出て、周囲の安全を確認してからワシならば問題は無いのにと、苦笑いをしながら後に続くのだった……




