983手間
陽も昇り始めた頃、ゾンビのようなゴーレムはマナが抜けきったのだろう、完全な土塊へと戻りいまや子供が泥で人の形を模したような、そんなモノだけが残されている。
「さてと、こやつが何処から来たか突き止めようではないか」
「本当に、座下、御自らお探しになるのですか?」
「うむ、これが何か知っておる、そしてその手のことに最も長けておるのがワシじゃからな!」
盗賊に獣にと数々の痕跡を追い、そのアジトや巣を見つけてきた実績がある。
そんなワシにかかれば、痕跡を隠すことなど微塵も考えてないゾンビの大元を探すなど朝飯前。
「すでに近衛が中に入る許可を出しております、彼らに任せてはいかがでしょうか?」
「じゃが、ワシなコレが何か大方知っておるし、何があろうとも対処できるがの?」
ふふんとワシが胸を張っているとそこえ駆け足でフレデリック以下、見知った近衛たちが完全武装でやってきた。
「セルカ様、ご無事ですか?」
「当然じゃろう、ワシが斯様な木偶人形に後れを取るはずが無い、と言いたいところじゃが、ワシがコレを見つけた時には既に満身創痍じゃったがの。それよりもおぬしがこちらに着ていいのかえ? クリスに付いておらんで良いのかの?」
「クリストファー様の周囲には既に近衛が何人も、それに向こうには何者かが侵入した形跡はありませんでした。しかし、これは……何でしょうか?」
端的にクリスの状況を説明した後にフレデリックが首を傾げるがそれも致し方ない、何せ今はピクリとも動いてないただの土塊なのだから。
「今はこんなんじゃがの、見つけた時は動いておったのじゃよ」
「まさか、魔物!」
「いや、ゴーレムという魔物ともちと違うモノじゃな、ゴーレムは魔導具の一種じゃ、じゃから魔物のように能動的に人は襲わぬはずじゃ、人工故にそう命令されん限りの」
「しかし、現にこれは」
フレデリックはワシの話に首を傾げていたが、とりあえず分かった所だけにでも反応したのだろう、土塊を指差してコレは人を襲ったのではと聞いてくる。
「いや、襲ってはおらぬ、這いずっておっただけじゃ。巡回しておった者もコレを見て腰を抜かしただけじゃからの。それに話を聞く限りコレはこの建物の敷地内もとから居ったようじゃし、なればなぜ今になってという話になるが……」
「最近誰かに持ち込まれたという可能性は」
「無きにしも非ずじゃが、今のもんにゴーレムが扱えるものかのぉ、いや、じゃからこの体たらくと考えれば……」
「あの、座下、よろしいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「実はですね、昔からある建物には付き物の話ではございますが、ここでも夜中に見知らぬ人影を見たというものが昔から居りまして、もしかしてその正体がごーれむとかいうモノなのでしょうか?」
「そ、そうじゃな、その可能性は高いの」
見知らぬ人影という下りでびくりと肩が跳ねかけるが、何とかこらえもしその人影がゴーレムならば、やはりこの敷地内に何かあるのだろうと、ゴーレムが這いずって来た跡をじっと見つめるのだった……




