981手間
クリス側の泉の晶石も創り出し渡しまたひと騒動起こったが、先ほど焼き直しのようなものだったので、今度は軽く流しさっとその後の予定を消化する。
完全に自分のせいではあるが、ようやく解放されるとゆっくりと部屋でくつろいでからベッドで横になる。
ぐっすりと眠っていた夜半過ぎ、遠くから絹を裂くような悲鳴が聞こえ、パチリとワシは目を覚ましベッドから飛び起きる。
寝間着のまま部屋を飛び出すと、悲鳴がした方へと灯りが消された廊下を駆けてゆく。
「どうした、何があったのじゃ」
「ひっ、ざ、座下でしたか」
廊下で手持ちの燭台を持ち腰を抜かした女性を見つけ近寄れば、一瞬また悲鳴をあげそうになったが、ワシだと分かるとほっとしたように彼女は息を吐く。
確かに燭台の灯りの外は真っ暗なのに、その中からぬっと何かが現れれば驚きもするかと反省しつつも彼女の手を取り立たせてやる。
「して、何があったのじゃ?」
「は、はい、それが、ひっ」
ワシの質問に答えようと何かがあった方向へ彼女が顔を向けた途端、今度は明らかに恐怖に怯えた声をあげ、顔を引きつらせる。
ワシもつられて彼女の向いた方向へと視線を向け、ワシも思わず「ぴゅい」っと変な声が喉から搾り出る。
「あ、あれはなんじゃ」
「わかりません、廊下を巡回してましたら暗がりから突然……」
声も何もしなかったから気付かなかったが、そこに居たのは顔だけでなく全身がぐずぐずに崩れた人。
土気色どころか腐った泥のような見た目のソレが、床をズルズルと這ってこちらへとゆっくりと近付いていた。
確かにこんなものに暗闇で遭えば誰だって悲鳴をあげる。
「何がありました」
「あ、あれが……」
ワシから遅れることしばし、ワシが見つけた女性よりやや年嵩の者がやってきて、やはりワシと同様指差されたモノをみて悲鳴をあげる。
「なんですかあれは!」
「わかりません」
「何にせよこんな人? とにかく侵入者です、座下を安全な場所へ!」
「何を言うかえ、ワシの居る所こそ最も安全な場所じゃて」
年嵩の者が手持ちの燭台と一体化した鐘を鳴らすと人が起き始めたのだろう、ざわざわと建物全体がにわかに慌ただしくなるのだった……




