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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
1008/3482

980手間

 嗚咽を漏らす者たちの中で祈られるという、実に名状し難い状況に置かれていたが何とかそれも終わりを告げた。


「本当に我らにそれを下賜して頂けるのでしょうか?」


「う、うむ、もちろんじゃ」


 ある意味終わっていなかったのかもしれない、首都大司教がずずいっと、自分の服が濡れるのも厭わずにワシの下にやって来て跪き見上げてくる。

 他の者たちも泉にこそ入っていないが、似たような姿勢でワシを見つめている。

 彼女らの表情こそ真摯なものであるが、その瞳には隠し切れないほどの熱狂を宿しており、なんとかワシは一歩後じさるのを耐えるのが精一杯で、首都大司教の言葉に頷くことしかできなかった。


「ところで、この水晶は置かれてるだけかの?」


「はい、その通りでございます」


「ふむ」


 彼女らの視線から逃れるように、水が湧き出る台座の上に鎮座している水晶へとワシは目を向ける。

 よくよく見れば台座の中に更に小さな台座があり、その上に水晶が置かれ、その周囲から水が湧き出ているようだ。

 それでは交換するかと手を伸ばしたところでハタと手を止め振り返る。


「そういえばここに置く水晶は祝福云々言っておったが、これもそうした手順を踏んだ方が良いかの?」


 コレといってワシが持つ晶石をほんの少し掲げるように動かせば、首都大司教がゆっくりとしかし力強く首を横に振る。


「座下がお創りになられた水晶は祝福そのものと存じますが、相違ないでしょうか?」


「うむ、そうじゃな」


 彼女らのいう祝福とはマナのこと、なればマナの結晶である晶石は祝福そのものと言っても過言では無いどころか文字通りの意味であろう。

 うむとワシが頷けば、首都大司教が祈るような姿勢になって話し出す。


「私どもでは、水晶はその中に祝福を留めると言われております、ですが水晶そのものには祝福がありませぬ、故に私どもは聖なる泉に捧げる前に祝福を与え、この場に相応しい物としているのです。ですが、その水晶は祝福そのもの、であれば祝福を与える必要など、いえ、むしろ私どもの祝福を与えるなどおこがましい」


「そうかえ」


 最初こそ生徒に話すかのように穏やかに話していたが、段々と話に熱を帯びてきたのか語気が強まる。


「ところで、この水晶はどうすればよいかの?」


「長く聖なる泉の祝福を受けてきた水晶ですので、祭事などで使用されることになります」


「ふむ、なれば普通に交換で良いの」


 そう言うなりワシは水晶をひょいと持ち上げ、空いた台座に晶石を置く。

 そのままでも特に安定性に問題はなさそうだが、万が一にでも倒れてはダメだろうと少し晶石にマナを送り、台座に包み込むように更に晶石を発生させる。

 これで台座が砕けない限りは倒れることは無いだろう、晶石もただの晶石ではなくワシのマナで結晶化したものだ、例え台座が粉みじんになるような事があろうとも平気だろう。


「この水晶はどうすればよいかえ?」


「それは私どもが責任を持ち扱わさせて頂きます」


「んむ」


 取り上げた水晶を首都大司教に差し出せば、まるで玉璽でも預かるかの如く頭を下げ、その頭より上に掲げた手で首都大司教が水晶を受け取る。

 思い付きでやったわりには大事になってしまったが、とりあえずこれで何もして無いとクリスに笑われることはないだろうと、むふんと得意げに鼻を鳴らすのだった……

近頃誤字修正機能を使い大量に誤字を訂正してくださる方がいらっしゃり、感謝の念を覚えると同時にそれだけ誤字があったのかと恥じ入るばかりです。

なるべく誤字脱字等が無いよう、今後一層気を付けます。

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