2話 なんということでしょう。
「まぁ、まずは住だな」
住むということは人間という健康で文化的な生活をすることが許された種族に必要なものの一つである。
マホによって食に関しては今の所は心配ない。
衣に関しても今のところは問題ない。現代日本の科学力なら、一、二ヶ月程度なら凌げる程度の強度の服の筈だ。
でも住は問題だ。人間の健康的な生活には異常な程に沢山の条件がある。
雨風しのげて冬暖かく夏涼しい、丈夫で十分な安らぎがあって、視界は開けててジメジメせず、爽やかである人間の快適を追求した最強の部屋。
それだけのものはこの島にはなかった。
マホが言うにマジで俺ら以外の人型知能持ちの生命はこの島にはいない。ので人に頼んで泊めてもらうことが出来ない。
つまり、家自作。……生憎サバイバルは経験ないが、なんとかなる…というかするしかない。
というか今さっきの最強部屋……作れるわけねぇよ。
俺はさっきの肉を貪り喰っているマホに声をかける。
「マホ」
「ん、ふぁふぁに?」
「……まぁ、まず飲み込め」
「ん」
……そしてその瞬間、肉が消えた。
「……今の魔法?」
「ちがう。自前なの。ぶい」
……どや顔?どう見ても無表情だ……。
「で、だな。魔法で木って作れるか?」
「木……?」
森の方を一瞥してからマホは首を振った。
「生き物……作っちゃ、ダメ」
「そういうもんなのか」
「うん」
公序良俗の観点とかそんなもんか?
「……でも」
と言ってマホは立ち上がり、
「切断は出来る」
そこに生えていた木を切り倒した。
「……マホ、グッジョブ」
「ぶい」
結局砂浜に運び出して木を選定し、木材に加工するのもマホがやった。
正直な所、中身が白アリに喰われてないか確認するために木を見るときに空中に木がずらりと並んだ光景はなかなかのホラーだった。
結果砂浜に良い木材だけがずらりと並ぶ。
「じゃあ、後はこれを乾かして……」
「乾燥」
「……ありがとう」
この娘なんでも出来すぎでしょ!ヤバいな!俺の存在意義ヤバいな!
……いや、この娘一人だったら絶対肉生で喰って人間的生活をしないに違いない。俺は教えてあげるのだ、この娘に人間の持つ自堕落さを。
うん……そうじゃないと俺意味ないもんね。
「じゃあそこら辺の木を伐ったしそこら辺を家にしますかね。じゃあまずは切り株を取り除い「消滅」
そっちを向いたときにはもう切り株はなかった。
根ごと、正確には根が張り巡らされた土ごと、無くなっていた。
……彼女TUEEEEEE。
その後も、
「じゃあ土の固い土台を……」
「加圧」
「あの大きな木を大黒柱にするから真ん中の方に……」
「浮遊、転換、落下」
「通気性とかから考えて。下に空洞があるといいから木を等間隔に埋めよう。マホ、シャベル出し……」
「掘削」
「もう怒った! 正和君頑張っちゃうからね! 板張りしよう。鋸で切って……」
「切断」
先を越されまくり俺は、考えるのを止めた。
「……マホ。掘りの周りを木で隙間なく囲って立ててくれるか?」
「……浮遊、転換、落下」
「じゃあ囲った木を固めるから。ノリみたいなのあるか?」
「うーん。束縛」
「ああ、早々そんな感じ」
「でもこれ、とくとこわれる」
「じゃあその状況で固定出来るようなのは」
「……固定」
「じゃあさっきの縛る魔法解いてみてくれ」
「うん」
「おお。これはもう固定する魔法も解いてるのか?」
「うん」
「……ついにコンクリいらずか。じゃあ最後は屋根だな上に木を乗せて」
「浮遊転換落下」
「一気に行ったな。よし、じゃあさっきの固定を」
「束縛、固定」
「よし、じゃあ扉つけるから俺の身長よりちょっと上くらいまで切り取れる?」
「……じゃあそこ立って」
「おう」
「切断」
「おぉ、切れてるよし、マホの前に持ってこれるか?」
「浮遊」
「じゃあそれを横から切って」
「切断」
「じゃあたてつけるか。そうだなスライドにしよう。ちょっとその板持って建物に入って…」そんなこんなで浮遊転換落下束縛固定切断を繰り返し、引き戸式の扉を作って家完成。
……いやぁ、魔法って便利。
「あ、そうだ」
俺が「なんということでしょう」をやろうとして扉を開けた時に思い出した。
「あ、窓がない」
よく考えたら光の窓口も通気孔もない。
……マホにガラスを出してもらうってのも手だが俺自体ガラスってどう作ってんのか知らないとなぁ。多分マホは知らないだろう。代用品ねぇ……。ん?魔法が使えるなら出来るかも
「おーい。マホー。ちょっと屋根に来てくれ」
そこら辺の木に登って屋根へ。
マホは既に登っていた。
「バリア…って晴れる?」
「うん。でも障壁、はせってーがむずかしい」
「じゃあ難しい……って言うと?」
「ゆーがいとむがいを分けるのが」
「なる程……。じゃあ無害なものを言うから、それ以外を有害にしてくれ。空気、日差し、外気圧、分子、電子、あとは……熱。こんなもんか?」
「つまり、そとのせかいと一緒にするけど、あめかぜと、きけんなものを避けたい……?」
「そういうことそういうこと」
「じゃあ、はじめからいらないものを言えばいい……」
「……あっ」
バカだな俺。
「じゃあ、これくらい天井を切り落として」
マホに手で大きさを指示する。
魔法を使って天井を大きく切り落としてその木を消滅させると、そこにバリアを張らせる。
最後に魔法で固定して超完璧な窓の出来上がり。
夜は星空を、朝は朝日を堪能出来るスーパー窓だぜ。
異世界に来て初めて便利を実感した気がした。
それにしても、一日で家って完成するんスね。
家完成なのです!?
まさかの一話の間にして家完成で私自身驚いています。
この作品のコンセプトは「便利すぎる魔法」なので、このままなんでも出来るようになるのかと自己予想です。
次話はおそらく1~2週間くらい開くかもしれませんがお付き合いいただけるとありがたいです。