1話 よくわかんないけどとりあえずここはどこだ?
……目が覚めたら、知らない天井、じゃないな。
てか天井がないな。
青い、蒼いよ。
英単語でいうスカイ。詰まるところ空が広がっていた。
「ぅあ」
情けない声を出して起き上がる。空が広い。
周りは砂浜だった。
沖縄もかくやというほどの真っ白な砂浜だ。爆薬が走ってそうな位の。
俺のドレスコーズはYシャツ、学ラン。そして通学鞄。
「……何処だここ」
思えばここから考えるべきだった。
結局何処なんだここは。
爆薬もいない。見たところ道路整備もされていない。
てか人がいない。一切いない。
無人島? てかここは島なのか?
……遭難?
いやいやいやいや無理があるだろ何だ遭難って。おれの最後の記憶は内陸の内陸、長野の古きよき商店街を歩いてるところだぞ? 生まれてこのかた海に行ったこともないんだぞ?
どしたのこれ、え、どうすんの。
「そうだ」
人を探そう。周りにいないだけで、もしかしたらという線も。どっち行こう。延々の砂浜とジャングル。
砂浜だな。
波に浸蝕されて小さな穴のあいた近くの岩を持ち上げて動かし折れ木を差した。
ここを本拠地とするッ!
もし小さい島なら数十分もあれば一周するだろう……。
(あれ?)
少女は首を傾げた。
(私の呼び出したのがいない)
当たりを見渡す。
見つけた。一里ほど先か。
少女は彼を見つめ。
その差を一瞬で詰めた。
「まってー」
「うぅぅぅぅうううおぉぉぉおおおお!!!???」
「まってー」
「いぃぃいいやぁぁぁだぁぁああ!」
俺は突然リア充イベントを堪能していた。
駆け抜ける白い砂浜。待って嫌だの和やか押し問答。
……ただし全力疾走で、である。
こちらへ(迫り)来るのは美少女だ。
髪は林檎のように赤く、対照的に肌の白い美少女である。
ただしスピードが化け物。
某黒人短距離走選手も目ではない。というか何なんだあの手の振るスピードは、人間業じゃない!!!!
速すぎる。世界陸上の委員長が泣いて喜ぶぞこの人材!
顔はミステリアス無表情。
……俺には獲物を狩るために駆る獣の顔にしか見えないがな!
そいつからの「待ってー」とか死んでも待たん。
喰われてまうわアホが!
……まぁ捕まるんだけどね。
「……すとぉーっぷ」
腹に足が巻きつき、目隠しされ、体に急ブレーキがかかった。
「どぉぉうえぇぇぇえい!」
ものすごい急ブレーキだった。体が反転していた。後ろ向きに倒れる。
食物となることを覚悟した。
……やさしく煮てね?
目が覚めると少女が覗いていた。俺を喰おうとしていたやつだ。レアステーキにされるのか?
やつは人間の姿だが少なくともイマニティではあるまい。
少女が口を開く。
「勝手にどっか行っちゃ、だめ」
「ハ、ハイ」
食材は逃げるなと!?
「うん」
心読まれた!?
違った。
「だって私とあなたは今からここに住むんだもの」
「えぇぇぇええええ!!??」
次の言葉が予想外過ぎるわ!
住むの!? 確定なの!?
……まぁ先住民族に串刺しにされて喰われるよりいいけど。まぁ良好な関係だけど。
「住むってここで生活するという意味で?」
「うん」
「一緒に?」
「うん」
まさか。確かに周りに人影もない。何があるかもわからない。よって行動する人数は多い方がいい。
けど人間じゃないぞこいつ。あの動きは人間には出来まい。
……まぁ今考えてもしゃあないだろ。
「……とりあえず衣、食、住。だな。着るものはあるが、食いもんと住む場所だな」
「食いもん、あっち」
「は?」
どゆこと?俺には獰猛な獣が見えるんですが……。
「……木の実という選択肢は?」
「そこにある。でも、あっちの方がおいしい」
いや、あっちにおいしく食べられそうですが……。
「……俺は無理だぞ、あれ」
「私がやる」
「いや……それは」
案外無理じゃないかも? 凄い速いし、でも流石に……。
そしてその瞬間、喋った。
「死」
え?
死んだ。獣が一言も何も言わず。ぽっくり逝った。
意味不明、しかし明確な、死。
……んなアホな。
「首切り」
首が落ちた。
「消滅」
首が消えた。
「浮遊」
獣の胴体が浮いた。
「分解」
獣が、血管、臓器、肉、骨、皮、になった。
「瀉血」
血管が破裂し、血が飛び散る。
「……出来た」
「…うん。出来たな。血みどろの事件現場が」
惨殺死体もこうはならんだろう。
「……血が付いてるとおいしくないってこと? 浄化」
血がなくなった。地面に落ちたのも一緒に。
なんてこった。
「……食べよう。皮は荷袋か服にしよう」
皮を砂浜にしき肉をその下に落としていく。
「ちょっとまて、今のは?」
「……あ、言ってなかった」
「何を?」
「今の魔法。便利」
「……ざっくばらんすぎる……」
日本ではファンタジーの代名詞。魔法。理屈は見た限り不明。……もしかして。
「日本じゃない?」
「うん。ニホンなんて知らない」
「じゃあ日本語は何故通じてるの?」
「わかんない」
「ええー」
なにそれ魔法万能説は何処へ。
「とりあえず、食べる」
肉を差し出される。
「……お前これ焼かないの?」
食中毒の可能性は考慮しなければならない。
「火……いる?」
「いるだろ!」
死なないのかな……。
「あーもう焼くぞ。金属ないかなんか……」
「……石じゃ、駄目?」
「石……。まぁできれば黒い岩だな。そんなの近くにあったかな……」
「……生成」
ズゴンッッ!
「ウォイ!」
岩が現れた。
自由か、自由なのか。なんでもありかこの世界は。
「……ありがとう」
「え? ……あ、うん」
「……でもこれは平面がないな……まさか出来る?」
「うん。もちろん。切断」
スパンッッ
岩が真っ二つになる。
「消滅」
上の岩が消える。
「ツルツルだな。切断面もきれいだ。さっきのきれいになるやつ行けるか? 表面をな」
「うん。浄化」
「殺菌されたかな…。良し、肉を焼こう」
「……これただの石」
「知ってる。だからこれが太陽熱であったまるように黒い岩なんだ。黒色は吸熱作用があって……」「加熱」
「……え?」
「ふぅ……こうすればいい」
「……ごもっともで」
やっぱり魔法は万能かもしれない。
焼石で焼いた肉はうまかった。串っぽいものを生成してもらい焼く。
決していい発想とは言わんが調味料をも必要だろうとそこの海水を持ってきて塩の味付けもした。ちなみにバケツは彼女に生成してもらった。
あと焼石はめっちゃ高火力だった。塩化ナトリウム水溶液が塩化ナトリウムに瞬間で変化する位には。
「おいしかったな」
「うん」
魔法については自力で理解を始めていた。
どうやら俺には英語に聞こえているようだ。未だ原理は分からんが。
「……なぁ、魔法ってどうやったら使えるんだ」
「……うーん。わかんない。私は生まれてからずっと使えるもの」
「へぇ」
「でも色んな魔法を使えるようになったのは最近」
「なんで?」
「師匠が教えてくれたの」
「ふぅん。今師匠は」
「ここにはいないわ。で、師匠は言ったの。覚えるためにはこの歌を思い出しなさい? って」
「呪文かなんかか?」
「私呪文は使わないわ。めんどくさいもの」
「そ、そうか……」
……長い魔法の言葉を唱えることが強力魔法の唯一の弱点というメリットとデメリットの等価交換はないらしい。
「師匠は魔法を使うとき、端的に魔法の内容を言いなさいと言ったわ」
俺はそれが英語に聞こえるみたいだな。
「そして魔法でやりたいことを考えなさい。使う時に役にたつわ。って」
「へぇ、どんなの」
彼女は息を吸った。
そして歌う。
「……あんなこっといいな、でっきたらいいな」
俺はずっこけた。
それ某猫耳ロボットの歌……。
「みんなみんなみんな、叶えてくれる。思って言ーえば叶えってくーれーるー」
一部間違ってんじゃねぇか……いや、この場合はアレンジなのか?
「凄い歌だわ。なんでも出来るようになったの」
「……そうか、良かったな……」
突っ伏した。日本どころか地球外、言うに異世界の無人島に来て魔法見てそのノウハウを聞こうとしたらこれかよ……。
「どうしたの……?」
「いや、なんでもない。異文化の違いに悩んでるだけ」
「……そう。ん……?」
そういって首を傾げた。
そういえば初めてあったときから印象も違う。
初めて会ったときは身体能力の高さに驚いて逃げて捕まったが、敵ではないということに安堵し、魔法を見せられてなんかもう色々と想像外過ぎてどうでもよくなってきた。
色々ハイスペックなこと以外は普通だ。
睫は長い、肌は白い、目はくりりとしていて可愛い、顔のパーツは黄金比……よりすこし幼め、体は華奢で、胸がでかい。
……胸がでかい。
大事なことだったので。いや、足りないな
胸がでか(((((
可愛い美少女、強いつまり非の打ち所がないスーパーガールである。
「私の顔になんかついてる……?」
ちょっと虚ろな感じが眠そうでいい感じだ、ほのぼのする。
顔が近いよ。覗くな覗くな。どきどきするだろ。
「あ、いや。その…名前聞いてなかったなって……」
「名前……私の?」
「おう」
「忘れた」
ずっこけた。
自分の名前って忘れられるものなのか!?
「私もそうだけど、あなたは?」
「……ああ俺か? 物部正和だ。よろしくな」
「うん、正和。よろしく」
「……それにしても名前が分かんないのは不便だな。」
「? ……なんで?」
「いやだってこれからここで一緒に生活することになるんだろ?呼び合うときとかに不便だろ?」
彼女は一瞬目を開いて……なるほどという顔をした。
「……じゃあ正和がつけて」
「え、あ、ああ、え? いいの?」
「うん。呼び合うため」
命名なんてしたことないぞ俺……。
「ええー……。そうだな、『マホ』はどうだ?」
「ま……ほ……?」
魔法使いだからってだけなんだが……命名センスのなさは言うな。
「駄目だったか?」
「いや、これがいい」
「……ならよかった。よろしくな、マホ」
「うん、正和」
海に沈む夕日を前に、握手を交わした。
ついに2作目が出せました!
我ながら作品数が少ないなぁ…と思っていたところで書き終わりました。
この話の裏話含めた詳細(更新予定etc...)は活動報告のほうで書かせていただきます。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/772004/blogkey/1410263/
これ活動報告です。
次回更新がいつになるかはわかりませんができるだけ早く更新します。では。