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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
灰色の種族と逆さまのノイズ
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66

 エルフの国を分断する大きな壁の上に現れたイサム達が次の行動に移ろうとした時に、イサムがロロルーシェに声を掛けた。


「ロロルーシェ、聞きたかったんだが何で他の仲間達を帰したんだ? 理由があるんだよな?」

「勿論だ。フェアリーのディオナが夢を見たらしくてな、今回イサムに同行させた場合、君のコアの誰かが死んでしまうと言っていたんだ。だからその予知を防ぐ為にコア達は帰らせた」


 目を見開いたイサムは、かなり驚いた様子だったが、それを事前に分かっただけでも良かったと感謝する。


「そうだったのか! 良かった! ディオナ凄いな」


 イサムが殺すとは言える訳が無いので、ロロルーシェも素直に頷いておく。


「よし、なら他に話は無いか? ノルはこの国の何処かに必ず居るはずだ、見つけたら攻撃せずに各自念話で伝えるのを忘れるなよ! 行くぞ!」


 ロロルーシェは、周りの頷きを確認して散開を指示した。



「行くわよ! シャン!」


 中央の壁を飛び降り、黒塗りのレンガで彩られる建物が多いアールヴ黒エリアを疾走するラルとシャンは、通り過ぎる人達に不快感を得る。何処の国でも見る筈の物売りやそれを求める客等がまるで見当たらない。


「何なのこの国、何処と争う気なのかしら?」

「もちろん決まってますよ、隣の白のエリアです」

「でしょうね……こんな事してる場合じゃ無いのに…本当に馬鹿じゃないかしら?」

「違いますよラル様、頭が良すぎてじゃないですか?」

「物は言いようね。さっさとノル様を探して帰りましょう」


 同じ様な建物が多く、ノルが捕まっている場所が分からないので手当たり次第に探すしかない。


「時間が掛かりそうね……カルの兵隊達に期待しようかしらね」

「そうですね…」



 壁の上で散開した仲間達を見届け、カルも部下たちに指示を出す。ロロルーシェから魔法を掛けられ姿を消しているのはカルのみだが、その部下達は小さな体と背景に溶け込む迷彩色に変更されている。その百八体のカラフルな卵達は白と黒のエリアに分かれあらゆる場所に入り込んで行く。


「ノル様…必ずお助け致しますぞ!」


 部下の視点を通して様々な場所を探索している、ふとカルの動きが止まる。


「おい! そこは駄目だ! ご婦人の入浴の場所に入るなど以ての外だ!」


 壁の上で一人もがく小さな卵に気付くものは誰も居ない。



 ロロルーシェの指示により浮遊大陸から移動しなかったルルルは、ゴーレム達の準備をしていた。


「さあ! 千年ぶりに活躍出来るわよ! 全員起き上がりなさい!」


 浮遊大陸に到着した時に動いていたゴーレム達以外にも徐々に活動を再開する。オートマトンになった四千年前からゴーレムの担当はルルルに変わった為、彼女の言葉に従順に動き出すゴーレム達は綺麗に二列に並んで整列し始めた。


「良い子達ね、もしもの時にはエルフ達を助けるからそれまで待機!」


 大陸から下を覗き様子を見るルルルは、不安な顔をしている。


「イサムとラル…どちらが見つけても戦闘は避けられないでしょうね……」



 エルフの国を分断する大きな壁を、真っ直ぐ進むと見えて来る巨大な灰色の城がある。建国された一万年前からその場所に存在しており、今なお生き続けているエルフの長が居る。

 城の前に来たロロルーシェは不可視により見えない為、スタスタと兵士に止められる事も無く城の中へと進み、長のいる大きな部屋まで簡単に辿り着く。


 誰も入って来ないのにひとりでに扉が開き、そして閉まる。だがその部屋の二人の主は直ぐに気が付く、こんな入り方をするのは一人しか知らないからだ。


「千年ぶりじゃないか? ロロ…」

「そうじゃな、千年ぶりじゃ」

「ふふふ、ますます年を取ったようだな長達」


 ロロルーシェはそう言うと姿を現す。目の前に急に現れても全く驚かないのは、彼女と一万年も付き合いがあるからだろう。


「そう言うお前さんは全く年を取らないな、羨ましいよ」

「そうじゃな、羨ましい」


 しわだらけの顔をより歪めながら笑う年老いたエルフが二人、ゆったりとした椅子に座り細い目を開く。長く伸びた耳も年齢により下がり、綺麗だっただろうその髪も白く染まって久しい。しかし他のエルフと違うのは、肌の色が灰色である事だろうか。


「さて、私がここに来た理由を知っているか?」

「はて、千年前にゴーレムを回収した後ぱったりと姿を見せなくなったからなぁ」

「理由とな? 儂等の死に目でも見に来たんじゃないのか?」

「ふぇふぇふぇ、それもそうじゃなぁ」


 耄碌している訳では無い、次世代へと政権を譲り隠居の身となった二人のエルフには、もはや実権が無いに等しい。それでも建国したエルフが存命である以上、この二人を超える存在はこの国には居ない。なのでその扱いは国宝級だ。


「お前らの長耳には入っておらんか……私のお気に入りの人形がこの国に連れ去られたんだが、白か黒どちらに居るのか聞きたかったんだがな」


 その話を聞き、二人のエルフは細い目を見開く。


「なんだと? お前さんは白か黒を疑っているのか?」

「事と次第によっては、お前さんとまた力比べでもしなきゃいかんな」


 明らかに苛立ちを見せる二人のエルフにロロルーシェは近づき二人の襟を掴み持ち上げる。


「おい、わざわざ私が迷宮を離れて、確証も無しにこんな所まで来ると思うか? お前らが知らないのなら、次世代が画策したんじゃないのか?」


 それを聞き、二人の顔色が変わる。


「ふぇふぇふぇ…なるほどなぁ…儂等も子供達に相手にされない歳になったか…」

「そうじゃなぁ…これは悲しい事じゃなぁ」


 ロロルーシェに持ち上げられながら、嘆く二人のエルフはトントンと彼女の手を優しく叩く。ロロルーシェはそっと二人を下ろすと話を続けた。


「それで、いま私の仲間達が国中を捜索している所だ。なにせ連れ去ったのは闇だからな、そのまま戦闘になる。国の半分は無くなると思うから覚悟しておけ」

「ふぇ! そうなのか! それは困ったのう」

「困るのう…儂等より先に子供らが逝くのは……何とか回避する方法は無いのか?」


 それを聞いてエルフの二人の前に屈み、ロロルーシェは答える。


「無い事も無い、ただ建物などは壊れるだろうがな。いまゴーレム共も準備している所だ、そして私は蘇生魔法を完成させた」

「おおおお! 遂にか! それは素晴らしい事だ!」

「本当にそうなら凄い事だ!」

「だが、それを簡単に使う事はしない。お前らは闇に引き込まれた奴を探しておくんだ、白か黒のどちらが引き込んだのか…」


 年老いた二人のエルフは側近の兵士を呼び、内密に調査する様に指示を出す。部屋に入った際にロロルーシェを見て非常に驚いていたが、二人のエルフと旧知の仲だと分かると直ぐに態度が変わり腰が低くなる。


「お前らの傲慢さは一万年経っても変わらんな」

「ふぇふぇふぇ、それがこの種族の在り方だからな」

「全てを揃え持つ、お前さんには言われとう無いな! ふぇふぇふぇ」


 しわくちゃの顔が歪み笑い出す二人のエルフの目には、ロロルーシェに会えた懐かしさと、エルフが闇に加担したと言う怒りがその奥に見え隠れしていた。



 壁を駆け下りたイサムとリンも同じ様な建物に囲まれて、捜索に手を焼いていた。周囲には多くのエルフ達が居るが、誰もイサム達に気が付いた様子は無い。


「どれも同じに見えるな、手あたり次第いっても時間だけ過ぎていくぞ」

「何かオートマトン同士で影響し合う能力があればいいのですが、そんな物は持ち合わせておりません」

「こうなったら俺の直感を信じるしかないな。俺がマッドサイエンティストならば……まずは目立つ家を避けて、地下室みたいな場所に研究所をつくり……ふはははと笑いながら、外で雷が鳴る……」

「最後の雷は必要なんですか?」

「当たり前だろ! マッドだぞ! 笑い声と雷は必然だろうが!」


 イサムとリンは走りながらそんな会話をしていると、イサムが急に立ち止まる。その背中にリンがぶつかる。


「ぶぁ! イサム様! 急に立ち止まらないで下さい!」

「ああ、悪い。ちょっとそこの路地の奥に行ってみよう」


 白い家と家の間に、人一人が通れる位の路地がある。一瞬だが、人が通り過ぎた時に何か違和感を感じたのだ。

細い路地を抜けると家の雰囲気が全くの別物に見え、白を基調とした綺麗な街並みだったのが一つ道を入るだけでジメッとした陰気な場所へと変わった。


「怪しいな、怪しさが半端なく出ている気がする」

「何処からですか?」

「あのゴミ捨て場みたいな場所からだ!」


 イサムが指さすゴミ捨て場とは、畳一枚ほどの大きな蓋が斜めに付いた箱で、ゴミを捨てている人がいる。その傍に寄るとイサムは顔色を変え、ゴミを捨てていたエルフの女性を掴み上げた。


「え! 何!? 急に体が浮き上がって!」


 見えない何かに捕まれてジタバタしているが身動きが取れない。そして敵対行動をとったイサムだけがボンヤリと姿を現した。


「おい! その服は何処で手に入れたんだ?」

「ひっ! 何でヒューマンがこんな所に!」

「答えろ! このまま魔素の海に行きたいのか?」


 イサムが指さす服は、メルと同じマコチ―が作ったメイド服である。その服を捨てているって事は、その先にはノルが居はずだとイサムは直感で判断した。


「こっ答えます! だから殺さないで!」

「案内しろ! 逃げようとしたら即殺す!」

「わっわかりました!」


 リンは念の為に念話を繋いでおく。


「ルルル様、ノル様の服を捨ててる奴を見つけました。そいつをイサム様が捕まえたので、今からその場所に向かいます」

『いや待たせるんだ、ラルかカルが行くまで待機だ』


 リンはそれをイサムに伝えるが、直ぐに答えが返って来る。


「は? 服を捨ててるんだぞ? 取りあえずその場所まで行くからな。ほら速く進め!」

「ひぃ! 分かってます! 殺さないで!」


 明らかにイサムの顔には怒りが込み上げて来ている。リンには止められないとルルルに伝える。


「駄目です、止められません」

『全く! ロロ様にも連絡するから、もしもの時にはノル様のコアを命がけで守りなさい!』

「はっはい!」


 そしてしばらく進むとエルフの女は薄汚い家の扉を開ける。と直ぐに地下へと続く階段が現れ、女性はそのまま階段を下りて行く。

イサムは躊躇なく、続いて下りて行った。

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