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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
異世界召喚と始めての蘇生
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番外編 春の火事とイサムの恋

後に繋がる話を番外編にて追加しました。

「はぁ」


 春一番が吹き、少し冷たい風が鏑木カブラギ イサムの体を震わせる。しかし、暖かな日差しを浴びても心地良く感じる事は無く、イサムは力の無い溜息をつく。


 それもそのはずだ。昨日高校を卒業したのに今だ就職が決まらず憂鬱の日々を送っており、両親も「自分の人生なんだから、自分で考えなさい」と相変わらず仕事が子供より優先の親だった。


 昔からイサム両親は仕事ばかりで家には居らず、イサムは夜の時間の寝るまでを殆どを一人で過ごす事が多かった。その為に遊び相手はゲームであり、中学に入ってから始めたオンラインゲームで鬱憤を晴らす毎日を送っていた。


 しかし、ゲームを続けその職業で大成する人は一握りの一握りの一握りであり、イサムも勿論その一握りに入れるわけではなかった。


「どうしようかなぁ…はぁ…」


 特に何も思いつかず、ブラブラと近所の商店街を歩く。卒業後も就職を悩んではいるが実家と言う安全圏に居る為に危機感は無かった。


「まぁ明日はアップデートの日だし、就職はその後考えよう」


 明日は、六年間やり続けたゲーム『ドラゴン・サーガ・オンライン』のアップデート日である。どうやら次の舞台は二千年前の過去らしく、スクリーンショットとコメント情報等を見る限りでは十分にやり応えのある内容だと思う。

一番乗りで過去に入ってやると、一人勝手に気合を入れる。


 就職が決まらなくても、ゲームに依存していたイサムは怖い位に何も考えていなかった。


「取りあえず、明日はモニターから離れたくないから買出しだな」


 もう学校へ行かなくても良いと言う開放感と、ゲームが何時までも出来ると言う高揚感にイサムの足も軽い。そして商店街の中をしばらく進んだ時だった。


ドガーーーーーン!


 もの凄い音と共にイサムの居る場所から数件先の民家の2階から火が上がる。


「火事だーーーー!」


 周囲の人が叫び声をあげる。イサムも一瞬驚くが、知り合いの多い商店街の人達の手助けをしなきゃと走り出す。


「おっちゃん水は? 消防署には連絡したのか!?」


「おうイサム! 今連絡した所だ! まずは火をどうにかしなきゃな!」


 行きつけの魚屋の親父がイサムと話しながらも、奥から水道ホースとバケツを数個持ってくる。


「借りるよ! おっちゃん!」


 イサムはバケツに水を汲み、燃え盛る民家に向う。隣の民家の人は、自分の家に火が移らないように必死で水をかけている。しかし、その時だった大きな爆発があり更に火の粉が上がる。そんな中で、爆発した隣の民家を見たときだった。イサムの場所から人影が見え、逃げ遅れていると直感した。


「おっちゃん! 人影が見えた、逃げ遅れかもしれない! 俺が助けに行く!」

「何言ってるんだ! イサム あぶねぇもどれ!」


 八百屋のおじさんの忠告も無視してバケツの水を被り、民家へと入っていく。民家の中は、火がそこらじゅうにに燃え広がり早く見つけないとと焦ってしまう。すると二階から下りる階段中位で一人の倒れている少年を見つけた。

 イサムはすぐさま抱きかかえて、火の中を潜り火傷もお構いなしと外へと飛び出した。


「人が出てきたぞーーー!」


 すでに消防隊の人達が駆けつけて放水が始まっていた。


「君! 大丈夫か! すごいぞ! よく助けたな!」


 良かった、子供を助けられたと息も絶え絶えにイサムは笑う。そこへ少年の父親だろう人が傍にきてイサムを掴み上げる。


「ありがとう! 君は息子の命の恩人だ!」


 目を潤ませる男性はイサムを抱きしめしばらく話さなかった。その後、その人から名刺を貰い「もし就職など困っていたら私に言いなさい」と言われたが、ゲームがやりたいが為に「わかりました、その時は是非」位でそそくさと帰宅した。


 翌日になり、無事火事は沈下されて、奇跡的に怪我人は居ないと言う事だった。人混みも嫌いなので、ささっと返ったイサムだったが、新聞を見ながら本当によかったと安堵の溜め息を吐いた。


「さてと、いよいよアップデートだ! 気合入れていこうぜイサム!」


 昨日の火事など過去の事と、朝からオンラインゲームのアップデートが終わるのを待ち続けていた。そして事件は起こった。 アップデートが始まり、データをインストール。そしてログインした。


「一番乗りだ! まだ誰もいない!」

 

 ログイン数1名と表示されている。すぐさま予期していた新エリアの移動ポイントへ向い、イベントを見る。そして過去へと誘う重厚そうなストーリーをスキップし、まずは過去に一番乗りした記念にスクリーンショットを撮ったと思った時だった。


「あれ、フリーズした? 重すぎたのか?」


 アップデートの時に、アクセス過多によりサーバーが落ちるのは良くあることだ。


「なんだよ強化しとけよー!」


 愚痴を言いながらも、動かない画面を強制終了し再度ログインしなおす。しかし、何度やってもログイン出来ず結局この日はゲームが出来なかった。

 それから数日立ってもゲームにはログイン出来ず、フォルダに残ったスクリーンショットを見ながら退屈な日々を送っていた


「【ログイン人数1名】一番乗り出来たのになぁ…」


 森の中に佇む六年間使用したキャラクターを見ながら、溜め息を吐く。その10日後、ゲーム会社の報告により、サーバーからデータがごっそりと消えており復旧する事は不可能と公式に発表された。ハッキングやゲーム会社の違法なデータ改ざん等の色々な憶測が飛び交ったが、原因は結局分からなかったらしい。


 イサムは六年間情熱を捧げたゲームがあっさりと終わってしまい暫くは放心状態が続いた。そして一枚の名刺を思い出し電話をかける。


「もしもし、商店街の火事の時に名刺を貰った、鏑木勇と申しますが…」


 ゲームが終わったと知った時に現実に戻されたイサムは、直ぐに就職と言う選択肢を選んでいた。


 そして、引越し当日の事だった。

 就職場所に近いアパートを借りた。二階建てのアパートの一番端の家で、1DKの風呂トイレつきアパートだった。風呂が好きなイサムは、風呂付を探した挙句このアパートしか近場では開いていなかった為、迷わずこのアパートを選んだ。


「こんにちわ、今日お引越しですか?」


 隣の扉を開きつつ、話しかける女性。白シャツに白いゆるふわな花柄スカートが似合いの女性。イサムはその瞬間に春を感じる、そう恋の春を。


「そ、そうなんです。あなたもですか?」

「そうです、今日隣に引っ越してきました、【大宇土おおうと 真兎まと】と申します。宜しくお願いしますね」


 にこやかな笑顔に、顔がにやけっ放しのイサムも、気に入られるようにと挨拶する。


「鏑木勇です! 宜しくお願いします!」

「ふふふ、元気な方なんですね」


 口元に手を当て笑う彼女を見て、イサムの心はあの商店街の火事よりも燃え盛っていた。

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