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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
異世界召喚と始めての蘇生
2/125

10/20加筆修正行いました。

 深い暗闇、夢ではない感覚。青年は空間に光り輝く河の様なものを突き破り、再び闇の中へと落ちていく。何故と思いながらも、上を見上げれば先程の河が遥か頭上に消えて行き、下を見ると暗転が深く続いている。そして数分なのか、数時間なのか、はたまた数日なのか認識できない程の闇に覆われたと思ったら、その次は眩いばかりの閃光を感じ、瞬きした瞬間に知らない場所に落ちた。落ちたと言う表現が正しいと思ったのは、今まで体が何かに触れている感覚が無かったのと、地面に強く叩きつけられたからだろう。だが痛みはまったく無く、その代わりに目の先には、赤色が付着した銀と金色が混ざった髪色の綺麗な少女がこちらを見ている。そして暫くの間、少女と見つめ合っていた。


(こんな可愛い子が俺を見つめてる…って思ってる場合じゃない! まさか…し…死んでる!?)


 血生臭い地面に伏した、金色と銀色の左右別々の目の色をした彼女は、確認するまでも無く死んでいるだろう。何故なら彼女の体は真横半分に千切れ、ツヤのまだある臓腑は周囲に散らばっている。


「うわぁぁぁぁ!」


 青年は飛び上がろうとするが、濡れた地面に足を取られてそのまま尻餅をつく。だがそれでも動かない彼女から離れようと、必死に四肢を動かした。必死にもがきながら、ふと自分が服を着ていない事にに気がついた。


「え? 俺…何で全裸!?」


 少しでも離れようと手足を動かしながらも、現実からは程遠い夢の様な惨劇を前に、自身が服を着ていない理由を思い出そうとしていた。 



 遡る事数十分前。一人の青年が仕事を終えて帰り道を急いでいた。青年の名前は【鏑木カブラギ イサム】。高校を卒業しても就職が決まらずにダラダラと日々を送っていた、いや就職する気が無かったと言った方が良いだろうか。しかし、高校卒業後に近所の商店街に出掛けた際、突如火事を目撃し、その中で逃げ遅れた少年を助ける。無我夢中だったが、その勇気を感動した少年の父に気に入られ、経営していた会社にやむ得ない事情により、滑り込むように就職する事となった。

 渋々だったが、両親に迷惑かけたくないこともあり、休む事無く仕事に精を出した。ただ不満があるとすれば、単純な作業ばかりで毎日仕事と家の往復を繰り返すだけ。ただそれが当たり前だと感じ、自分の人生はどこにでもある機械の、気にもしない小さな歯車みたいだと、帰りに考えるようになった。


「ふぅ…」


 就職して三年目の冬の始まり、徐々に肌寒くなり吐く息ももう直ぐ白くなるだろう。そんな意味の無いため息をつき、いつもの様に自宅のアパートにたどり着く。


「こんばんわ、寒くなりましたね」


 二階建てのアパートの一番端に住むイサムの隣に住む、長めのスカートと綺麗に整えた黒髪の可愛らしい女性が話しかけてくる。【大宇土(おおうと 真兎(まと】は、イサムがこのアパートに越して来た同じ日に越して来た。その容姿や雰囲気にイサムが恋に落ちるのは必然で、それ以来彼女と他愛の無い話をする事で、日々の嫌な事や辛い事を消し去っていた。


「寒くなりましたね。真兎さんも風邪引かないように、気を付けて下さいね」

「はい、でも私は大丈夫です。すっごく頑丈なんです」

「え!? そうなんですか? 全然そんな風には見えないです! あっいや、勿論良い意味でですよ!」

「ふふ、知っていますよ。私今まで風邪とか病気とか一回も掛かった事ないんです」

「へぇー! それは羨ましいです! 俺も見習わないと!」


 イサムは両腕を上げ、上下に動かしながら健康アピールをする。真兎はそれを見て嬉しそうに微笑む。何気ない日常の会話だが、イサムにとっては何よりも大切な時間である。だが、彼女は恋人ではなく隣人である。年齢イコール彼女居ない暦のイサムには、告白する勇気が無く、出会ってから三年の間いつも他愛の無い会話のみで必死にチャンスを窺っていた。


「イサムさんはいつもお優しいですね」

「そっそんなこと無いですよ」


 唐突に優しいと言われたイサムは、両手を大きく左右に振る。


「今度また、ご飯を作りに行きますね」

「本当ですか! 楽しみです!」


 彼女は一人暮らしのイサムを不憫だと思うのか、たまに食事を作ってくれる。誕生日を知ればケーキを作ってくれたり、バレンタインにチョコレートもくれる。だが、それ以上この恋を発展させることも出来ず、彼女もそれ以上の事を期待してる様な雰囲気も無かった。とイサムは考えていた。


「あの…お尋ねしたいのですが、イサムさんは夢とかあります?」

「夢ですか…考えた事なかったな…」

「そうなんですか…」

「いっいえ…夢と言うか…変な人だと思われると困りますが、この世界が平和になれば良いなと思います……」


 何言ってんだと後悔したが、それを彼女は素直に聞いてくれている。イサムが彼女を好きになった理由の一つだ。


「そうなんですか、実は私もです。この世界が平和に、沢山の命が救われる世界になって欲しいと思っております」

「はい…そうですよね…本当に人を救いたいと思う事があります……でも特に何か出来るかと言われると何も…」

「そんな事ないですよ、いつか必ず人を助ける事が出来ます! イサムさんなら間違いないです!」


 突拍子もない話を真剣に聞いてくれる。イサムは顔が少し赤らむ。暫く沈黙が二人の間に流れ、余りにも恥ずかしいので家に入ろうとイサムから別れの挨拶をする。


「寒いので早く家に入らないと、本当に風邪ひきますよ! 食事楽しみにしています! では失礼します!」

「…わかりました。では、失礼しますね」


 寂しそうな気がしたイサムだったが、真兎は優しく微笑むと家の中に入る。イサムもそれを確認すると家に入り、そして自分の頭をを叩く。


「ああっもう! 本当に俺は意気地がないな…!」


後一歩彼女を誘う勇気が無い。ズキズキと痛む頭を撫でながら、小さなユニットバスの浴槽にお湯を注ぐ。その間テレビを付けるが、映し出されるのは誰かが死亡したとか殺されたという内容ばかりでため息をついてしまう。


「真兎さんが言ってた人助けって、どう言う意味なんだろうな…」


 服を脱ぎ身体を洗う、学生時代は運動など殆どしていなかったが、就職した先では毎日体を動かしている為、入社当時に比べ随分と体格も良くなったと、浴室内の鏡を見ながら少し力を入れてみたりする。そんな事をしながら、ささっと体を洗い湯船にゆっくりと浸かる。


「ふぅ…風呂は一日の疲れが一瞬で飛ぶな…まぁその為に少し無理して風呂付きをアパートを選んだんだけど…」


 足など伸ばせる浴槽ではないが、十分満足しているイサムは目を瞑り頭を壁に付けながら息を吐き出す。



「ここに来て三年か…まぁ三年なんて短い時間だが、実に有意義な時間だったな。そのおかげで彼の体も十分に強化出来た」

『座標を確認致しました。如何致しますか? このまま直ぐにでも発動されますか?』


 上空に人影がある。誰にも気づかれる事無く、人影はそっと両手を広げ何やら唱える。先ほどイサムが帰宅したアパートを包む程の大きな魔方陣が展開すると、その人影は空を歩きながら近くのマンションの屋上に腰をかける。


「ふむ、こちらも準備完了だ。彼は今湯浴み中だ、流石に新しい世界に全裸で送るのも可哀想だから、もう少し待とうか」

『了解致しました』


 足を組み顎に手を当てそんな呑気な言葉が聞こえるが、その独り言を聞く者は誰もいない。しかし、人影が腰を下ろして数分後、日常の風景を裂く眩い光の柱が天を突き破る。そして光の柱の中心に展開されていた魔方陣が輝き始める。


「ん? 発動した? お前が発動させたのか?」

『いえ違います! 原因は分かりません! ですが強制的に発動しています! …いえ少々お待ち下さい! え!? この場所は…! どうして!?』


 マンション屋上の手すりに腰掛けている女性の耳に、明らかに驚きと焦りを隠せない声が聞こえる。その間も魔法陣から発せられる光は強くなり、描かれる文字はどれも忙しなく浮かんでは消えていく。その魔法陣の中にある建物に住む青年、イサムは十分に温まった体を持ち上げ湯船から出ようとした瞬間、大きくアパートが揺れる。


「なっ何だ地震? この光は!?」


 急いで手桶を掴み頭に乗せるが、激しい揺れと光に思わず声を上げるが、逆らう事の出来ない光の中にイサムは溶けていった―――――― それにあわせて、マンションの屋上に居る人影も両手を広げる。


「無理やり発動するとはな……あの子に何かあったな…ふむ…もう少し見物したい場所もあったが…そんな事言ってられないか。そちらに戻るぞ」

『了解致しました。空間魔法の座標を固定致します』


 そう言い残し人影も光の中に消えていく。その瞬間をベランダから隣の女性が消えゆく光を見上げていた。


「……貴方なら必ず多くの人を救えます……応援してます。イサムさん…」



 イサムが魔方陣に飲み込まれる少し前、とある世界の魔法使い見習い【リリルカ・ノーツ】は、今日の修行を終え共に暮らす教育者兼メイドの【ノル】と晩御飯の話で盛り上がっていた。

 背中ほど伸びた金色と銀色の淡く混ざった髪を、大きく揺らしながら微笑む。身長はそこまで大きくないが、全体が少しばかりふっくらとしているのは、食欲旺盛でよく食べるのが原因かもしれない。


「ノル! 今日の晩御飯は卵料理にしようと思うの。美味しそうなメニューを見つけたんだぁ」

「リリルカ タベスギハ ヒマン ノ ゲンイン チュウイ ガ ヒツヨウ」


 共に暮らすノルは、祖母が作った【自動人形オートマトン】と呼ばれる人工的に作られた人形で、生まれた時から一緒に暮らして居る。年恰好は二十代前半位で、祖母曰くかわいい系なのだそうだ。

 髪は淡い水色のショートで、肩の少し上で綺麗に切り揃えられている。そんな彼女の傍に居ると、作り物とは思えない艶のある髪から、甘い匂いが香り心を癒してくれる。

 そして家で待っている、ノルの双子の妹【メル】もそうだ。二体とも【メイド】と呼ばれる衣装を身に纏っているが、祖母が異世界から送ってきた本の中で見たものなので、リリルカにはその衣装が本当に正しいのかは分からなかった。それに今着ているその服では、彼女達の胸元が強調しすぎて、もしかしたらボタンが急に弾け飛ぶのではないかと心配になる。まぁもし飛んでも、それを喜びそうな男性など周囲には誰も居ないのだが。


「んもう! 美味しい物はついつい食べ過ぎるのよねぇ…あっそう言えば、卵あったかな?」

「ナカッタ ト オモイマスヨ」

「じゃぁ帰ったら卵を貰いに行かなくちゃ」

「デシタラ ワタシガ イッテキマス」

「そしたら三十層の食材屋さんまでお願いね」


 リリルカが笑顔でノルに頼む


「リョウカイ メル ニ ツタエタラ スグニ ムカウ」


 リリルカ達の住んでいるこの場所は、見渡す限りの草原で、それを囲む様に壁が存在している。その草原は、直径で約一キロ程しかなく中心にリリルカ達の住んでる家が一軒だけ建てられている。だが、実際は壁のその先に直径五十キロ程の巨大な迷路が広がっており、地上を一層として地下百層からなる大迷宮が広がっているらしいのだ。何故こんなに広い迷宮なのかを祖母に聞いたことが無かったが、暮らしていて特に不便など感じた事がないので気にしてはいない。ただ、この迷宮を作った祖母は、三年前に突如出掛けると言い残して何処かへ行ってしまった為に、今は祖母の従者であるノルとメルがいつも傍に居てくれる。

 そのノルが、一人何かを話しているのを横目で確認したリリルカは、家の隣にある畑から一人の女性が現れるのを待つ。彼女たちは【念話ねんわ】と呼ばれる【遠話魔法】と言う魔法で、遠くの人とも話が出来き、そしてその話し相手が畑から野菜を籠に入れ、それを抱えながらノルと同じ顔の女性【メル】が傍に寄って来る。


「オカエリナサイ」


 ノルの双子の妹、メルがこちらを向き丁寧にお辞儀する。日々深々と頭を下げる彼女を見て、これが普通なのだろうとリリルカはいつも思っているが、祖母の従者でありその孫にまで頭をそこまで下げなくても良いと一度尋ねたが、祖母との付き合いが長く癖みたいなものだから気にする必要は無いと言われ、一応納得している。


「ただいまメル! 今日は卵料理を作ろうと思うの。ただ卵が無いから、ノルが下の階層に取りに行ってくれるって」

「リョウカイ イタシマシタ デハ ヤサイ ノ シタゴシラエハ スマセトキマス」

「えー野菜は苦手だなぁ」

「スキキライ ハ ダメデスヨ」


 メルはそう言うと、ログハウスの中に入っていく。


「たまには野菜抜きの食事でも良いじゃない…」

「ソレデハ フヒツヨウナ シボウ ガ チクセキ シマス」

「ぶぅ、そんなに太ってないわよ」

「サイキン ハ ヨク タベマスノデ アスカラ スコシ ウンドウリョウ ヲ フヤシマショウ」

「えー! 体動かすのって苦手だよぉー」


 ノルが隣でリリルカの膨れた顔を見ながら、移動を始める。


「デハ イッテキマス」


 ノルはそう言うと、リリルカの家に隣接してる木造の小さな小屋へと向う。その中には、大迷宮など関係ないと言わんばかりの昇降機があり、地下九十層まで降りる事が出来る。そしてそれより先は、階段で降りるらしい。


「よろしくねー! さてと」


 ノルが帰って来るまでまだ時間がある、リリルカは今日覚えた魔法の練習を始める。家の中からはリズムよく聞こえる包丁の音が聞こえ、それがより空腹を刺激する。そして三十分位経った頃だろう、昇降機側より人影を感じノルが帰ってきたのかと振り向く、だがそこに居たのはノルではなかった。


『あれぇ魔法使いって長生きなんだよねぇ、それにしては随分と幼いわね…まぁいいや、始めまして魔法使いさん』


 十歳位だろうか、小柄で胸元に大きな黒いリボンを付け、ひざ丈位までのワンピースと呼ばれる服着て、髪を左右二つに分けた可愛らしい女の子が両足を揃えこちらに向いてペコリとお辞儀をした。

 違和感を感じたのは、少女の身の丈を上回る禍々しい靄を纏う大きな剣である。しかもそれを軽々と片手で肩に担いでいる。


「ん?…どこの子かな? 三十層?」


 この場所は特殊な場所らしく人が来ることはほとんど無く、来るとしたら獣人族ビーストの国がある三十層の食材屋さんか、魔法で外壁を壊した時にいつも来てくれるドワーフの大工さんくらいである。それに昇降機は、子供が操作出来る様な代物ではなく、そこに通じる扉を開ける為には、祖母が作った魔法の鍵が必要になるはずだ。

 少し警戒する様に、リリルカは身構える。だが一瞬だった、少女が左右に揺れたと思った瞬間に、リリルカに向ってもの凄い速度で近付いてくる。


『あの場所には…もう居たくないの! 私の為に! あなたを殺してあげるね!』

「えっどう言う意味!? ひっ!」


 少女の独り言の様な言葉に問い掛けようとしたが、その鋭い大剣は容赦無くリリルカに振り下ろされた。鈍い金属音が周囲に響く。リリルカは、少女があまりの速さで近づいて来る驚きで目をつぶってしまう、だが切られた感覚も無く勿論痛みは無い。不思議に思った彼女は薄っすらと目を開ける。

 すると目の前に居たのは祖母の従者であるメルだった。両手で包丁を持ち、禍々しく闇を帯びた大剣を受け止めていた。


「リリルカ ダイジョウブ デスカ?」

「メル!」


 リリルカが中々家の中に入って来なかった為、心配して外に出て来たのが幸いしたようだ。


「ヤミ ノ マモノ ガ ナゼ ココニイル!」

『へぇ…一層のオートマトンのくせに生意気じゃない…でもそんな武器で私に勝てると思うの?』


 ペロリと舌なめずりをした少女が、後ろに飛び先程よりも数倍速い速度で、メルに向って一直線に駆けて来る。そして振りかぶった大剣を、その小さな体からはあり得ない程の力を込めて斜めに斬り放った。

 金属の触れる音が辺りに響く、だが先ほどとは明らかに違う音がリリルカの耳に聞こえる。少女が振り下ろした先程の一撃により、メルの持つ包丁は完全に砕かれ、そのまま右肩から左脇下へ光の線が流れた。姿形は人だが、作り物のメルのその体は、ギギギと言う音を立て崩れ落ちる。だが、作り物だからこそまだ生きていると、斬られなかった片手を地に着けた反動でそのまま少女の顔に拳を振るう。


「おっと! 執念深いわね!」


 ギリギリの所で拳をかわした少女は、軽く飛び少しだけ距離を開けた。その拳を当てられなかったメルはそのまま一回転して地面に強く叩きつけられる。ただ、頭を破壊された訳ではないので思考が止まる事は無く、体が停止する程の破壊までは至らなかった。そこへメルへと駆けてくる足音が聞こえてくる。


「メル!」


 目の前に居る少女は動いていない、ならその足音一人しか居ない、メルは即座に近寄ってくる人物に叫び制止させる。守らなければならないのは、作り物の体を持つ自分の命ではなく、仕えている主の唯一の肉親であるリリルカの命。


「ワタシハ ダイジョウブ! ハヤク ニゲナサイ! リリルカ!」


 しかし悠々と見つめる少女がそれを見逃すはずは無い。


『ははは! 逃げ切れると思っているの? 魔法使い!』


 ケタケタと笑う少女の声が聞こえ、リリルカへとゆっくりと近付き始める。


「私だって毎日魔法の勉強をしてるんだから!」


 突き出した手に風が集まり一気に凝縮していく、サッカーボール程の球体がリリルカの目の前に作り出され、少女目掛けて放った。だが大剣を縦に一振りした少女に、いとも容易くその風の球体は二つに割れて少女に触れる事無く左右を通り過ぎていく。


『無詠唱かぁ成長したらさぞかし脅威だけど…今日死んじゃうからね』


 リリルカはその言葉と同時に、動け無い程の恐怖で足がすくみ動けなくなってします。


「あ…う…」

「リリルカ! ナニヲシテイルノ! ニゲナサイ!」

『もう遅い!』


 リリルカが気付いた時には既に少女は目の前に立っていた。そして身の丈以上の大剣を横に一振りすると、その瞬間リリルカの体が大きく吹き飛ぶ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「リリルカァァァ!」


 リリルカとメルの苦痛な叫びが草原に響き渡る、ただ一振り、ただ斬られただけの彼女の体は衝撃で吹き飛び、クルクルと回りながら宙を舞い、数秒後に強く地面に叩きつけられる。


「ぎぐぅぅぅぅぅっ」


 リリルカの体から吹き出た血飛沫が周囲を赤色に染めていく。激しい痛みが全身を襲いかかりそれを耐える事も出来ずに手足をバタつかせる。ただ直ぐに気がつく、動くだろうはずの下半身の感覚が無い。そして当然だと一瞬だけ冷静に理解する。腕で起こした上半身から少し離れた場所に、よく見慣れた自身の下半身が見える。間違いなく自分のだろう、上半身から飛び出た臓物が下半身へと長く伸び、まるで紐で繋がれた様に繋がっている。勿論だが、回復魔法を掛けたとしても戻せそうに無い。


「痛い痛い痛い! どうしてこんな! なんで…どうして!」

『はははは! 痛いねー! 怖いねー!』

「リリルカ! リリルカ!」


 メルの声が遠くで聞こえる、だが痛みでリリルカの思考は定まらない。分かることは、もう助からないだろうという事だけ。吐血し涙が溢れ出しそれでも願う、祖母にもう一度会いたいと。


「おばぁ…ちゃ……ん」


 最後に一目家族に会いたかったと思いながら、自身が生み出した血の海の中に沈んでいくリリルカは、ゆっくりと息を吐き出して、吸うことは無かった。

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