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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
呪われた多尾族と嘆きのセイレン
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 丘を下り徐々にガルスの入り口に近づくと、イサムのマップが反応して敵を捉える。


「そこら中に居るな…ちょっと待ってくれ、入り口に数匹近寄ってきてる。こっちに気が付いてるみたいだ」


 イサムが仲間達に綺麗な石畳が見え始めた入り口前で停止させると、それを見越したように五匹の犬のような黒い魔物達がゆっくりと現れる。イサム達は武器を構え臨戦態勢に入ろうとしたが、その五匹の中の一匹がゆっくりと前に出てくる。


『ボウケンシャ カ コノマチハ ワレラガ エサバ チカヅケバ イノチハ ナ…』


 イサムの視界には闇の魔物【バーゲスト】と名前が表示され、その禍々しさが全身から溢れている。一噛みで肉を食い破りそうな程の大きく鋭い牙を生やし、その体躯は大型の犬よりも一回り大きく、威圧されそうな程の赤い目でこちらを見つめている。


ダン! ギャン!


 だが話を聞き終わる前に、イサムは前に出てきた魔物の眉間に弾丸を撃ち込む。撃たれた魔物は頭の部分がドロリと溶け、ゆっくりと地面に首からもげて落ちる。


「餌場じゃないだろうが! 命が無いのはお前達だ!」

『ゲッゲッゲッ…』

「何が可笑しい!」


 いきなり仲間が攻撃され一瞬怯む仕草を見せた魔物達だったが、後ろに居る四匹が口角を上げてニヤリと笑う。すると撃たれた魔物の頭が付いていた部分がモゾモゾと蠢きだし、そこからまた新たな顔が作り出されようとしていた。


「うえっ気持ちわるっ! だったら…これでどうだ!」


 銃で攻撃するのを止めて、範囲蘇生する要領で五匹の魔物を指定し魔法を発動させる。


『ギャィィィィィィィ!』

 

 指定したサークル内で光が魔物達を包み込み浄化させる。その効果は絶大で瞬く間に五匹は溶けて消えていった。


「やるわねイサム! 燃えてきたわ!」

「本当に燃やすなよ!」

「イサムさん、町全体を浄化出来ないんですか?」

「出来ない事は無いが、初めて来た場所で地図が確立されてないんだ。町 全体が分かるまでは発動しても、生き残りの魔物が町の人をまた殺してしまう可能性がある」

「闇の魔物は倒しながら、殺された人達は生き返るわけですね」

「ああ、だから今は殺された人達が蘇生範囲に居る場合には気をつけないと」


 それに納得がいかないエリュオンが話に入る。


「戦闘の犠牲を増やしたく無いのは分かるけど、手加減して勝てる魔物ばかりじゃないわよ?」

「それはそうだが、なるべくで良い。救える命は救いたいだけだ」

「わかったわ、倒しながら考えましょ。現状を見てみないと何とも言えないし」

「だな、先に進もう」


 町の入り口に入ると、倒された仲間達に気が付いたのかゾロゾロと先程と同じ魔物が集まってくる。


「エリュオンとネルタク、タチュラは各自の判断で任せる! ディアナは俺のサポートを頼む! 町全体を把握したら直ぐに魔法を使うからそれまでは頼む!」

「任せといて!」

「了解です!」

「畏まりました!」

「はい!」


 短い言葉を交わして各々が町の中を疾走し始める。入り口から広くは無い路地が続き、その先から現れる魔物達は次々とイサムの範囲蘇生で消滅していく。


「これだけ狭いと戦い難いわ! イサムだけが活躍してるじゃない! 次の分かれ道で私は道を変えるわよ!」

「そうですね! 僕も戦えないと調子が狂います!」

「では妾は家の上に居る者達の相手をしますわね!」

「わっ私はイサム様のサポートを!」


 戦えない不満をあらわにしながら仲間達が分かれ道で別々の道を選択する。


「しょうがないな! 気をつけろよ!」


 イサムの声が届いたのか分からない程に素早く移動していく三人を見ながらイサムはそのまま道を進む。すると魔物達が襲い掛かるのを止めて数匹が体をくっ付けるとそのまま溶ける様に一匹の大きな角のある熊の様な姿に変わる。


「形が変わっても同じだろう!」


 同じ様に蘇生魔法を発動して浄化させようとする。だが数匹がくっ付いている為だろうか、浄化する事が出来ずに隙が出来てしまう。それを見逃さない大熊に姿を変えた魔物の一撃がイサムを薙ぎ払う。


「ぐっ!」

「イサム様!」


 勢いよく振りぬいた熊の一撃を喰らったイサムは、民家の壁を突き破り家の中へと突っ込む。


「ぺっぺっ! 砂埃が! やりやがったな!」


 砂埃を落としながら立ち上がるイサムだったが、視線の隅に人影を見つける。薄暗い家にイサムが突き破った壁から差し込む光で姿を確認するが、人なのだろう生き物に息を呑む。


「壁壊して悪いな! おいアンタ! ここに居たら危ないぞ!」


 恐らくはミウ族の女性だろう。イサムの問い掛けに反応する事も無い者の目は虚ろで、体は痩せこけて生きているのか死んでいるのか分からない程に命という物を感じる事が出来ない。

 そこへ先程の熊が壁を崩しながら入って来る。ディアナが腕に装着した武器【ナナホシテントウ】で応戦していたのだろう、無数の矢が体に突き刺さっているが魔物にはあまりダメージを与えてはいないようだった。


「だったら頭に直接食らわしてやるよ!」


 懐から銃を取り出し、頭を目掛けて弾を撃ち込む。魔物は怯みながら片膝を付き、両手で撃たれた頭を抑えながら威嚇とばかりに声を上げる。


『ギャウウウウウ! ガァァ!』

「痛いか? 殺された人達の痛みを思い知れ!」


 イサムの罵倒に苛立ちを隠せない魔物は、傍でにうな垂れていた家の住人を掴むと躊躇なく口へと運ぶ。


「やめろ!」


 咄嗟に銃口を向けるが、魔物は掴んだ女性で自身の頭を隠し勢いそのままに下半身を喰い千切る。


「あ゛あ゛!」

「やめろって言ってるだろうが!」


 目の前で噴き出す血飛沫に、イサムの怒りが限界を超えて一瞬理性が飛ぶ。走り出しながら銃を懐に収めると、空間からフレイムタンを取り出して思いっきり魔物の胸に突き刺す。


『ギャウウウウウウ!』

「焼き殺してやる!」


 突き刺さったエリュオンの大剣は、そのまま火柱を上げて魔物を包み込む。その衝撃で魔物が掴んでいた上半身だけになった町人は、投げ出され地面へと叩きつけられる。


「大丈夫か!?」

「……う…う…これで…やっと……し……」


 痩せ細ったミウ族の女性は、駆け寄ったイサムへと視線を合わせる事無く何処かを見つめてゆっくりと息を引き取った。イサムは、目を見開いたまま命を終えたばかりの女性の目を掌で閉ざして語りかける。


「大丈夫だ。必ず安心して生きられる様にしてやるからな! それまではゆっくり寝ててくれ!」


 燃え盛る炎に焦がされない様に場所を少し移動させて、優しく隅にあったベッドに寝かせる。そこへエリュオンから念話が届く。


『イサム! 人には使うなって言って、貴方が燃やしてるじゃない!』

「ああ! 悪い! ちょっとムカつく奴が居たもんだから…」

『さっさとユキ呼んで鎮火させないと燃え広がるわよ!』

「わかってるよ! ユキ呼ぶから念話切るぞ!」

『あっちょっと! まったく…』


 更に何か言いたげなエリュオンの念話を切りユキを呼び出す。


「ユキ! 出てきてくれ!」

『……』

「おーい! ユキ!」


 いつもなら直ぐに出てくる精霊ユキが一向に現れる気配がない。


「変だな? メニューで直接呼び出すか」

「どうしました? ユキは出て来ないんですか?」


 イサムはメニューを開き、精霊ユキをタップする。すると現れたのはユキではなく、冷凍メメルメーを回収しに行った時にイサムにキスをした小さなユキ【ミニユキ】が現れる。ただあの時は親指くらいだったが、今回は十センチ程の大きさでユキと同じ着物を着ている。


「わぁ可愛いですねー!」

「ん? お前はミニユキだな。ユキはどうしたんだ?」


 ディフォルメされたその小さな精霊は、ディアナの言葉に頬を赤らめて照れる。だがイサムの方へ直ぐに向きなおすと顔を振り出てこれない事を身振り手振りで知らせてくれる。


「今は寝てて起きないのか? だから代わりにお前が強力してくれる?」


 イサムが尋ねると、ミニユキは頭を頷く様に上下に動かして小さな手を叩く。そして大きく息を吸い込むと、燃え広がろうとしている炎に冷たい冷気を吐き出した。それは本体のユキに到底及ぶ事の無いが、やはり精霊ユキの分身と言うべきだろう、小さな体からは想像も付かないほどの冷気で瞬く間に炎は凍りつき、燃え広がる事も無く難なく鎮火される。


「小さいのに凄いんだなー! ミニユキを侮っていた」

「そうですねー! 可愛いし!」


 得意げに胸を張り、両手を腰に当てて踏ん反り返る姿がまた可愛らしい。


「そう言えば、マックスのミサイルと防ぐ時も何処かぼんやりしてたな。もしかしたら本体のユキは、体調が悪いのか?」


 ミニユキにイサムは尋ねるが、小さな頭を左右に振って違うと伝える。


「そうか…なら出てこない理由があるんだろう。まぁ今は町の把握が最優先だな、行こうかディアナ」

「はい!」

「ミニユキはあの女性が崩れた家に潰されない様にしててくれ、後で蘇生魔法を掛けるから」


 頷くミニユキが女性を護るように半球状の氷の障壁を張る。それを確認したイサム達は、燃え崩れた家の中からようやく外に出る。だがそこには、待ち伏せしていたのだろう複数の魔物達が一斉に飛び掛ってきた。


「はっ! 悪いな知ってたよ!」


 既に銃を構えていたイサムとディアナの武器から、狙い澄ましたように撃ちだされた弾と矢が魔物達に当たり崩れ落ちる。そして地に伏せた瞬間に蘇生魔法を掛けて浄化させる。


『ギャウウウウウウ!』

「いい判断だなディアナ! 躊躇なんかしてたらやられるだけだから、襲い掛かる奴らに容赦するなよ!」

「はい! テテルの武器のお蔭で全然怖くありません!」

「そうか、じゃぁ帰ったらテテルにお礼を言わなきゃな」

「ふふっそうですね!」


 テントウムシの形をした武器を撫でながらディアナの顔に笑顔になる。イサムも彼女の頭をポンポンと優しく叩くと町の中央へと再び進み始めた。

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