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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
呪われた多尾族と嘆きのセイレン
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 荒れた荒野を更に荒らしたマックスの車内に揺られ、二時間程移動したイサム達一行はミウ族の町【ガルス】が一望できる丘の上に居た。マックスから降り目を細めながら遠くを眺めるような仕草で町を見つめているが、徐々に日も落ち始めているのでハッキリとは見る事は出来ない。


「あれがガルスだよな、日も落ちてきたのに明かりが無いのは完全に怪しすぎるな…それに、行った事の無い場所だからマップも表示されないし、リア族の巣同様に間違いなく警戒した方が良いな」


 町を見下ろしながらマップを拡大したり操作をするが、やはり未確認の町は表示される事なく灰色で塗り潰されている。


「そうね、そう言えば今までミウ族って見た事が無いけど、ネルタクとタチュラはある?」


 珍しくイサムの肩の上に居るタチュラにも尋ねる。


「闇の中で居たような居なかったような気がするけど…覚えてないや」

「昔の記憶ですが、一応ありますわ。ただ…言わば食料としてですが…」


 エリュオンはネルタクの答えを聞き、次にタチュラに顔を向ける。エリュオンの問い掛けに、嫌がる事無く答えるのは、互いに仲間としての意識が高くなってきたのだろうかと思い、イサムは少しだけ安心した。


「…まぁ…それは種族としてしょうがないわ。それで、他種族とどう違うの?」

「そうですわね…獣人族と同様に明確ではないですが二つの形がありますわ。一つは人に近い顔を持ち二本の足で地に立ち手で物を掴む事が出来る人型タイプ。もう一つは魚に近い形で、足は無く海を泳ぐのに適した尾ひれを持つ魚型タイプがいますわ。ただ逆に上半身が魚で下半身が人と言う者も居るようですわね」


 ここぞとばかりに知識を披露するタチュラだが、あくまで食した事のある記憶なので、姿以外は良く分からなかった。そこに小さく手を上げたディアナがオドオドと声を発する。


「あのぅ…いっ一応本で読んだ事があります…」

「そうだったな、フェアリーの国の元女王だったら、やっぱり勉強とかもしてるはずだよな!」

「もっ元女王と言わないで下さい…好きでなった訳ではないですし、ティタニア様の激怒したあの顔を思い出します…」


 ブルッと身震いをしたディアナが深呼吸をして話を続ける。


「あっあくまで本の中の知識でしかないので見たことは私も無いですが、元々は獣人族ビーストやシム族と同じ様に古代種達がその力を得る為に、同化の技術を使って生まれた種族だと書いてありました。それにより水中での生活を可能にしたのですが、代償に水上や自身の周り等に水がある場所以外では生きていけなくなったそうです」

「なるほどな。魚と同じ能力を得た代わりに、水無しでは生きられない呪いみたいなものも付いてきたわけだ」

「そうです。ですが彼らは、大地に根を張る生き方よりも海への憧れを求めて旅立ったというわけです」

「なるほどなぁ、七つの種族に分かれた理由って新しい世界を求めてなのかも知れないなぁ」


 感慨深い気持ちになるイサムの言葉に一同も頷く。


「とりあえず時間は惜しいが、明かりの無い怪しい町にこのまま入るのは危険だろう。マックスの中で朝まで待とうか」

「そうしましょう、念の為に妾の子を使って町の中の様子を伺ってからでも遅くはありませんわ」


 タチュラはイサムの肩の上に立ち上がり袖を振る、すると小さな白い蜘蛛達が次々に袖の中から現れる。


「その小さいのって本当にタチュラの子供なの?」

「ふふふ、そう思いますか?」

「そう思うから聞いてるんじゃない」

「残念ですが、この子達は妾の分身であって本当の子ではありません。本当の子作りはご主人様とって決めておりますわ」


 はぁっと溜息をつき、ぐいっとイサムの肩へ近づいたエリュオンはそのままタチュラの首根っこを掴んで、そのままマックスの荷台の方へ入っていった。


「おっ俺達も戻ろうか…」

「そっそうですね…」


エリュオンの後を追うようにマックスの中へと戻ったイサム達は、先程あの二人に感じた安心をそっと心の奥にしまって恒例の不毛な争いを眺めながら、外からは想像もつかない広い空間の真ん中に置かれているテーブルに座り簡単な食事を済ます。すると喧嘩中のタチュラの動きが急に止まりイサムへと顔を向ける。


「ご主人様、やはり町に入らないで正解でしたわ。魔物の群れが溢れています、ですがおかしいですわね…襲われている者とそうでない者が居るようです」

「はぁ…やっぱり魔物が居るわな…それでその群れは、闇に落ちたリア族なのか?」


 両目を瞑り、町に潜入させた分身の蜘蛛達を視界を共有させているタチュラが首を振る。


「いえ違います、こいつらは別の闇の魔物ですわ。ヌイ族に似た黒い獣でございます」

「犬みたいな魔物か…それと、襲われていない人達が居るってのは明らかに区別してるって事か?」

「そうですわね…襲われてない者達は、精気が無いというか死ぬ事を諦めている感じがします」


 目を開きフワッと体を小さくさせながらイサムの肩に乗ると、舌打ちするエリュオンを無視してタチュラは話を続けた。


「これは妾の勘でしかないのですが…死ぬ事を諦めている者は襲わずに、生きる事を願う者のみを殺している様に見受けられます。殺せるのに殺さない事で恐怖を与えているのでしょうか…?」


 そこにネルタクが何か思い出したように話に入る。


「すみません、話の途中ですが良いですか?」

「ん? どうしたネルタク?」

「はい、その獣タイプの魔物で思い出したんです。確か使役してる奴が闇の中に居た気がします」

「本当なのネルタク? そんな奴居たかしら…」


 椅子に座るネルタクの後ろに来たエリュオンも自身の記憶を探るが、見た事も聞いた事も無い。


「うん。直接会った事は無いけど、【スキラ】って名前だったはずだよ。闇の中でも残酷で血を好むって言われてた…」

「全然知らないわ…」

「エリュオンは闇に染まってた訳じゃないし、体が子供のまま記憶まで閉じてしまってたんでしょ? それに周りの話なんかも聞く耳持たなかっただろうし」


 それを聞いてイサムが頷く。エリュオンは言い返せずに悔しいのか、ネルタクを羽交い絞めしてそのまま持ち上げると左右にブンブンと振り回す。それはまるで仲の良い姉妹の様で、嬉しそうな顔でネルタクも素直に振り回せれている。

 その様子を見ながらも曇り顔でタチュラが話を戻す。


「ですが…町を徘徊する奴ら以外は見当たらないですわ」

「まぁ突然現れたりするからな、見当たらないからと言っても近くに居ないと考えない方が良いだろう」

「そうね、だけどどうするの?」

「取り合えずは夜明けを待とう、どのみち人が襲われてるのをほっといて先に進める訳が無い」

「僕も賛成です。闇として人を殺めてきた事を償えるとは思えませんが、助けられる命は助けたいです!」


 エリュオンに抱きかかえられながら、両手で握り拳を作りワナワナと震わせている。


「そうだな。マックス! 夜明けまで見張りを頼むな」

『任せといてー!』


 マックスに見張りを頼むと室内に声のみが響く、そのままそれぞれが仮眠を取り夜明けを待つ。そして数時間が経ち、各々が自然に目を覚まし準備を終わらせた者から外に出てくる。

 夜が明け見晴らしが良くなった丘の上から町を見下ろしているイサムにエリュオンが話しかける。


「おはようイサム。早いのね、ちゃんと眠れたの?」

「ああ、おはよう。勿論だ…っと言いたいけど流石に少しだけだな。それとエリュオン、今回あの町で戦う時は俺の剣を使ってくれ、フレイムタンじゃ余計な被害が出そうだ」


 振るう度に炎を発動するフレイムタンは、覚醒した彼女が使う事で更に威力を増している。そんな武器を狭い町中で使えば、どうなるかは一目瞭然であり戦うにしても被害を抑えたいとイサムは考えた。

 見下ろすミウ族の町ガルスは、中央に大きな水路がありそれに沿って区画された狭い路地に民家が密集しており木造の家も多く見える。それ程大きな町だと感じないのは、その先に見える巨大な城が圧倒的な存在感で佇んでいるからだろう。


「距離は遠いが城の見えるあの場所が【バレンルーガ】だろうな」


 水路の先に目をやると町の切れ目に河がありその水平線の先に城が見える。


「ガルスに魔物が居てバレンルーガに居ないって事は無いでしょうね。でも本当に家の間隔が狭い町ね…分かったわ、今回はイサムの剣を借りるわね」


 イサムはボックスから剣を取り出しエリュオンに手渡す。少し離れて軽く素振りをして感触を確かめると、フレイムタンが収納してある自身のボックスに仮で収納した。

 そしてディアナとタチュラがマックスから降りてくると、その後ろから眠たそうにネルタクが大きなあくびをしながら出てくる。


「全員揃ったな、ネルタクは眠たそうだが大丈夫か?」

「うん、大丈夫です。それでどう攻めます?」

「タチュラ、魔物の様子はどうなの?」

「相変わらず徘徊してますわ、町に入った瞬間に襲い掛かって来るのは間違い無さそうですわね」


 イサムは頷きそのままマックスに近付き予定を伝える。


「マックス、俺らはこれからガルスに入る。お前はどうするんだ? あの狭い町中じゃその体じゃ無理だろう?」

『そうだねー、これから他の二台と落ち合って荒野のリア族達を殲滅したらまた連絡するよー! バレンルーガから先の船になれって指示も、ルルルガールから受けてるからね!』

「そうだったな…イシュナたちが居る場所はバレンルーガの先だった。それで船にもなれるのか?」

『ノープロブレム! 他の二台と合体する事で可能になるんだよ! 凄いだろう!』

「凄いというか、それを造れるルルルが凄いな…分かった。じゃぁ行って来る」

『了解ー! マックスも移動するよー!』


 ゆっくりと移動を開始するマックスを見送るとイサム達は各自武器を取り出した。


「あっディアナは武器があるのか? マックスの中に忘れたとか無いよな?」

「ふふっ大丈夫です。ルルルさんの所から直接武器を呼ぶ事は出来ませんでしたが、テテルに呼び出してもらってそれを借りる事は出来るようです」


 テテルは目の前に小さく展開させた魔法陣に片方の腕を肘まで入れそのまま引き出す、すると腕にしがみ付くように大きなテントウムシが現れた。


「テテルお気に入りの【ナナホシテントウ】です。可愛いですね」

「まぁ…そうだな…うん、良い武器だな」


 テイルガーデンでテテルが使用したのを見ているイサムは、その威力から可愛いと言うよりも強力な武器の印象が強い。もしかしたら他にも色々と武器を借りて来ているかもしれないと頭によぎる。


「他にも武器を借りてるのか?」

「もちろんです! お見せしますか?」

「あっいや! 良いよ、それよりもそろそろ行こうか」


 目を輝かすディアナに少し押され気味になるイサムだが、気持ちを切り替えて仲間達に話しかける。


「聞いてくれ、死んだ人達は必ず生き返らせる。だが勢い余って町の人達を殺すなよ、それと分散して危ない時には俺の場所に飛んでくれ。コアを書き換える奴が居る以上、お前達を闇に引き込もうとするはずだ」

「引き込まれてもまた助けてくれるんでしょ?」

「それはそうだが…奴らも馬鹿じゃないだろ? 気を付けるのに越した事はないさ」

「わかったわ」

「僕も分かりました」

「妾も承知しました」

「私も分かりました」


 各自が頷き気持ちを合わせ、そして行動を開始する。丘を下りそのままミウ族の町ガルスの入り口へと向い始めた。

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