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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
リア族の地下帝国と嗜好の食材
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番外編 続々 ルルルと武器開発室

 ロロの大迷宮の中心から数十キロ離れた場所に、とある塔が建っている。だが、地上から見上げる程大きなその塔には入り口も、新鮮な空気を入れ替える窓すらない。そんな人が踏み入る事の出来無い塔の中で、小さな三つの影が右往左往と所狭しと動き回り誰ともなく言葉が零れ出し始めた。


「星の覚醒なんて本当に出来るの?」


 その声に他の二人が少し煩わしくも答える。


「ロロ様からルルル様に指示があった以上は出来るんじゃないの?」

「そうよ! 私達は言われた通り動けばいいの! 部品は真兎が送ってくれてるんでしょ?」


 二つのお団子の髪を大きく揺らし、ロロルーシェのコアであり武器開発室を担当している一人、リンが妹のシャンに言葉を投げる。


「新しく開発した転送装置を使って、真兎から送られてきた【捨てられた衛星】? とか言う部品の全ては届いているけど…こんなんで本当に空の上に行けるの?」

「そんな事知らないよ、でもルルル様が組み立ててるんだから行けるんじゃない? えーと、空の上にはロマンがある? とか言ってたけど…全く意味が分からなかったよ」


 会話しながらも手と足を止める事無く動き回るその光景を、遠くから見つめる一人の少女がいた。大きな四角い荷物を両手に抱えてヨロヨロと三人に近付いてくる。


「よっこらしょっと!」


 ドスンと言う大きな音でようやく気が付いた三人が振り向く、そしてその先にいた少女を見た瞬間に三人は、眉間にしわを寄せ口をへの字に曲げる。


「げぇ何でアンタが居るのよ【ナテラ】!」


 口火を切ったのは長女のチャンだった、その傍に居る二人もそれに合わせて首を縦に振る。


「ふんっ! あんたらがダラダラしてるから、ルルル様が加勢してくれって頼んできたのよ!」


 狐の様な耳と紫色の髪を左右に三つ編みでまとめ、白いフリルの付いた紫のワンピースとブーツ、そして大きな黒縁メガネの女の子が腰に両手を回して仁王立ちしている。

 チャン、リン、シャンの三人がその言葉に腹を立てないはずは無く、その六つの瞳には見る見る怒りの炎が燃え上がり始める。


「ルルル様がそんな事言うはず無いじゃない! 何さらりと嘘ついてるの! 外装は完成してるのよ! アンタが居なくても十分間に合うはず!」

「そうそう!」

「第一アンタ自分の仕事どうしたのよ!」


 三人がナテラを言葉で攻め立てるが、全く動じない彼女はメガネの縁をクイッと片手で上げると溜息をつく。


「はぁ…自分の仕事してたら来れるわけないでしょ。あんた等と違って、私が居なくても何でも出来る様に躾けてるのよ。例えばこういう時に、あんた達に借りが作れるようにね!」


 ロロの大迷宮十階にある部署に、全てのオートマトンを管理しメンテナンスする部屋がある、そこを一任されているナテラは、ルルルより少し後にコアとなった言わば古参である。そのナテラが少しアゴを上に向けて、まるで見下す様に中指を三人に突き出す。


「ぐっ! 最悪だわ! オートマトンの風上にも置けない女ね!」

「ふん! それ程ルルル様に迷惑掛けてるってのに気がつく事ね!」

「言わせておけば! リン! シャン! ルルル様が来る前にこいつを外に放り出すわよ!」


 チャンの一声に頷く二人は、懐から鎖分銅を少しだけ見せいつでも投げれる体勢に入る。ナテラも長く大きな尻尾をピンと上に立上げ警戒していると、何処からとも無く声が聞こえてくる。


「あーんーたーたーちー!」


 その声を聞いた瞬間に三人の動きが固まった様に止まり、次の瞬間に背筋を伸ばして直立し目だけを動かし声の主を探す。


「るっルルル様! いらしてたんですね!」

「計画は順調に進んでおります!」

「はっはい! ナテラを追い出そうなどしておりません!」


 声の主の場所は確認出来ないが、シャンが滑らせたその口を両手で塞ぎ必死に言い訳を考えている。


「ルルル様は優しすぎるわ。私の部下なんて、言い訳一つ言おうものなら、即座に【コア収容所】送りですね」


 コア収容所とは、メンテナンス室から程近い場所にある不純物が溜まったコアを浄化する部屋である。以前闇に汚染されたカルがここに収容され、見違えるように真面目になったが、現在は行方不明として処理されている。


「それは手厳しいわね、でも…そうね、一人ぐらい入れてみようかしら…?」


 優しくも冷たい声の聞こえる場所、それはナテラが運んできた大きな箱だった。良く見ると細く横長な隙間が空いており、そこから鋭い目がジロリと三人を伺っていた。


「ひっ! そっそれだけは!」

「私達は言い訳なんてしていません!」

「あっあそこはオートマトンにとって死よりも恐ろしい場所だと聞いております!」


 三人は身を震わせ体を寄せている。


「ふふっ…冗談よ。そんな場所に入れる時間も人も足りないわ、分かったらさっさと作業を再開しなさい!」

『はい!』


 姿は見せないが、箱の中から伝わる鋭い上司の視線に三人は一斉に返事をして即座に作業に戻っていく。


「流石はルルル様、仕事は出来るのに直ぐに手を抜こうとする三人を、真面目にさせるには貴方以外無理ですね」

「それは買い被りよ。あの子達を部下にしたのは成り行きだったし、コアである以上はロロ様に尽くすのが当然なのだから」

「それは分かっております。ですが本当に宜しいのですか? 本当の事を伝えなくて…」


 ナテラは、現在組上げ作業に入っている巨大な筒状の代物を見上げて尋ねる。


「良いのよ。どの道これはロロ様が私だけに与えた大切な任務…あの子達には不可能よ。愛があって始めて乗り越えられる試錬なのだから…」

「…そうですね…確かに、空の上なんて誰も行った事など無いですものね…何が起こるか想像もつきません」

「…たとえ命に終わりの無いコアだとしても、死ぬのは怖いわ。それが、未知の領域で本当に帰還出来るか分からないなら尚更よ」


 表情が見えなくても、働く場所が違っても、ルルルと共にロロルーシェのコアとして長年苦楽を共にしたナテラには、その気持ちが痛いほどに分かっていた。



「ルルル、お前に頼みがある」


 イサムがナイトメアに干渉し、イシュナの夢の中に閉じ込められていた時、ロロルーシェは自室で座り心地が良さそうな椅子に深く座り、ルルルを呼び闇の王との決戦に向けこれからの事を思案していた。


「頼みだなんて勿体無いお言葉! 如何様にも指示して下されば必ず結果を出して御覧にいれます!」

「ふふっ…お前は昔から変わらないな。だが今回ばかりは少しとは言えない程に厄介かもしれん」


 その言葉を聞いてもルルルは首を横に振り、そして目を輝かせる言葉を返す。


「私は貴方様のコアです。命などとうに尽きて魔素の海へと数回還っても良い程の時間を過ごし、これ程長い時間をロロ様と共有出来ただけでも幸せで御座います! ですからどんなに無理難題な事でも言い付けて下さい!」


 強い言葉とは裏腹に、部屋に来る時に準備をしておいた紅茶をカップにゆっくりと注ぎロロルーシェに丁寧に差し出すルルル。


「…星の反応が無い」

「なっ! 本当ですか!」


 驚きのあまりにティーポットを落としそうになったが、ぎりぎりの所で持ち堪えてテーブルへ置く。


「ああ、だが余りにも長い年月を掛けた為なのか全く反応が無い」

「私の記憶が正しければ、あの星は魔素の塊で間違いないですか?」

「そうだ。私がこの大陸に来た時に、ここから遥か上空の世界…宇宙と呼ばれる場所から、魔素を集める為に放置した魔法。掌ほどの小さな魔素収集玉が、一万年かけて上空に昼夜問わず輝く星となったのだ」

「巨大になりすぎて反応が鈍いのでしょうか…?」


 そこでルルルはハッと気が付きロロルーシェの顔を真っ直ぐに見る。


「まさかロロ様! 直接行けと仰っているのですか!?」

「そのまさかだ」


 その言葉を聞きルルルは自分自身を抱きしめてガクガクと震えだした。だがロロルーシェはそれを見て、彼女は恐怖で震え上がっていないと気が付いていた。


「数居るコアの中で、それ程の大役を私などに与えて下さるなんて! 危なく先日替えたばかりのヒューズが飛ぶ所でした!」


 ロロルーシェは右手の人差し指を上に向けて、左手は何かを引き寄せるような仕草をする。するとルルルがフワリと浮き上がり、そのまま椅子に座らされる。


「ろっロロ様何を!」

「…いいか、恐らく今回の戦いが今までで最も激しい戦いになるだろう。だからこそ、星の魔素を使えるようにしておきたい。ルルル、お前の力を見込んでの事だ。頼むぞ」


 両手でルルルの頬っぺたを少し押さえる様にしながら、ロロルーシェは真っ直ぐと顔を上げさせる。生身であれば、その近すぎる距離に高揚し顔が赤くなったであろう我が身を少しだけ後悔したが、それを秤にかけてもお釣が来るほどの出来事に思わず口を尖らせてしまう。


「ふぁっふぁい!」


 勿論それ以上の事などあるはずは無いが、四千年も一緒にいればと淡い期待を持ってしまう。その恥ずかしさのあまり椅子から立ち上がると、部下の三人が見る事など無い程ビシッと背筋を伸ばしたルルルはロロルーシェに深々と頭を下げる。



 ホゥっと箱の中から吐息が聞こえるのを横目でチラッとみたナテラだったが、既にこの場所には居ないルルルを羨んでも意味は無いと視線を作業中の三人に戻す。


「無事に帰ってきて下さいね」

「勿論よ、じゃないとロロ様を生涯支えるという私の夢が潰えてしまうわ」

「いいえ、ルルル様の夢では無く私達の夢です」

「あら、それは聞き捨てなら無いわね」


 箱の中にルルルは居ない。既に筒状の巨大な塊の中で、監視モニター越しに三人を見ていた。箱の中に入れた通信機とルルルに似せた人形で三人を怠けさせない様にと試してみたが、効果は絶大だったと頷きながら、彼女は空の上へと向うのをただ只管に待ち続けていた。

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