表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
リア族の地下帝国と嗜好の食材
105/125

92

 ダジュカンが生み出した闇の渦の中へ、躊躇なく入ったイサムが飛ばされた場所、そこは平らな土の床以外何も無い丸い広場だった。数千人は入る事ができるだろうその空間に見上げる空は無く、ごつごつとした岩が天井を覆い隠して、所々突起している細長い岩がうっすらと光っている。


「巣の中だと考えて間違いないな…だけど、やけに出入口が多いな…」


 更に闇の渦からクルタナが出てきて周りを見渡す。イサムは現れた彼女の見て、虫から人の顔になったその表情の変化にすぐに気がついた。


「クルタナ、ここがリア族の巣で間違いないだろ?」

「ああ…そうじゃ…だがこの場所は私が一番嫌いじゃった場所の様じゃな…」


 クルタナの後にサヤ、そしてガタとニトが現れて同じく目を見開きながら声を漏らす。


「ちっ! まさかこの場所に出るなんて!」

「肉千切りの間…そんな…」

「でも、誰もいませんね…不気味なくらいに…」


 広場の中央に現れたイサム達だが、遠くに見える壁には広場を囲むように出入口が一周している。そしてネルタクが渦から現れた時に、静かだったその広場へと近づく呻き声と力強い足音が聞こえくる。


「なっ何? イサムさんこの場所は?」

「まぁ普通に考えて、そんなに甘くは無いか…早くエリュオンを助けに行かないと、まずいな…」


 イサムはマップを確認しながら、少し焦りの声が出る。現在位置の丸い大きな空間から、無数に通路が広がりそれが何層にも繋がっている。


「この場所は肉千切りの間と呼んでいる…育てた活きの良い餌達を、多くのリア族が弄んで食う部屋じゃ」

「酷い…」


 顔をしかめるネルタクの言葉の後、一つの出入口からゆっくりと真っ黒い顔と大きな体のリア族が現れた。明らかに違うのは頭が二つ左右に付いており、体同士が背中でくっ付いた奇怪な形をしている。


「お出ましだ」


 マップに表示される赤い敵のマーク、そしてそれを皮切りに次々と敵が表示されていく。


「全ての出入口から敵の反応があるぞ!」

「何じゃこいつらは? みんな魔物になってしまったのか!」


 数え切れない程の出入口から、ゆっくりと現れる魔物達。リア族や飼育されていた人達だろう顔が無数にある者や、最早元の原形をとどめていない者達まで無数にいる。


『グァウグァァァァァ!』

「ひっ!」


 突如上げる魔物の叫び声を聞き、まるで呼応するかの様に他の魔物達も叫び出す。


「ネルタク、怖ければ戻ってもいいぞ?」

「冗談言わないで下さい。クルタナがサヤを家族と言ってたけど、僕にとってエリュオンは家族です。死んでも助けます」

「その意気だ、ユキにもサポートさせるから思いっきり暴れてくれ」

「家族…良い言葉じゃな」

「はい!」


 ネルタクは大きく頷き、空間からアイスブランドを取り出して構える。サヤは腰の剣を抜き、クルタナは自身の周りに人の頭ほどの岩石を無数に作りそれを宙に浮かせている。ガタとニトは小太刀を逆手に握り構えながらも、湧き出る魔物達を悲しい顔で見つめている。

 イサムはユキを呼び出して同じく戦闘に参加させる。


「ユキ、ネルタク達のサポートを頼む、俺は連れ去られたエリュオンの現在位置を見つける」

『かしこまりました。しかし、かなりの数が居ますね…』

「クルタナ達には悪いが、魔物に手加減して仲間を失くしたくない」

「分かっている。情けなど無用じゃ! いや…浄化させる事がせめてもの情けじゃな!」

「そうだな…みんな俺の前に武器を出してくれ、少し武器には負担を掛けるかも知れないが、蘇生魔法を付加しよう」


 イサムの言葉に各々が武器を近づける、クルタナは魔導士タイプらしく宙に浮かべた無数の岩を一つにまとめて傍へと寄せる。


「クルタナが浮かせている岩石は、豆粒位で飛ばせるならその方がより多くの魔物を仕留められる筈だ」

「愚問じゃな。お主の付加魔法、ありがたく使わせて貰おう!」


 そう言い放つとクルタナは、宙に浮かせた岩を狙いを定めた魔物へと撃ち出した。その飛礫は音速の速さで魔物の体を穿ち、その後ろの魔物達をも貫通する。


『ギャウギャァァァァ………』


 撃ち抜かれた魔物達は断末魔を上げて光の粒へと変わる。それが合図となり、仲間達も一斉に飛び出した。イサムはダジュカンと接触した時からメニューで時間を確認していた、根拠は無いがエリュオンに何かしようと企んでいる時間は、一時間と言っていたが嘘ではないだろう。闇の渦へと突入してまだ数分しか経過していないが、広大な巣の広さに焦りが増す。


「あのフードの男はノイズよりも危険な気がする……急がないと…」


 敵だらけの入り組んだ巣を数十層調べていると、ようやくイサムの手が止まる。そして、その場所へ自動で案内出来る様に即座に設定した。


「ゲーム時代の機能が使えて良かった…よし! 一先ずこのフロアの敵を一掃しよう!」


 イサムは蘇生魔法をフロア全体に広げ発動させる、すると魔物と化した者達は蘇る事無く光の粒になり浄化されていく。

 次々に現れる敵を一心不乱に倒していた仲間達もイサムの下へ戻ってくる。


「凄い魔法じゃな…あの数が一瞬で消えるとは…」

「本当ですね……でも、魔物達…リア族や他の種族の人達もこれで救われますね」

「いやまだだ! 数が桁違いに多い! ユキ、俺が指示した出入口以外を全て氷で塞げ!」

『はい! 畏まりました!』


 イサムは銃を抜き、一つの出入口に向って発砲する。ユキはそれを確認すると、次々とフロアに入ってくる魔物達もろとも他の出入口を凍らしていく。

 それを確認する間も惜しんでイサムは走り出す、その後に仲間達も付いて行く。ナビゲーションを頼りに道を間違える事無く敵を浄化しながら順調に進んでいたイサム達だったが、そのイサムが急に立ち止まる。


「はぁはぁ……少し休憩だ。魔法を使い過ぎてる様だな…」

『主様! 大丈夫ですか!? 私、一旦主様の中へとお戻り致しましょうか?』

「いや、ユキが今戻ると敵が増えて進み辛くなる。このまま魔物を倒しててくれ!」

『そう仰るなら…』


 心配そうなユキ達だが、イサムは手を振り魔物を倒せと指示をする。こちらに合わせてくれる訳も無い魔物達は次々と押し寄せ、ユキやクルタナの魔法やネルタクとサヤの剣が敵を切り裂く。

 イサムは息を切らし、座り込みながらその光景をぼんやりと眺めていた。


「はぁ…はぁ…エリュオン…待ってろよ……必ず…助けてやるからな…」


 その言葉とは裏腹に、イサムの意識が段々と遠くなっていく。そして眠る様にイサムは瞼が下がって気を失った。そしてその瞬間にユキの姿が消える。


「イサムさん! ユキ様が消えたという事は、気を失ったのですか!?」

「イサム! しっかりするのじゃ!」

「イサムさん大丈夫ですか!? 起きて下さい!」

「イサム様! お仲間を助けに行かねば! 眠っては駄目です!」

「そうですイサム様! 我らだけではこの数抑えきれませぬ!」


 魔物と応戦しながら必死にイサムへ声をかける仲間達だが、その声にイサムは反応すら出来ずその場に倒れている。そしてそのイサムは気を失いながら、暗闇の中に一人佇んでいた。


「あれ? 何してたんだっけ? それにここは何処だ?」


 見渡しても真っ暗闇で何も見えない、だが何かが居る気配がする。イサムは目を細めて周囲を見渡すと、その暗闇から何やら声が聞こえてきた。


『青年、いつまで気を失っているんだ?』

「ああ、今気を失っているのか…ならこれは夢の中って所だな」

『のんびりしてていいのか? お前の愛する仲間が消える事になるぞ?』


 何処から声がしているのかは分からないが、その暗闇に居る男の声はイサムに優しく話掛けてくる。


「愛する者、そうだ! エリュオンが捕まってるから助けに来たんだ!」

『蘇生魔法を完成させたのは良いが、まだ使い方が悪いな。それとコアの使い方もだ、私が使い方を教えてやろう』


 暗闇の男はそう言うと、イサムの頭の中に一瞬で蘇生魔法とコアの扱い方を教える。


「なっ! 何だこれ…! 使い方が頭に入って来る!」

『早く目を覚ませ青年、そんなんじゃロロルカを助ける事は出来ないぞ?』

「待ってくれ! あんたは!?」

『そのうちに会えるだろう…』


 その言葉を聞いてイサムはゆっくりと目が覚める。その目の先には仲間達が必死にイサムを庇いながら戦っていた。

 イサムはゆっくりと立ち上がると、空間からエリュオンの大剣フレイムタンを取り出して仲間達の間をすり抜けて突き出す。


 ゴォォォォォ!


 轟音が行く手を阻む魔物達が一瞬で消し炭へと姿を変える。その炎は消える事無く燃え続け、通路横から現れる魔物が出てくる瞬間に燃え上がる。


「イサムさん! 目が覚めたんですね! でも、エリュオンのフレイムタンをイサムさんが使えるなんて!」

「ああ、俺も良く分からないが、仲間達の武器は使われてない時には俺も使えるらしい」

「らしい? それはどう言う事じゃ? イサムも知らないのか?」

「気を失っている時に、謎の声が教えてくれたんだ」

「謎の声…なるほどな、まだまだ力が眠っているのかもしれないな」

「そうだな…さて、エリュオンの所まであと少しだ。急ごう!」


 燃え盛る火が消える事無くまるでエリュオンの元へと案内する様に道の先へと続いている。イサムは大剣の柄を握り締めて仲間達と共に走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ