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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
リア族の地下帝国と嗜好の食材
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 ノルとメルが自身のボックスから取り出した野外用の調理場を設置し終えると、洗濯干しを終えたテテルとマノイ、ディアナが切り分けられた下処理し終えたメメルメーの部位を次々と運んで来る。


「早く食べたいね!」

「うん!」


 テテルとディアナが 溢れる唾を飲み込む。その隣のテーブルでイサム達とロロルーシェはサヤの話を聞き、考えていた。


「それってやっぱり転生じゃないのか? でも真兎さんはコアじゃなくてAIだって言ってたよな?」

「ふむ…真兎の外装は人を複製したものだからな…イサムの世界に行った時に暮らしていた商店街という場所に、魚屋の前で毎日見かける老婆が居たのを覚えているか?」


 イサムは眉間にしわを寄せて、記憶を辿る。


「…あぁ確かに見た事がある、確か九十歳位だったと聞いた事がある。魚屋のおじさんといつも元気だなと話してたのを覚えているよ」

「そうだ。イサム達の魔素の少ない世界では、九十はもう老体として熟し死が迫りつつある年齢だ。そんなある日、私は姿を消して人を観察していた時に、その老婆が私の前で立ち止まって話しかけてきた事がある」

「えっ姿を消してたのに見えてたのか?」


 ロロルーシェは軽くうなずく、イサムは驚くが話を聞いて更に驚く。


「老婆は私の目を見て、こう言った」


『仏様、いずれ曾祖母とお会いする事があるかもしれません。誠に勝手なお願いではあると思いますが、もしお会いする時が御座いましたら、何卒助けて頂けないでしょうか?』


「その次の日にその老婆は急死したと聞き、私はその時丁度オートマトンの外装素材を探している所だったから、その老婆の細胞を少し貰い外装情報として真兎を作成したんだ」

「そうだったのか…でも、本人が九十歳なのに曾祖母の事を助けて? てことは…真兎さんはその人の若い時の姿で、その曾祖母のサヤといずれ出会う事が分かっていたって事か?」

「まぁそう考えるのが一番辻褄が合うだろう」

「俄かに信じる事が難しい話だよな……死期が迫りディオナの様に未来を予知したとして、サヤがこの世界に生まれる事が見えていたのか……?」


 その話を聞いたサヤがロロルーシェに尋ねる。


「あの……その老婆の名を聞いておりませんか?」

「名か……確かハルと言ったかな…」


 名を聞きサヤは大粒の涙を零し始める。


「ああ…ハルでしたか…あの子の事を覚えております…まだ幼かったあの子が、死ぬ時まで人の事を思う優しい人に成長していたなんて……曾祖母として誇りに思うわ…うっうっうっ……」

「私も良く分からぬが、サヤは生前の記憶があるらしいのじゃ。生まれ変わりじゃったかな?」

「生まれ変わりか……この世界には無いはずだが、イサム達の世界からこちらの世界に生まれる事は可能なのだろう……調べる方法は無いがな」

「それで、その何と言うか……人の養殖場みたいな場所で産まれたのか……クルタナと出会ったのは本当に奇跡だな」


 涙を拭いサヤは頷きながら答える。


「そうです、クルタナ様が救ってくれなければ私の生涯はあそこで終わっていたでしょう。感謝しても仕切れないほどです」

「それを言うな、私がサヤに救われた事も多いのだ。私達が出会ったのは奇跡では無く必然だったのじゃ」


 クルタナは器用に二本の指でサヤの頭を撫でる。そこに準備の終えノルが呼びに来る。


「メメルメーの焼く準備が出来ましたが、リア族のクルタナは生肉の方が良いのでしょうか?」

「どちらでも構わないが、生肉を始めに食べてみたい」

「では、移動をお願いします」


 イサムはテーブルと立ち上がるとミケットに話しかける。


「ミケット、悪いがマコチーを呼んできて貰えないか? メメルメーを食べる為にあれ程苦労したんだからな」

「えー…しょうがないにゃん…直ぐ行って来るにゃん!」


 ミケットは目を瞑り両手をパンと叩くと一瞬で姿が消える。


「え! 消えたぞ! まさかマコチーの場所に飛んだのか!?」

「そうらしいな、多尾族の固有スキルの様だが私も始めてみた。自分の匂いを付けている相手の場所へ瞬時に移動出来るらしい、まぁ長距離は無理そうだな」


 驚いたのも束の間で、すぐさまミケットがイサムの目の前に現れる。


「ただいまにゃん!」

「おわっ! 早すぎだろ! マコチー居たのか?」

「イサムの足元に居るにゃん」


 ミケットに言われ足元を見ると、タンクトップにトランクスで枕を抱きしめて寝ている。


「おい! まだ寝てるじゃないか! それなら伝言だけでも良かったのに……!」

「えーそれならそうと言って欲しいにゃん……」

「ぬぁ……? ここは何処だ?」


 急に別の場所が視界に映り見渡すと、その目の先にクルタナが見える。


「がぁ! リア族! たっ食べないでくれぇぇ!」


 マコチーは背の低い体を更に縮めてガクガクと震えている。


「おいマコチー寝ぼけるな、ここはロロルーシェの家だぞ」

「んぁ? おお! イサム! 無事だったのか! じゃぁこのリア族は……!」

「ジヴァ山でメメルメー達と一緒に冷凍保存されていたのを連れて来たんだ」

「連れて来たってお前……リア族は人食いの種族なんだぞ!」


 それを聞いたクルタナがマコチーに反論する。


「それは聞き捨てならんなドワーフ。私は今まで人以外を食って生きてきたんじゃ、お前を始めての食材にしてやろうか?」

「ひぃ! そっそれはすまなかった!」

「それとイサムと言ったか、聞きそびれたが何故私達は生きている? 死んだのではないのか?」

「ああ、死んでいた。クルタナとサヤはコアに命が保管されている」

「コア? 何じゃそれは?」

「私が作った命を保存する代物だ。イサム用に改良したが結果は見ての通り、人を生き返らせる効果がある」


 クルタナはサヤと顔をあわせて互いに命がある事を確認している。


「やはり夢ではないな……コアか……いや…世界は広いという事か、私もまだまだじゃな」

「それで、食材探しの冒険してたんだろ? さっきのマコチーの反応を見ていたら、リア族は行動しにくいんじゃないか?」

「イサムの言うとおりだ。だから普段は形態変化の魔法を使い、ヒューマンに近い姿へと変えていた。だが未完成の魔法だから、触れるとばれてしまうのが難点だったが」


 掌を合わせて広げると同時に頭と足元から青い魔法陣が現れてクルタナの体を上下から包んでいく。すると今まで蟻の様な姿だったクルタナが、髪から足先まで真っ白なヒューマンの様な女性に変わり、服装も白で統一した胸と腰周りを守る軽装の鎧を身にまとっている。


「へぇ凄いな! それにかなりの美人なんだな」

「はっ! だが触れれば直ぐに効果が無くなる。これでは意味が無い」


 クルタナが手を差し出し、イサムが触れると一瞬で元のリア族の姿へ戻る。その魔法を見ていたロロルーシェがクルタナに問いかけた。


「その魔法は誰が作ったとか聞いていないか?」

「大昔にシム族の魔法研究者が作ったとしか聞いてないが」

「そうか…その魔法はわざと未完成にしているのかもしれないぞ」

「ん? どうしてじゃ? 貴方には分かるのか?」

「ああ、ただ完成させてやってもいいが元の姿に戻れなくなる」


 元の姿に戻ったクルタナが驚いて二本の触覚がピンと張る。


「完成させられるのか! なら頼みたい!」

「そんなに簡単に決めて良いのか? これはシム族になる前の姿、古代種だった姿を古い記憶の中から呼び戻す魔法だ。二度とその姿には戻れないぞ?」

「かまわない! 母には悪いが、巣を出た時点で私は望んでいたんじゃ! サヤと色んな町を旅したい、それならばリア族の体より古代種を模したもの方が都合良い!」


 サヤの目にはまた涙が浮かぶ。


「クルタナ様……そこまで私の事を…」

「サヤよ、私はお前を家族や友の様に思っておる。なら姿も近くなりたいと考えるのもごく自然の事じゃ」

「ならば完成させてやろう。もう一度形態変化の魔法を発動してみてくれ」

「分かった!」


 クルタナは先程と同じ様に魔法を発動させると、そこにロロルーシェが別の赤い魔方陣を重ねた。すると、紫色に変化した魔方陣がクルタナを包む様に上下を繰り返し、一つに重なり合わさると彼女の中へと溶ける様に消えていった。そしてそこに居たのは先程変化して見せたヒューマンに近い姿だが、サヤが触れると蟻の姿へと変わる事無く形態を維持している。違うのは触角の様に二本長く前に出た髪だけだろうか。

 ノルが手鏡をクルタナに見せ、自身の姿を確認させる。


「ああ…! 私は今、心から感謝している! 私の夢! いやシム族の夢をこの様な形で実現出来る日がくるなんて! ううっ…何と言えば良いのか言葉も見つからない!」

「ああっ! クルタナ様! 本当に願いが叶い良かったですね! ガタとニトにも見せたかった!」

「ガタとニト? それってクルタナの傍に居た黒に赤い線が肩とか背中に入ったリア族か?」

「ご存知なのですか!?」

「いや、白いクルタナの傍に居たから目立っていただけなんだけど、ちょっと待ってくれ」


 イサムはボックスを開き、五万の死体名が表示されている中からソートで並び替えてガタとニトと書いてある二人の死体を取り出す。


「そうです……この二人です…クルタナ様の護衛であり、私を守ってくれていた人達……」

「死ぬ時まで私を守ってくれていたんだな…」

「そうか…良い奴らだったんだな。待っててくれ、今生き返らすから」

「え!? 今何と?」


 イサムはガタとニトと呼ばれる二人のリア族の死体に蘇生を掛ける。柔らかい光が包み込み、彼らはまるで夢でも見ていたかのように目を覚ます。


「あれ…ここはジヴァ山では無いな…」

「その様ですね……それにこの方々は…っ! クルタナ様!」

「ああ! お前達! お前達! お前達! ありがとう! イサムありがとう!」

「信じられない! うわぁぁぁん!」


 クルタナとサヤが感謝の言葉を告げながらガタとニトに抱き付く。二人はまだ何事かと思っている様だが、クルタナの変化に直ぐに気が付いた。


「クルタナ様! 触れられてもお姿が戻りませんぞ!?」

「本当ですね! 何故ですか!?」

「ふふっこの方のお蔭で、私は永遠にこの体を手に入れたのじゃ!」


 クルタナはロロルーシェに手を伸ばし何度も頷く。ガタとニトは器用に正座をして深々とロロルーシェに頭を下げた。


「誠に! 誠に有難う御座います! この御恩一生忘れる事は御座いません!」

「同じく! 心より感謝致します!」

「賢者殿! 何卒この二人にも先程の魔法をお願い致します! 欲深き事とは存じますが、この二人無しではさぞかし旅も味の無いものだと思うて下ります!」

「ふっ良いぞ、新しい魔法を使うのは気持ちが良いものだ」


 ロロルーシェはクルタナが二人に使用した形態変化の魔法に同じ様に魔法を重ねた。するとガタは短髪で屈強そうな体躯の二枚目の男に変わり、ニトは艶やかな顔立ちで髪を後ろに束ねた女性に変わる。やはり二人とも二本の長い髪の毛が触角の様に前に出ており、服は赤い線の入った忍び服の様な格好に変わっている。


「おお! 何と言う事だ! クルタナ様だけではなく、私共にもこの様な褒美をくれるとは!」

「ガタ……良かったですね……ううっ……」

「人前で泣くなニト! 護衛が恥ずかしいぞ!」


 そう言うガタも溜めた涙が零れない様に必死で堪えていた。そして、感動の再開を果たした四人も落ち着きを取り戻し、ようやくメメルメーの試食と称した食事が始まったのだった。

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