デス メディスン
この世には、たった一錠で死をもたらす薬があるらしい。
「やっぱりないな」
パソコンの画面を見ながら、溜め息を僕はついた。
いくら探してもどこに売っているのかわからない。
病気で末期の患者が安楽死する薬を飲んだニュースをテレビで観たが、僕のような健康体なやつには出してもらえそうにない。
「小学校の裏山に死ぬ薬が埋められてて、薬を探している人に会ったら、呪われるんだって」
「えー嫌だ怖い」
外から子供が騒ぐ声が聞こえる。
呪われたって構わない。
茉美への償いは足りない。パソコンを閉じ、部屋を出た。キッチンで夕飯の支度をしているお母さんに声をかける。
「これから友達に会ってくる。ご飯いらないから」
財布以外何も持たずに家を出た。
近いので、歩いて子供が言っていた裏山を目指す。
女子高生二人組が通りすぎた。
嫌でも他愛のない話し声が耳に入ってくる。
茉美は僕のせいで、高校生でなくなってしまった。
同じクラスで席が近く、お互い本好きというこで、すぐに仲良くなり、一緒に登下校もしていた。
いつもの帰り道のこと。
「こないだ話した初回限定生産本手に入って読んだんけど、面白かったよ」
楽しそうに話す茉美。
「今度、貸してもらっていい?」
「全然、いいよ。今、家近くだから、すぐ持ってくるね!」
急ぎ足で道路を渡ろとしたその時だった。
「危ない!」僕が叫ぶか否か、後方の車にぶつかった。前方不注意の車に。
病院に搬送され、しばらくすると診断結果を聞かされた。
もう彼女の足で歩くことができないと。
ショックだった。僕があんなことを言わなければ、と毎日自分を責めた。
そんなことを思っているうちに、裏山に着いた。
本当にこんな所にあるのだろうか。不安がよぎった。住宅が見えなくなり、周りは木が生い茂っている。
木の棒と手を使い、穴を掘る。
カッン。物に当たった。
「あった!」
瓶を取り出すと小さい錠剤がふたつ。それを躊躇うことなく口に入れた。
突然、ぐにゃりと景色が歪み意識を失った。
理由はわからないが病院にいる。
僕は記憶をなくしたらしい。どうして裏山で倒れていたのか思い出せない。
病室にはいつも通り車イスに乗った女の子がいて、毎日僕に話しかけてくる。名前は知らないけど、話しから推測すると、友達らしい。
今日もかと思いきや、手紙を手渡し、彼女は去って行く。
『事故は陵のせいじゃない。あたしの不注意なの。
気にしないで』
思い出した。
事故で自分を責めていたこと。
裏山で服薬自殺しようとしたこと。
なんて、酷いことをしようとしていたんだろう。
これからは茉美を支えていくんだ。
茉美に話そう。
今までこと、これからのこと。