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裏切り

作者: 頭山怛朗

 もう我慢できないと、おれは思った。もう同じ空間の空気を吸うことさえ我慢ならない。

 もう、殺すしかない。妻を殺すしかない。

  その後、本当に愛している女と結婚するのだ。


 妻が殺されたら、当然、その夫が疑われる。完璧なアリバイを作っておく必要がある。

 自宅から五十キロ離れた職場に泊り込みで仕事をすることがある。別に珍しいことではない。で、「今日は泊り込みで仕事をする。今日は帰らない」とみんなの前で妻に電話をする。みんなが帰宅した後、おれ警備会社に「今日は泊り込みで仕事だ」と電話をし、自宅に向かう。ただし女の車で、だ。二・三時間毎に警備員に巡回する(電話をしておけば建物内は入らない)から、おれの車が駐車場に一晩中ある必要がある。

 女が“万が一のため目だし帽を被った方がいい”とアドバイスしてくれたので、それに従うことした。


「夜中に玄関が開く音がしたのでゴルフバックからクラブを持ってベッドの陰に潜んでいると、男が寝室に入ってきた。男は奥さんが寝ていると思い込みベッドに馬乗りになったので、奥さんはクラブで夢中で男を殴った。では奥さん、目だし帽を取りますので、一応、知り合いでないかどうかを確認していてください」と、中年の制服警官が言った。

 女がうなずいた。

 次の瞬間、女は悲鳴を上げた。「あなた、あなた! どうして? 」


 こうしておれは死んだ。

 職場のみんなは妻の証言のとおり、おれが“泊り込みで仕事をする”と電話していたと言った。

 警察は当然、“おれが妻殺しを企んだけれど逆に妻に殺された”という結論に達した。

 その通りだ。弁解の余地はない。妻は正当防衛で何の罪にもならなかった。夫に裏切られた“悲劇の妻”として世間の同情をかい、おれは“ドジな男”になり笑い者になった。

 だが、不思議なのはおれが乗って帰ってきた女の、おれが愛した女の車がいつの間にかおれの車に変わっていることだ。



 それから数ヵ月後、おれの妻はベッドにいた。そこはおれが残した家や貯金・生命保険で買った海が見える家だった。


 妻の横にはおれが愛した女がいた。


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