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復活する双竜

 晴臣は、最後に残った狼に向かってナイフを振り下ろす。

 狼は爆発を発生させて爆風で防御するが、その一撃の全てを防ぎきれない。着実に傷を増やしていく。

(確かにダメージは通っちゃいるが、しかし何にせよ防御が巧すぎる)

 それこそまるで、人間の技術のように。狼は晴臣の攻撃をいなしていく。

「けど……」

 攻撃に転じた狼が、晴臣の直下から爆発を起こす。しかしそれも、晴臣の祝福の前では意味が無い。

「もう、見切ったぜ」

 爆風は相殺される。振われるナイフ。今までよりも遥かに研ぎ澄まされた一撃が狼の首を掻く。狼の首が飛んだ。


「……終わった」

 晴臣はその場に座り込んだ。1時間以上も狼たちの注意を惹いていたのだ。疲労の限界だった。

「それにしても、さっきの狙撃は何だったんだ」

 晴臣は、先ほどスコープの反射が見えたビルを見る。しかしもう、その反射は見えない。よっこらせ、と立ち上がる。そろそろ太陽たちがやってきて、事情やらを説明してくれるだろう。最後の一匹が残っていたから案外、それを倒すために大急ぎでやって来るかもしれない。

 体を翻す。その時。


 狼たちが掘っていた穴から、爆音が轟いた。


「馬鹿な!?」

 振り返る。そこに居たのは、巨大な獅子。青白くたてがみを燃やす、真白な獅子だった。

 獅子は威嚇も、咆哮もしない。ただ淡々と、そこに立っている。まるで、

「私程度では、敵でないと? そう言いたいのか、舐めやがって……」

 ナイフを握る両手に、また力を入れる。

「教えてやるよ、意志の強さが全てを支配するこの東京で」

 意思の紅蓮が、双眸より立ち上る。

「最強なのは、人間様だってことを!」

 放射状の境界線が輝きを放つ。

 排斥する正義の矢が征く。彼の者の正義を、貫き通すために。


◆◆◆


「嫌な予感って、どういう事よ? 蓮」

 走りながら蓮に声をかけるのは、美夜だ。ちなみに、太陽は走るのに精一杯で、話すことも出来そうにない。息を切らして、二人の後ろを大分遅いペースで走っている。

「考えても見ろ。あの狼どもに、あの基地を掘り進む意味があったか? そもそも、得てして動物は感が鋭いものだ。わざわざ自分たちが死ぬような真似を、何故する? 何故、地下水が出る場所ではなく、ウイルスが出る場所を掘る?」

 美夜は考える。確かにそれはおかしな話だ。蓮は走りながら続ける。

「考えられる可能性は取り敢えずふたつ。ひとつ、あの下に埋まってるのは、本当に価値が有るものだということ。ふたつ、あの狼どもがイカレだという可能性、だ」

 そして、おかしなこと。

「あのタケさんという男、只者じゃないはずだ。昔戦場で戦ってきた俺には分かる。あれも、人間同士の殺し合いを経験したことがあるクチだ」

「何故、それが分かったの?」

「あの男、最初の狼の頭が吹き飛んだ後、すぐに退避行動を取りつつ周囲に目配せをした。あれは銃のマズルファイアか、スコープが反射する光を探す行動だ。つまり、昔狙撃の現場に居合わせたことがあるか、そういった特殊部隊で訓練を積んだ男だということだろう」

 本当はそんな理由づけするまでもなく、そのナイフさばきを見て、大体の察しはついていたのだが、それは敢えて言わない。今の時点では、言う意味も無い。

 彼は間違いなく強者だ。それこそ、たかが狼ならば、たしかに相手が多いとはいえ、俺が到着した時点で数匹は排除できていてもおかしくない。

「それが手こずるような相手? 基本的に、技術は本能を上回る。それが出来なかったということは、狼も技術的な戦闘をしていたということ」

 それはつまり。


「この一件、間違いなく人為的なものだ」


◆◆◆


 青白い燐光を放つその獅子は、強かった。

 絶対防御たる竹林晴臣の祝福を貫く程度には、強かった。

「ぐはっ……」

 獅子の巨体から繰り出されるタックル。平均より大きめの晴臣の体ですら、数メートル吹き飛ぶほどの威力だ。

 獅子はゆったりと晴臣に歩み出す。己こそが王者と言わんばかりに。

「くそ、ムカつくなァ。オマエ。軍隊時代にもいたな、そういう後輩が……」

 晴臣が軍隊に居た時、突如所属してきた若い男。

「俺より若い癖に、俺より強いんだもんなあ。格闘技では勝てない、射撃の腕でも勝てない」

 あいつは格闘技の模擬試合で私を吹き飛ばした後、ゆっくりと歩を進めるのだ。

「普通は、すぐに関節決めるところだろう、と思ったな、私は」

 あの余裕が嫌いだった。

「でも」

 勝てることが一つだけあった。

ナイフ(こいつ)の腕だ。私はこれで負けたことはない。一回も、だ」

 立ち上がる。それこそが竹林晴臣の矜持。全てを守護する正義。

「だから私は、オマエみたいな生意気に、負けるわけには行かないんだよ!」

 両のナイフで斬りかかる。しかしそれも、獅子に届かない。

 この感覚は、覚えている。最後の模擬戦だった。今までナイフ格闘では負けたことのない晴臣は、その後輩に一度だけ、負けそうになった。あの感覚。

 そしてそれと同時に思い出す。その後輩の特技を。

 あの、無謀とも、人外技とも思える2キロメートル狙撃を達成できる、心当たりに。


「……まさか、蓮。オマエ、本気で『彼女』を探しに来たのか?」


 本来ならば、その言葉に答える者は一人も居ないはず。なぜなら、此処にあるのは、晴臣と、獅子の気配だけなのだから。

 だが、それに答える声は、確かに存在した。


「ああ。そうだよ、晴臣さん。俺は、来た」


 獅子の死角から、その首にナイフが突き立てられた。

 初めて、獅子が咆哮を上げる。


◆◆◆


 ナイフを突き立てた後、蓮は獅子から離れる。

「今だ! 美夜! 弾倉マガジンの中身、全部叩きこめ!」

「言われなくても!」

 照準は軽く合わせるだけでいい。引き金一つで、命中精度は弾数がカバーしてくれる。それがサブマシンガンという武器だ。

 引き金を引く。連続的な破薬音と共に、排莢口から薬莢が次々と飛び出る。飛び出る薬莢一つごとに、1発の弾頭が獅子に一つの傷をつける。

 そしてその連続的なマズルファイアが消えると、硝煙の匂いが立ち込めた。


 そして硝煙の影でうごめくのは、獅子の影。


「まだ生きてるの!? 化け物ね、ほんとに……」

「こんなのばっかりなのか? この魔境は?」

「そんなんだったら、私はもうとっくに死んでるわよ。このでかいネコ科が特別なだけよ」

「はッ、そいつは俺も運が無い」

 蓮はナイフを構える。それは軍に居た頃、幾度と無く繰り返した構え。

「晴臣さん、いつまで寝てるんだ? アンタのほうが、コイツの扱いは上手かっただろう?」

 腹部を赤く染めた晴臣は、にやり、と笑った。そして、立ち上がる。

「オマエのその挑発じみた言い回し、もう聞けねえから清々した、と思ってたが……」

 再び、ナイフを構える。

「まだ、そう簡単にはいかないな」

 再び、意思の赤が、晴臣の目を染める。今までの赤よりもさらに赤い、強靭な意思。

 その様子を見た蓮も、にやりと笑う。

 蓮の目からも立ち昇る。真紅の意思が。晴臣に比肩する、赤い赤い、強靭な意思。

 元、同部隊の二人組バディだった彼らの連携に必要なのは、一言だけ。


 行くぞ。


 蓮と、晴臣の声が重なる。


「「宣誓する!」」


 意思の燐光が、彼らの目からスパークする。


「『不動の排斥者(ユースティティア)!』」「『かく示された(Q. E. D.)』!」


用語解説


『軍隊』:この時代、自衛隊は防衛軍になっている。東京崩壊以降、『永久不可侵』の調査のために送り込まれた特殊部隊も居たようだが……?

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