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排斥する正義

「19匹目、クリアー」

 蓮はそう言って、スコープから顔を話した。その目にはもう、祝福の赤い光はない。

「俺の仕事はここまでだ。後は美夜、お前の仕事だ」

 美夜は頷く。そんな事は言われなくても分かっていた。

「わかってる。いつまでもタケさんに負担かけるわけにも行かないし、何より」

 早くしなければ、培養されているウイルスが、一帯に拡散してしまう。

「2キロの距離だ。戦闘に使える余力を残して、5分で行けるか?」

 蓮の質問に、美夜は笑う。

「余裕よ」

 狙撃のために移動した此処は、高いビルの屋上だ。まずはビルを下り

 太陽は顔を引き攣らせた。

「え、俺、長距離移動は得意っすけど、長距離を走るのはちょっと駄目なんすけど……」

 しかし、そんな太陽を気にする者はここには居なかった。彼の意見は黙殺される。

「行くわ」「ああ」

「ちょ、待ってくださいよ二人共!」

 3つの影が走りだした。


◆◆◆


 話は1時間ほど前に遡る。 竹林たけばやし晴臣はるおみは焦っていた。

 弾薬庫から弾丸の入った箱を選び出している途中、急な爆音が聞こえたのが事の発端だった。不意の爆音は明らかに火気のないはずの演習用のエリアから聞こえてきた。

「今の……。マズイんじゃないか。少し、私が見てくる」

 そう太陽に言って、顔を少し出すと、そこに居たのは狼たちの群れ。

「攻撃系の祝福持ちで、しかも肉食獣。厄介極まりないな」

「どします、タケさん。今日は切り上げて、帰えるっすか?」

 そうだな、と呟きかけて、晴臣はふと、狼たちの様子に不自然なモノを感じた。

「……アイツら、地面を掘り返してないか?」

 そう言われて太陽も狼をつぶさに観察しだす。確かに、狼たちはその爆発を使って、地面を掘り返しているようにも見える。

「そっすけど、それがどうしたんすか?」

 晴臣は『外』から来る以前、軍隊に所属していた。だから、この基地についても少し知っていた。

「今あいつらが掘っている下、確か、生物兵器として研究されてる、ウイルス培養施設がある」

「それって、ヤバイんじゃないっすか!?」

「ああ、ヤバイだろうな。だから、私が止めに行く」

 そう言って、晴臣は両足のホルスターから大ぶりのアーミーナイフを引き抜き、両手にそれぞれ逆手で持つ。ソードブレイカーと呼ばれる、刃の背にギザギザとした棘がついたタイプだ。

「お前は一度戻れ。私一人では流石にキツイ。お前は、譲と美夜を呼んで来い。4人ならぎりぎり対処できる……か、いや……」

 晴臣は首を横にふる。今は可能だとか、不可能だとかを考えている場合ではない。ウイルスが拡散してしまっては取り返しがつかない。やるしか無いのだ。

「兎に角、私一人でも抑えきれるだろうが、抑えきれるだけだ。いつか限界が来るし、殲滅はどちらにせよ必須事項。わかるな?」

「わ、わかるっすけど……」

「ならば早く行け。時間がない。私は行く」

 そう言って晴臣は駆け出す。

「行くぞ狗野郎――」

 駆け出す晴臣を見て、終ぞ太陽も決意を固めたようだ。太陽はその祝福でその場から姿を消した。それを後ろ目に確認した晴臣は両腕に力を込める。晴臣の役割は殲滅ではない。狼をアトラクトして、少しでもウイルス培養施設に到達する事を遅らせることだ。

 だから叫ぶ。それには己を鼓舞する意味もある。

 天を衝く大音声。狼たちの注意が、晴臣に向く。予定通り。晴臣は駆ける。

 

 意志の力が呼応する。その目から迸るは、紅の燐光。

「対象は狼、守るべくは人々の生命、我が持つは盾、全てを切り裂き、守りぬく最強の盾――」


 叫べ、その祝福の名を。

「――宣誓する、我が祝福の名!『不動の排斥者(ユースティティア)』!」


 瞬間、晴臣が握る2本のナイフの周囲が、空間ごと放射状に歪む。

「喰らえ、ワン公!」

 晴臣がナイフを振るうが、しかしそれが狼に届くよりも早く、狼が発生させた爆発が晴臣を襲う。

 轟音。熱量と爆風が晴臣に襲いかかる。しかし、

「効かないよ、そんなヤワな攻撃は」

 そのナイフの周囲に展開された放射状の空間の歪み。それを境界にして、その爆発が押しのけられる。それこそ、その境界の内側から排斥されるように。

「このナイフより後ろは絶対空間だ。お前の攻撃も、攻撃でない何かも、これより後ろには届かない」

 最も、お前のような犬には分からんだろうがな。と、そう言って晴臣はナイフを弄ぶようにくるくると回す。

「まあ、ここより後ろは。私より後ろは、私にとっての守るべきものということだ」

 つまり、だ。この放射状の境界は。この晴臣の祝福は。

「私にとっての矜持。私にとっての誇り、私にとっての正義ユースティティアということだ!」

 ナイフが振るわれる。突き立てられるナイフに従う放射状の境界線は、防御だけでなく攻撃にも転用できる。その境界線より内側に侵入できないということは、つまりそのナイフは全てを切り裂く刃足りえるということだ。

 しかし敵もさるもの。狼の群れはその攻撃を、爆発によって防ぐ。だが晴臣は余裕を崩さない。

「食い止めるっては言ったが……」

 笑う。強制的な戦意のために。

「倒してしまっても、構わないからな」


◆◆◆


 そして今。狼の予想以上の粘り強さに、晴臣は正直に言って焦っていた。

 晴臣が受けたダメージは皆無と言って良い。狼にも着実にダメージを蓄積させている。だがしかし、狼を仕留め入れない。そして地面は、更に掘り進められている。

(何だ、この狼たちの動きは? あまりにも洗練されすぎている。まるで誰かの指示を受けて動いているかのようだ……)

 誰かの指示。そういえばそうだ。狼たちが地面を掘り進める意味は何だ。もし仮に、彼らが己の意思のままに動いているのならば、本能通りに、餌である晴臣を狙うはずだ。

 しかし地面を掘ることを優先している。目的は地面の下にあるのか、まさか。

「……まあ、どちらにせよ、太陽が応援を呼ぶまで、粘りきらんとな」

 そうして駆け出そうとした、その時。

 爆音。音を切り裂くような甲高い音。それと共に狼の頭が吹き飛んだ。

「何だ!?」

 立て続けの音。それとともに、また一匹、また一匹と、狼の頭が吹き飛んでいく。

 元、軍部出身の晴臣は、これと似たようなモノを見たことがあった。

「狙撃か! だが、一体何処から……」

 狙撃によって生まれた余裕。その余裕で辺りを見回す。見えた。2キロはあろうかという先のビルで、スコープのレンズが太陽光を反射する独特の光を見つけた。

「馬鹿な!? 2キロの狙撃をこの精度で!? 一体どんな手をつかったんだ、太陽?」

 だがしかし、

「太陽が頑張ってくれたんだ。私も一匹ぐらいは、刈り取らないとな」

 仕事は変わらない。ならば晴臣はナイフを振るい続ける。


◆◆◆


 基地に向かって走り続ける3つの影。

「ちょ、ちょっと。二人共、待って、ください、よ……」

「何よ、太陽。ダラシがないわね。喋ると余計に疲れるわよ」

「ん? 太陽はお得意のテレポートを使えばいいんじゃないのか?と、言うか、俺達を運べるよな?」

「いや、もう、3回めの、テレポート、なので、さっきのが……」

 成る程。行きで1回、戻って来て2回、さっきので3回という訳か。やはり使い勝手の悪そうな祝福である。より強い意志があれば、或いはもっと強力な祝福になるのだろうか。しかし、瞬間移動に強い意志が必要なほどの目的を持てるかというと、無理があるかも知れない。

 ここでふと、蓮は気付く。目的。そうだ、目的といえば。

「何で、狼たちは地面を掘ってるんだ?」

「決まってるじゃない、それは……、あれ、何でかしら」

 蓮は嫌な予感を感じた。それは昔も感じたことのある、嫌な予感。

「嫌な予感がする。急ぐぞ」

 走る。なにかマズイことが起こっているという、焦燥とともに。


用語解説


不動の排斥者(ユースティティア)』:竹林晴臣の祝福。自分の体の延長線上に放射線状の境界線を作る。この境界線を境にした内側には、何人たりとも進入することが出来ない。


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