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デュアル・クロニクル other story  作者: 不破 一色
第一章
9/10

1-6

 正確なところは分からない。

 けれどこっちで、色んな種族を実際に目にしたし、そのハーフやクオーターも居る。

 見た目だと、人と全く変わらない種族や人さえ居る現実からは、むしろあっちで当たり前とされていた常識が、音を立てて一気に崩れて行く様な印象を受けた。


「あっちでどうかは知らんが、こっちの定義では、人という括りは広いから、どの種の血が混ざっているかなど、あまり関心事では無いのう。

 それよりも個々として、生きて行く上でどうかという事こそが重要じゃからな」

「人かどうかは、あまり問題じゃ無いと?」

「人という定義自体、所詮は他との比較結果でしかないからのう。人であろうと無かろうと、自身は自身じゃろ? それ以外に意味はあるとも思えんよ」


 そう言われちゃうと、そうだけどさ。

 でも、人として生きて来て、今更純粋な人じゃないとか言われても・・・ねえ。

 何か違和感が。

 ・・・ああ、そうか。これまで持っていた前提と違うからって言う違和感なんだ。別に人間至上主義思想を持ってる訳じゃないからか、忌避感を感じる訳じゃ無い。

 なるほど、人では無くて人間族な訳ね。


「うん、私は聞いちゃってショックと言うより、初めて知ったから違和感を感じてるだけね。

 だからって何か困る訳でも無いし」

「あ~、うちもそうかも?

 元々人だからって意識して生きて来た訳でも無いもんね」

「ん。そっか」


 あれ? 薫は反応薄いわね。って、そもそも薫は、自分が人じゃない事を知ってたのよね。だから、私達が似た様なものでも違和感無いのか。


「ふむ、お嬢さん方はしっかりしてるのう。

 来訪者の中には受け入れられず、問題が生じる場合も多いと聞くがな」

「あ~、分からなくも無い、かも?」

「そうね。気持ちは分かるわ。

 ただ、だからと言って何が変わる訳じゃ無いし、こっちに来たからって事もあるけど、純粋な人よりは都合良いとも言える訳よね」


 能力的に低い、純粋な人だったら、対処するにも今以上に困る事になってただろうし、みんなの足を引っ張る事になってたでしょうしね。


「で、雅章さん的にどうなのかしら。

 私達では此処を出るのに不足?」

「不足とは言わんが、やはり経験が足りんのう」

「そりゃね、こっちに来て未だそんな経って無いから、戦闘経験はねぇ」

「何か勘違いしとる様じゃのう。

 儂が言っているのは、根本的な知識、あるいは常識といった類の経験じゃよ」


 そう、私達は大きな勘違いをしていたらしい。

 あっちと違って・・・いえ、あっちの日本と違って、かな。こっちでは同じ様に武器の所持を規制したとしても、魔法等の術があるし、魔獣なんて言うのも居るから、普通に暮らしていても戦いから逃れる事は難しい。

 だから戦い方や、戦う方法を知って、強くならないと居住地の外に出て、色々調べて回るのは無理だと思っていたんだ。

 でも、雅章さんによれば、デュアル・クロニクルでのステイタスが引き継がれているから、戦い方を知らない私達でも、こっちでは相応に戦う力を持っているらしい。

 しかも私達はそこから、短い期間だけれど訓練したし、技も身に付けたから、そこそこ戦える手段は持っているみたい。とは言っても、実戦経験が足りない分、そして何より、こっちでの経験が不足している分、厳しいと言われた。

 デュアル・クロニクルのユーザーとして飛ばされた来訪者の平均レベルは百超えだったからか、そのままでも戦闘力だけで言えば上位に手が届く段階らしい。こっちでの一般的な兵士、つまりは衛士衆や与力隊でも平均中位で、新兵ともなれば下位も居るらしい。

 そして、今の私達は既に上位で、こっちで言えば隊長格以上らしい。けれど、個人としては中位。

 これは、仙術で個々の段階を知る事が出来る術があるらしいので、間違いでは無いんだろうから、結局、こっちに飛ばされてから技を得たりとかしたのに、ほとんど変わっていないという事。


「普通に考えれば、運が悪くなければ各地を回る事は出来るじゃろうな。ただ、最近は来訪者を狙った人攫いも居るからのう」

「来訪者狙い?」

「お嬢さん方と一緒じゃよ。

 来訪者は基本的に、こっちでの常識に疎い分、騙し易いんじゃ。

 特にここ半年は来訪者の数も、年若い者も多いから、狙う連中も出て来ておる訳じゃ」

「そっか、ゲームプレイヤーだから、年齢層も若いのが多いよね~」

「ふむ。年若い者が多いのは、げーむとか言うものに関係するのか。

 事はどうあれ、男であろうと、女であろうと、年若い方が高い値で売れるからのう。しかも来訪者は、こっちでは定住するに至っている者も少ないし、横の繋がりも薄いからのう。姿を消しても表に出難い。

 戦闘力がそれなりに高かろうと、隙を見て状態異常にでもすれば良いんじゃから、裏売りする対象としては狙い目、と言う訳じゃ」


 私達の知識は、ベイセルさんを始めとした衛士衆からの情報、つまりは一般的なものでしか無い。けれど、今、目の前に居るのは、ここ日之本に六人しか居ない、国内トップ頭脳の内の一人だから、知識や情報に差が有るのかも知れない。

 裏売りと呼ばれる、違法な人身売買に関しては聞いた事があったけれど、来訪者狙いというのは正直知らなかった。

 多分、一般的な情報とは相当違う実状が有るのだろう。

 違法行為なんだから、そういう事が有ってもおかしくは無い・・・かな。


「詳しく、そこのところ聞きたいんだけど、それ以前に、経験不足について教えて欲しいわね」

「ん。同意」

「簡単な話しじゃよ。

 ベイセルの所で出会った時に、お嬢さん方を『見目良いお嬢さん方』と、儂が言ったのは覚えとるかな?

 特に反応無かったから、覚えておらんかも知れんがのう」

「あ~、覚えてないかも」

「私もそうね」

「ん、記憶に無い」

「先ずそこが一つじゃな。

 『見目良い』と言われて反応が無いのは、それを自覚しているか、単に世辞と受け取る程度で自覚が無いかじゃろ。

 自覚がある場合、言われ慣れとるからの反応じゃろうが、当然、言い方は悪いが売り物として都合が良い。世辞の場合は、多くは逆に自覚が無い場合が多い。

 どちらにしろ、お嬢さん方は戦う力を高める事は考えて来たけれど、狙われる対象としての対策に関しては、あまり高めてはおらんじゃろ? 裏売りに関わる様な連中からすれば、それは狙い目、と言う事になるわけじゃよ。

 つまりは、運が悪ければ危険性が高く、戦いだけを見ても経験不足、という訳じゃな」

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