1-3
「ほう、大鎌は残留魂跡の物質化か。
それに魔神化とは珍しい。
扇に込めての発現力も、相適応は必要か。
ふむ、三人とも来訪者じゃったな。その割には珍しい血を引いている様じゃのう。
いや、覚醒発現の可能性もあるのか?」
私達の本気の状態を見ても、雅章さんの態度に大きな変化は無かった。
それどころか、この状態で何か考える余裕さえ伺えるのは、これでも余裕という現れなのか、それとも仙である事での起伏の無さによるのか。
それに、薫は見た目が変わっているんだからともかくとして、紗弓と私は単なる能力と言うか、技術でしか無い筈。
とは言え・・・。
「何か、傷付くわね」
「何がじゃ?」
「私達の本気の状態が、軽く流されている事実によ」
「おお、すまんな。
じゃが、お嬢さん方は未だ、その力を使いこなせていない様じゃし、自身への自覚も薄い様じゃからな」
使いこなせていないのは事実だ。
何しろ未だ、教えて貰ってから一ヶ月くらいしか経っていないんだから。
でも、自覚って?
「どういう意味かしらね?」
「黒龍と白龍は、教えておらんのか。
とは言えそうか、受け入れ切れるかどうかもあるのかのう」
?
何だろう? 紗弓や私にも、何かあるって言うのかしらね。
どっちにしても・・・。
「相対した状態で、何か考えていられるその余裕がむかつくわ。
詳しく教えて貰うわよ。力尽くでねっ!」
私は閉じたままの鉄扇を雅章さんに向けると、イメージを解放した。
瞬時の発現によって、雅章さんを取り巻く様に、手にしている鉄扇と同じに見えるものが現れる。その数は九。
実際には外見こそ同じに見えても、その本質は風、火、金、水、土の五属性と、それらの間に入り結ぶ効果を持つもので、何でも精霊とかそういうのと近い構成体で出来ているとか何とか・・・私は所詮一般人だから、全然分からない何かで出来たものらしくて、手にしている鉄扇とは別物らしい。
雅章さんを取り巻く様に現れた扇状のものが開き、各属性の五つの羽根が抜けると、羽根の持ち手側、尖った部分が雅章さんの方を向き、残った骨組み部分が地に落ち刺さる。
残る四つの繋ぎ(?)のものは、開いたまま留まっている。この位置取りが出来る様になる迄、かなり苦労したのは内緒。
配置が完了したのを確認したのか、あるいはほんの数秒の事なので信用してかは分からないけれど、薫が術を発動して、地に刺した骨組みの一つに当てると、他の三つの骨組みへと術が広がり、瞬時に宙に浮く、四つの繋ぎ用の扇にも伝わって、雅章さんを封じ込めると、五方から各属性の羽根が一斉に突き進む。
羽根が動いたのとほぼ同時に、紗弓が走り寄り、両腕を大きく外側に広げる様に振り抜くと、宙に浮いた大鎌が連動する様に、中央でクロスするかの様な軌跡で振り抜かれた。
ほぼ同時に私は、手にしていた鉄扇を頭上に上げてから、大きく振り下ろすと、鉄扇の羽根が全て飛んで行き、封じ込める様になっていた薫の術を巻き込んで行く。
紗弓による大鎌は、黒い刃の方が闇、白い刃の方が光の特性を持つと説明されていて、その効果は闇--対象と認識した相手の術等の力--を吸収し、光--黒い刃で吸収された力--を放つらしい。
薫は、片親が外国人と言うか、魔族とされる人種とのハーフらしく、種族特性の術が使える。
そして私の五属性の羽根。
対象と認識した相手の術等にっても変わるけれど、複数の異なる特性の攻撃を一気に行う、三人による連係攻撃技だ。
この練習に半月くらい、かなり頑張った自信作でもあるんだけどね。
この連係技の欠点は・・・。
『ッゴウン』
重い、どことなく金属質さえ感じる様な音と共に、雅章さんが居た筈の辺りを中心として、周囲が荒れ狂う。
様々な属性、特性が収束されて、爆発とも違う、何だか分からない破裂の様な衝撃が四方に飛ぶ。そして私達も後方にはね飛ばされた。
地に刺さった骨組み部分で、外側に来る分の衝撃波を減退させる術が発動していても、私達をはね飛ばす程度の威力が来る。
「これ、結構キツイのよね・・・」
呟きながら起き上がって、呆然とした。
視線の先には、平然と無傷で立っている雅章さんの姿があった。
「ふむ。開始から発動まで三秒もかからんとは、なかなか有効じゃのう。
ただ、攻撃後に自分達が体勢を崩してしまうと、反撃に対応できんな」
「いやいやいや、あの威力で無傷とか、おかしいからっ!」
「別に、儂の様に無傷でなくとも、仕留め切れて無ければ反撃の可能性はあるじゃろ?
受ける衝撃を減らすか、受けた後で崩した体勢を戻すまでの時間短縮、あるいは反撃を考慮した防御術の連動発動等、改善点はあると思うが?」
「てか、何で無傷なのよっ」
「誰でも、痛い目には嫌じゃろ?」
「そうじゃなくてっ!」
痛い目に遭いたくなければ、攻撃を受けなければ良い。それは正しいけど、所詮理想よね?
極論を、正当だと言われても・・・ねぇ。
「そもそも、属性や特性の違いなど、防ぎ難いだけじゃろ。
受ける時がある程度分かっていれば、防ぐ事も可能じゃな。流石にあれが四半刻--十五分程--も続くとなれば、厳しいがな」
はあ、そうですか。
お強い事で。
「ねえねえ雅章さん。
どうやって防御したの?」
「防御なんぞして無いぞ?
仙術はそもそも、内なる力ではなく、外の力を用いる術式じゃ。
お嬢さん方が属性や特性を幾ら絡み合わせ様とも、それが自然に類するものであれば、そのまま返せば儂には何の影響も無いからのう」
内なる力、つまりは自分が持つ能力では無く、外の力、つまりは自分に向けられていた私達の攻撃そのものを使った訳ね。
私達が用いたのは、疑似的に自然にあるものを模倣構築した結果だっけ? であれば、内容的には自然の影響と同意。
自然物なら十全に働くリフレクターみたいなものってわけね。
「あれ? でもさ~、真桜ちゃんが投げた鉄扇の羽根は?
あれって自然物じゃ無いよね?」
ちゃん付けするな。
でも、紗弓が言う通りね。
「儂の衣にも、防御効果くらいはあるぞ。
そこで止まっている間に、お嬢さん方の術の破裂衝撃で吹っ飛んだわい」
仙人無双(ぇ?w
主人公が無双を前提なんて、誰が決めた?
脇役の方が強かろうと、関係無いね(マテw
・・・師匠役は、強くないと話しにならないからねぇ。